12 骨、群れを知る
森の中。
壊れた拠点の中央で、レイセルは立ち尽くしていた。
焦げた木柵。
踏み荒らされた地面。
そして──動かなくなったゴブリン達。
風が吹く。
灰が、静かに舞った。
〈レイセル〉
「……くそ」
遅かった。
分かっている。
だが、それでも。
骨の手が、わずかに震える。
そのとき。
〈セレナ〉
「……まだ、生きていますね」
静かな声。
〈レイセル〉
「……何?」
振り向くと、セレナはすでに一体のゴブリンのそばに膝をついていた。
〈セレナ〉
「こちらです」
指し示された先。
そこに──
〈レイセル〉
「……リーダー?」
ゴブリンリーダーが倒れていた。
身体は傷だらけ。
呼吸は──
〈レイセル〉
「……あるのか?」
〈セレナ〉
「かろうじて」
即答だった。
次の瞬間、セレナの手に魔法陣が展開される。
淡い紫の光が、リーダーの身体を包んだ。
〈セレナ〉
「応急処置を行います」
魔力が流れ込む。
傷が、ゆっくりと塞がっていく。
数秒後。
〈ゴブリンリーダー〉
「……ぅ」
かすれた声。
〈レイセル〉
「……生きてる」
思わず、息が漏れた。
〈セレナ〉
「はい。ですが──」
そこで言葉を切る。
〈セレナ〉
「他の個体は、すでに機能停止しています」
視線が、周囲へ向く。
倒れたままのゴブリン達。
動く気配はない。
〈レイセル〉
「……そう、か」
分かっていたことだ。
だが、改めて突きつけられると──
〈ゴブリンリーダー〉
「……まだ……終わってないであります」
弱々しい声。
〈レイセル〉
「リーダー、無理するな」
〈ゴブリンリーダー〉
「できるであります」
ゆっくりと、身体を起こす。
その動きは重い。
だが、目は死んでいない。
〈ゴブリンリーダー〉
「こいつらは……自分の魔力で作ったであります」
〈レイセル〉
「……作った?」
〈ゴブリンリーダー〉
「群れは……自分の一部みたいなもんであります」
息を整えながら、続ける。
〈ゴブリンリーダー〉
「魔力を使えば……戻るであります」
〈レイセル〉
「戻るって……」
セレナが、わずかに眉をひそめた。
〈セレナ〉
「……推奨はしません」
〈ゴブリンリーダー〉
「するであります」
即答だった。
止める間もなく。
リーダーの身体から、魔力が溢れ出す。
淡い光が、周囲に広がった。
倒れていたゴブリン達の身体が──
わずかに、揺れる。
〈レイセル〉
「……おい」
光が、一本の線のように繋がる。
リーダーから、ゴブリン達へ。
〈ゴブリンリーダー〉
「……起きるであります」
その一言と同時に──
ピクリ。
一体の指が、動いた。
〈ゴブリン〉
「……あれ……?」
別の個体が、ゆっくりと起き上がる。
〈ゴブリン達〉
「ここは……?」
「生きてるであります……?」
「痛いであります……!」
次々と、声が戻る。
〈レイセル〉
「……戻った……?」
信じられない光景だった。
だが──
ドサッ
〈レイセル〉
「リーダー!」
ゴブリンリーダーが、崩れ落ちた。
〈セレナ〉
「……当然です」
冷静な声。
セレナはため息をつきながら、リーダーに回復魔法をかける。
〈セレナ〉
「そこまで魔力を消費すれば、そうなります」
〈ゴブリンリーダー〉
「……問題……ないであります……」
全く問題ある状態だろ。
〈セレナ〉
「問題大ありです」
ぴしゃりと言い切る。
〈セレナ〉
「あなたほどの個体なら、
無駄な消費を抑えれば“ゴブリンキング”への進化も視野に入ります」
〈レイセル〉
「キング……?」
〈セレナ〉
「群れを率いる上位種です。
戦力、統率力ともに段違いになります」
視線をリーダーに向ける。
〈セレナ〉
「ですが」
一拍。
〈セレナ〉
「今の行為は、その可能性を自ら削っています」
淡々とした指摘。
〈ゴブリンリーダー〉
「……そうでありますか」
〈セレナ〉
「ええ。非常に非効率です」
きっぱり。
だがリーダーは、少しだけ笑った。
〈ゴブリンリーダー〉
「でも……こっちの方が、楽しいであります」
一瞬、沈黙。
〈ゴブリン達〉
「リーダー!」
「無事でありますか!」
「ありがとうであります!」
駆け寄るゴブリン達。
その中心で、リーダーは息を吐いた。
〈ゴブリンリーダー〉
「……生きてるなら、それでいいであります」
焚き火の残り火が、小さく揺れる。
〈レイセル〉
「……」
何も言えなかった。
ただ、その光景を見ていた。
効率じゃない。
損得でもない。
それでも──
守った。
〈セレナ〉
「……理解不能ですね」
小さく呟く。
だが、その声はどこか柔らかかった。
〈レイセル〉
「……いや」
骨の手を、ゆっくり握る。
〈レイセル〉
「少しだけ……分かる」
風が吹く。
壊れた拠点の中で、
かすかな熱だけが、残っていた。




