6 骨、旅立つ
魔王城の転移室。
巨大な魔法陣が淡く光り、冷たい空気が漂っている。
その中心で、俺──スケルトンのレイセルは、
ヴァルシアと向き合っていた。
〈ヴァルシア〉
「期待はしておらぬが…………まあ、元気でやるのじゃ」
言葉は素直じゃないが、
小さな角が下を向いている、どう見ても心配そうだ。
〈レイセル〉
「心配するな。必ず強くなって戻る」
〈ヴァルシア〉
「べ、別に心配などしておらん!
ただ……弱すぎて途中で砕け散らぬかだけが心配なだけじゃ!」
それを心配と言うんだが。
セレナが横で静かに頭を下げる。
〈セレナ〉
「魔王様、レイセル様は必ず成長して戻られます」
〈ヴァルシア〉
「うむ……期待しておるぞ、レイセル!」
小さな魔王は胸を張り、
俺は骨の手で軽く敬礼した。
次の瞬間──
セレナが魔法陣に手をかざす。
〈セレナ〉
「では、転移します。
目的地は“平和な村近くのゴブリン拠点”。
レイセル様、少し揺れますのでお気をつけて」
〈レイセル〉
「骨が外れないといいが……」
光が弾け、視界が白に染まった。
転移が終わると、
そこは小さな砦のような場所だった。
木の柵。
粗末な見張り台。
焚き火の煙。
そして──
〈ゴブリン達〉
「「「セレナさまぁぁぁ!!」」」
拠点中のゴブリンが土下座した。
〈レイセル〉
「……お前、どれだけ恐れられてるんだ」
〈セレナ〉
「普通に接しているだけですが……?」
いや絶対普通じゃない。
魔王軍はブラックなのか?
その中から、一際大きなゴブリンが走ってきた。
筋肉質で、片目に傷がある。
〈ゴブリンリーダー〉
「セレナ様! お久しぶりであります!
本日のご用件は!」
〈セレナ〉
「状況報告をお願いします」
リーダーは胸を叩き、
拠点の現状を語り始めた。
〈ゴブリンリーダー〉
「最近は弱い魔物が村の近くに出没!
村人はのんびり!
冒険者はたまに来て我々をボコる!
以上!」
〈レイセル〉
「説明が雑すぎる……」
セレナが補足する。
〈セレナ〉
「要するに、村の周辺は安全ですが、
弱い魔物が増えているため監視が必要ということです」
なるほど。
確かに訓練にはちょうどいい。
セレナが俺の方へ向き直る。
〈セレナ〉
「レイセル様。
ここでしばらく鍛えていただきます。
剣の扱い、身体の動かし方、魔物としての基礎……
すべて、ゴブリンリーダーが担当します」
〈ゴブリンリーダー〉
「任せろであります!
スケルトン殿、ついてくるであります!」
〈レイセル〉
「よろしく頼む」
リーダーは俺の骨の腕を掴み、
訓練場へと引っ張っていく。
セレナは少し離れた場所で見守りながら言った。
〈セレナ〉
「レイセル様。
まずは“剣を振っても骨が折れない体づくり”から始めましょう」
〈レイセル〉
「地味だな」
〈セレナ〉
「ですが重要です。
今のレイセル様は、剣を振るたびに骨が軋んでいますから」
……反論できない。
ゴブリンリーダーが木剣を差し出す。
〈ゴブリンリーダー〉
「まずはこれで素振り百回!」
〈レイセル〉
「百……!」
〈ゴブリンリーダー〉
「安心するであります!
骨が折れたらすぐ治すであります!」
安心できるか。
だが──
俺は剣を握り、構えた。
スケルトンでも、魔力ゼロでも。
ここから始めるしかない。
〈レイセル〉
「……よし!やるか」
こうして、
スケルトン勇者の訓練が始まった。




