8 骨、管理された森で
森の中。
拠点から少し離れた開けた場所で、俺は木剣を構えていた。
〈ゴブリンリーダー〉
「今日は実戦形式であります」
〈レイセル〉
「また素振りじゃないだけマシか……」
右腕の接合はまだ甘い。
強く振れば、また外れる。
茂みが揺れた。
現れたのは──小型の狼型魔物。
〈ゴブリンリーダー〉
「フォレストウルフ。昨日より少し強いであります」
〈レイセル〉
「ちょうどいい」
今度はちゃんと当てる。
踏み込み、振る──
ガギッ!
〈レイセル〉
「なっ……!」
弾かれた。
ウルフが低く唸り、横から飛びかかる。
〈ゴブリンリーダー〉
「遅いであります!」
リーダーが石を投げ、軌道を逸らす。
〈レイセル〉
「助かった……」
〈ゴブリンリーダー〉
「助けたであります。訓練で死なれては困るであります」
さらっと言うな。
もう一度、構える。
今度はタイミングをずらす。
相手が踏み込む瞬間に──
斬る。
手応え。
ウルフはそのまま地面に転がった。
しばらくして。
動かなくなったウルフを前に、俺は息を整える。
〈レイセル〉
「……倒したな」
だが、違和感があった。
〈レイセル〉
「……少なくないか?」
〈ゴブリンリーダー〉
「何がであります?」
〈レイセル〉
「魔物だよ。こんな森なら、もっといてもいいだろ」
静かすぎる。
さっきの一体だけ。
それが妙に引っかかる。
リーダーは、少しだけ考えてから言った。
〈ゴブリンリーダー〉
「……調整しているであります」
〈レイセル〉
「調整?」
そのとき──
〈セレナ〉
「説明しましょうか」
まただ。いつの間にかいる。
〈レイセル〉
「気配消すのやめろ」
〈セレナ〉
「効率的ですので」
そういう問題じゃない。
セレナは倒れたウルフを見下ろす。
〈セレナ〉
「この周辺の魔物は、増えすぎないよう管理しています」
〈レイセル〉
「管理……?」
〈ゴブリンリーダー〉
「増えすぎると、強いのが来るであります」
〈レイセル〉
「強いの?」
〈セレナ〉
「はい。人間の“討伐隊”です」
その言葉で、繋がった。
〈レイセル〉
「……ああ、なるほどな」
〈セレナ〉
「魔物が増えすぎれば、人間は本気で掃除を始めます」
淡々と続ける。
〈セレナ〉
「そうなると、この拠点も無事では済みません」
〈ゴブリンリーダー〉
「前に一度、半分消えたであります」
軽く言うな。
〈レイセル〉
「じゃあ……逆に減りすぎたら?」
セレナがこちらを見る。
ほんのわずか、間を置いて。
〈セレナ〉
「問題ありません」
〈レイセル〉
「ないのか?」
〈セレナ〉
「人間は、“安全”だと判断すると増えますから」
その言葉に、少しだけ引っかかった。
〈レイセル〉
「増える……?」
〈セレナ〉
「はい。開拓、移住、商人の往来……」
指を折りながら数える。
〈セレナ〉
「結果として、活動量が増えます」
〈レイセル〉
「……それが?」
セレナは、ほんの少しだけ微笑んだ。
〈セレナ〉
「魔力回収の効率が良くなります」
沈黙。
風が木を揺らす。
さっき倒したウルフの死体が、やけに軽く見えた。
〈レイセル〉
「……お前ら」
言葉を選ぶ。
だが、うまくまとまらない。
〈レイセル〉
「どこまで計算してるんだ」
〈ゴブリンリーダー〉
「難しいことは分からんであります」
リーダーは肩をすくめる。
〈ゴブリンリーダー〉
「ただ、“減らしすぎるな”とだけ言われてるであります」
〈セレナ〉
「持続しないので」
即答だった。
〈レイセル〉
「……やってること、畑と同じじゃねえか」
種を残し、刈りすぎず、増えすぎれば間引く。
目の前の森が、急に“自然”じゃなく見えた。




