16 骨騎士、一人旅のはずだった
魔王城の転送室。
淡い光が床に広がり、魔法陣が静かに脈動している。
〈ヴァルシア〉
「魔王軍のために働くのじゃ。
そしてもっと強くなるのじゃぞ」
〈レイセル〉
「ああ。任せろ」
〈セレナ〉
「ではレイセル様。ゴブリン拠点へ転送します」
〈レイセル〉
「頼む」
光が強まり、視界が白に染まる。
──次の瞬間。
森の匂いと、焚き火の残り香が鼻をかすめた。
〈レイセル〉
「……戻ってきたか」
ゴブリン拠点。
壊れた部分はまだ残っているが、少しずつ修復が進んでいた。
〈ゴブリン達〉
「「「スケルトン殿!? 鎧ついてるであります!!?」」」
一斉に騒ぎ出す。
〈レイセル〉
「落ち着け。進化しただけだ」
〈ゴブリン〉
「だけってレベルじゃないであります!!」
〈ゴブリン〉
「かっこいいであります!!」
〈ゴブリン〉
「強そうであります!!」
うるさい。
そこへ、ゆっくりとゴブリンリーダーが歩いてきた。
〈ゴブリンリーダー〉
「……スケルトン殿。進化、おめでとうであります」
〈レイセル〉
「リーダー。身体はもう大丈夫なのか?」
〈ゴブリンリーダー〉
「問題ないであります。仲間も元気であります」
後ろでゴブリン達が胸を叩いて見せる。
〈レイセル〉
「……そうか。よかった」
そのとき、セレナが一歩前に出た。
〈セレナ〉
「レイセル様。私はこれで魔王城へ戻ります」
〈レイセル〉
「わかった」
〈セレナ〉
「フォレストリア王国の方向だけお伝えします」
セレナは森の奥、南東の方角を指す。
〈セレナ〉
「このまま真っすぐ進めば、湖上都市ミラージュに到達します。
そこから先は……レイセル様自身の判断で」
〈レイセル〉
「……分かった」
セレナ〉
「では、任務の成功を祈っています」
淡い光が彼女を包み──
その瞬間、セレナがふと思い出したように足を止めた。
〈セレナ〉
「……ああ、そうだ。ひとつ、置いていきます」
足元の影が、ぴくりと揺れる。
次の瞬間──小さな影が、ひょこんと飛び出した。
小柄な少女。
小さな角と、コウモリのような翼。
〈???〉
「ひゃっ……!」
着地に失敗し、地面にぺたんと座り込む。
〈レイセル〉
「……なんだ?」
〈セレナ〉
「私の使い魔です。まだ未熟ですが、役には立ちます」
〈???〉
「ちょ、ちょっとセレナ様!? “未熟”は余計です!」
慌てて立ち上がり、レイセルの前で背筋を伸ばす。
〈インプ〉
「は、初めまして! インプのリリです!
レイセル様の監視兼補佐として同行します!」
〈レイセル〉
「監視か」
〈リリ〉
「か、監視“も”です! 一応サポートがメインです!」
〈セレナ〉
「報告役も兼ねています。何かあれば、この子を通じて私に伝わります」
〈レイセル〉
「……なるほど」
〈セレナ〉
「では改めて──任務、お願いしますね」
今度こそ、セレナの姿が光に包まれ──消えた。
静寂。
〈リリ〉
「…………」
〈レイセル〉
「…………」
気まずい沈黙。
〈リリ〉
「……あの、レイセル様」
〈レイセル〉
「なんだ」
〈リリ〉
「その……思ってたより、骨ですね」
〈レイセル〉
「当たり前だ。スケルトンナイトだからな」
監視役兼補佐役のリリが仲間に加わった。
〈ゴブリンリーダー〉
「……スケルトン殿」
リーダーが近づき、胸を叩く。
〈ゴブリンリーダー〉
「自分は一緒に行けないであります。
だが──」
少しだけ笑う。
〈ゴブリンリーダー〉
「いつでも来てくれていいであります。
スケルトン殿は仲間であります」
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
〈レイセル〉
「……ああ。必ずまた来る」
〈ゴブリン達〉
「「「気をつけるであります!!」」」
騒がしい声に背を押されるように、俺は森の奥へと歩き出した。
鎧がわずかに鳴る。
〈レイセル〉
「……行くか」
〈リリ〉
「置いていったら報告しますからね!?」
うるさい仲間だ。
こうして──
俺の“ひとり+1匹の旅”が始まった。




