4 勇者、魔物化したらスケルトンだった
魔法陣が展開され、空気が震えた。
セレナとヴァルシアが、期待に満ちた目でこちらを見ている。
〈セレナ〉
「ではレイセル様。
いよいよ“魔物としての身体”を付与いたします」
〈ヴァルシア〉
「どんな強い魔物が生まれるのか楽しみじゃな!
父上に挑んだ勇者じゃ、きっと凄まじいのが出るぞ!」
二人ともワクワクしている。
……正直、俺も少し期待していた。
魔法陣が光り、魂が引きずり込まれる。
骨が組み上がるような音が響き──
そして。
ガシャッ。
現れたのは──
スケルトン。
ただの、どこにでもいる、
駆け出し冒険者でも倒せる、
最弱クラスのアンデッド。
〈レイセル〉
「…………は?」
〈ヴァルシア〉
「…………は?」
〈セレナ〉
「…………え?」
三人同時に固まった。
〈ヴァルシア〉
「な、なんじゃこれは!?
弱い! 弱すぎるのじゃ!!」
〈セレナ〉
「……スケルトン……?
いえ、何かの間違いでは……?」
〈レイセル〉
「いやいやいや、待て。
俺、勇者だったんだぞ!?
なんでスケルトンなんだ!?」
セレナが慌てて魔力測定の魔法を展開する。
〈セレナ〉
「……あっ」
〈ヴァルシア〉
「どうしたのじゃ?」
〈セレナ〉
「レイセル様……魔力が……ありません」
〈レイセル〉
「…………は?」
〈ヴァルシア〉
「魔力ゼロ!?
勇者なのに!?」
セレナは額に手を当て、深いため息をついた。
〈セレナ〉
「……確認不足でした。
魂の状態で魔力を測るべきでしたね……」
〈ヴァルシア〉
「勇者なのに魔力ゼロとは……
そんなことあり得るのか?」
二人の視線が俺に向く。
〈セレナ〉
「レイセル様。
なぜ勇者でありながら魔力がないのですか?」
問いかけは責めるものではなく、純粋な疑問だった。
俺は少し考え、正直に答えた。
〈レイセル〉
「……勇者ってのは、心の持ちようだろ?
魔法なんて必要ない。
剣と覚悟があれば十分だ」
〈ヴァルシア〉
「……は?」
〈セレナ〉
「……は?」
二人の声が完全に揃った。
〈レイセル〉
「それに……仲間がいたしな。
……裏切られたけど」
静かな言葉だったが、
その一言で空気が少しだけ沈む。
セレナはそっと視線を落とし、
ヴァルシアは気まずそうに頬をかいた。
〈ヴァルシア〉
「ま、まあ……魔力ゼロでも、
魔物として働けぬわけではないのじゃ。
……たぶん」
〈セレナ〉
「ええ。
魔力ゼロのスケルトンは前代未聞ですが……
レイセル様には“勇者としての経験”があります」
〈ヴァルシア〉
「そうじゃ!
経験はきっと活きるはずなのじゃ!
……たぶん」
……“たぶん”が多いな。
だが、
スケルトンでもいい。
魔力ゼロでもいい。
俺はもう一度、立ち上がると決めたのだから。




