〔三‐3〕 ストーキング・トリオ
無粋な輩が三人いる。彼らは通路の角に隠れて、手を繋ぐ男女を尾行している。
「ケン、何故ソワソワしテル?」
片や楽しそうに、片や恥じらいながら歩を刻む二人を、普段と違った様子で注視しているケンに、ウヌバは純粋な気持ちで訊いた。
返ってきたセリフはいつものように、「し、してねぇよ。黙ってろよコノヤロー、バカヤロー……」と口汚いものの、どこか覇気に欠ける。気も漫ろである。
そんな彼らを率いるチームリーダーの酒顛ドウジも難しい顔をしている。
「解るぞ、ケン。俺も少し落ち着かないんだよ。エリは娘みたいなもんだからな~」
「一緒にすんじゃねぇ、ハゲ。俺はあのガキが妙な気を起こさねぇか見張ってるだけだ」
「妙な気ってお前、チューか? 手繋ぎは良くても、チューは認めないってかぁっ!?」
「は!? はぁーっ!? そ、そんなんじゃねぇし、意味分かんにぇっ!」
「にぇって何だ? 動揺しているじゃないか!」
「するかバーカ! ハゲバーカ!」
グハハハと高らかに笑う酒顛に、ケンは顔を真っ赤にして怒った。
酒顛はここぞとばかりにからかおうとしたが、「チュー?」とウヌバが首をかしげた。
「大好きな聖書ででも調べとけよ、るっせぇな」
やはり尾行するのに余念がないらしいケンは、木で鼻を括ったような態度でウヌバが大事そうに抱えている一冊の分厚い本を指差した。何度も読み返しているのだろう、すっかり擦り切れているその本の表紙には、国語辞典と記されている。
ウヌバはそれもそうだといった顔をして、「カミ、教えチョウダイ」と頭上に掲げてからページを捲りはじめた。強面の顔の中で純朴な瞳をキラキラと輝かせていた。
かつてこのように期待と希望に満ち溢れた顔で辞書を引く者がいただろうか。しかも調べ物の内容は、“チュー”である。
どこからか降り注ぐスポットライトに照らされる彼に、楽しそうで何よりだと二人は如才ない笑みを返した。