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9 骨、守るものを問われる

森の奥。

湿った土の匂いと、草の擦れる音。


〈ゴブリンリーダー〉

「この辺りは、人間がよく来るであります」


〈レイセル〉

「採取か?」


〈ゴブリンリーダー〉

「薬草でありますな」


そのとき。

茂みの向こうで、人影が揺れた。

腰の曲がった老人が、ゆっくりと草を摘んでいる。


〈レイセル〉

「……あれが?」


〈ゴブリンリーダー〉

「であります」


リーダーは迷いなく木剣を構えた。


〈ゴブリンリーダー〉

「ちょうどいいであります。試し斬りに最適」


〈レイセル〉

「……最適?」


〈ゴブリンリーダー〉

「若いのや子どもは面倒であります」


〈レイセル〉

「面倒?」


〈ゴブリンリーダー〉

「消えると騒ぎになるであります。討伐隊も来る」


淡々とした説明。

〈ゴブリンリーダー〉

「だが、年寄りは違うであります」


一歩、前に出る。


〈ゴブリンリーダー〉

「減っても、あまり問題にされない」


足が、動かなかった。


〈レイセル〉

「……おい」


声が、思ったより低く出た。


〈ゴブリンリーダー〉

「どうしたであります?」


〈レイセル〉

「それが……普通なのか」


〈ゴブリンリーダー〉

「普通であります」

即答だった。


老人は、こちらに気づいていない。

ただ、黙々と草を摘んでいる。


何も知らずに。

何も構えずに。


〈ゴブリンリーダー〉

「行くでありますよ」


リーダーが踏み出す。


その瞬間──


〈レイセル〉

「待て」

骨の手が、リーダーの腕を掴んだ。


〈ゴブリンリーダー〉

「……離すであります」


〈レイセル〉

「ダメだ」


〈ゴブリンリーダー〉

「訓練であります」


〈レイセル〉

「これは訓練じゃない」


少しだけ、力を込める。

その瞬間。

ミシッ、と音がした。


〈ゴブリンリーダー〉

「……?」


リーダーの腕が、止まる。

いや──

止めているのは、俺だ。


〈レイセル〉

「……行かせない」


自分でも分かる。

力が、さっきまでと違う。

骨が軋まない。


むしろ──

内側から、何かが支えている。


〈ゴブリンリーダー〉

「……力、上がってるでありますな」


それでも、リーダーは動こうとする。

筋肉が軋み、地面が沈む。


だが──

動かない。


〈ゴブリンリーダー〉

「スケルトン殿」


声が少し低くなる。

〈ゴブリンリーダー〉

「なぜ止めるであります?」


〈レイセル〉

「……」


言葉が出ない。

理由なんて、分からない。

ただ──


斬れなかった。

それだけだ。


そのとき。


〈セレナ〉

「十分です」

静かな声。


いつの間にか、背後に立っていた。


リーダーは、ふっと力を抜いた。

〈ゴブリンリーダー〉

「了解であります」


あっさりと引く。

俺も手を離した。


老人は、何も知らないまま森を去っていく。

その背中を、しばらく誰も追わなかった。


三人は黙って拠点に戻った。

焚き火の前。


しばらく沈黙が続いたあと、セレナが口を開く。

〈セレナ〉

「レイセル様」


〈レイセル〉

「……なんだ」


〈セレナ〉

「私は一度、魔王城へ戻ります」


〈レイセル〉

「戻る?」


〈セレナ〉

「魔王城での業務と……報告です」


その視線が、まっすぐこちらに向く。

〈セレナ〉

「レイセル様」


少しだけ、間を置いて。

〈セレナ〉

「あなたにとって──」


焚き火が、ぱち、と鳴る。

〈セレナ〉

「守るべきものは、どちらですか?」


すぐには理解できなかった。


〈レイセル〉

「……どちらって」


〈セレナ〉

「魔王軍か」


一拍。


〈セレナ〉

「人間か」


言葉が、出ない。

さっきの光景が、頭に残っている。

老人の背中。


リーダーの言葉。


自分の手。


〈レイセル〉

「……俺は」


だが──

続かない。


セレナは、静かに頷いた。

〈セレナ〉

「今は、それで構いません」


くるりと背を向ける。

〈セレナ〉

「ですが」


足を止めずに、言った。


〈セレナ〉

「早いうちに決めてください」

振り返らないまま。


〈セレナ〉

「でなければ──」


ほんのわずか、声が低くなる。

〈セレナ〉

「必ず、後悔します」


転移の光が、静かに消える。


残されたのは、

焚き火と──

答えを持たない俺だけだった。

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