11 骨、戻れない
早朝、森の静けさを裂くように──
悲鳴が響いた。
〈ゴブリン〉
「ぎゃああああ!!」
焚き火は踏み荒らされ、木柵は壊れている。
その中で──
人間が、笑っていた。
〈冒険者A〉
「お、いたいた。まだ残ってるぞ」
〈冒険者B〉
「弱っ。こんなの狩りっていうか暇つぶしだな」
軽い口調。
まるで遊びの延長みたいに。
ゴブリンが一体、逃げようとする。
次の瞬間──
ザシュッ
あっさりと斬られた。
〈ゴブリンリーダー〉
「散れであります!!」
リーダーが叫ぶ。
だが──
遅い。
〈レイセル〉
「……やめろ」
気づけば、前に出ていた。
〈冒険者A〉
「ん?」
〈冒険者B〉
「なんだあれ……スケルトン?」
〈冒険者C〉
「喋れるスケルトンは珍しいな。ネームドなんじゃね?」
笑っている。
完全に、格下を見る目だ。
〈レイセル〉
「……やめろ」
もう一度言う。
だが声が、わずかに揺れる。
〈冒険者A〉
「は?なんで?」
〈冒険者B〉
「こいつら魔物だぞ?」
当然のように言う。
〈レイセル〉
「……それでも」
言葉が詰まる。
剣を、構えきれない。
相手は人間だ。
その一瞬の躊躇。
それで十分だった。
ドンッ!!
〈レイセル〉
「がっ──!」
衝撃。
身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、視界が揺れる。
〈冒険者C〉
「よっわ」
〈冒険者A〉
「骨って軽いな」
笑い声。
起き上がろうとした瞬間、
バキッ、と嫌な音がした。
視界の端で──
自分の頭の破片がが見えた。
〈レイセル〉
「……っ」
立てない。
身体が言うことを聞かない。
その間にも──
音が続く。
斬る音。
潰す音。
短い悲鳴。
やがて。
それも、止んだ。
静寂。
ゆっくりと、視界を上げる。
誰も、いない。
いや──
“いなくなっていた”。
〈冒険者B〉
「で、このスケルトンどうする?」
〈冒険者A〉
「装備だけ取るか」
〈冒険者C〉
「その剣、ちょっと良くね?」
足音が近づく。
俺の前に立つ。
〈冒険者A〉
「もらっとくぞー」
手が伸びる。
俺の聖剣に。
その瞬間。
ガシッ
〈冒険者A〉
「……あ?」
掴んだ。
骨の手で。
さっきまで、動かなかったはずの腕で。
〈レイセル〉
「……触るな」
音が、消える。
次の瞬間──
ゴキッ
〈冒険者A〉
「え」
腕が、折れた。
人間の。
〈冒険者B〉
「は……?」
〈冒険者C〉
「おい、こいつ──」
遅い。
一歩、踏み込む。
今度は迷わない。
斬る。
骨が軋む感覚はない。
ただ、綺麗に通る。
〈冒険者B〉
「ちょ、待っ──」
言い終わる前に、倒れる。
残り一人。
後ずさる。
顔が、引きつっている。
〈冒険者C〉
「なんだよ……なんなんだよお前……!」
〈レイセル〉
「……さあな」
最後の一歩。
終わり。
静寂が戻る。
その中で、
俺は立っていた。
足元には、
さっきまで“人間だったもの”。
〈セレナ〉
「……終わりましたか」
振り向くと、そこにいた。
〈レイセル〉
「……見てたのか」
〈セレナ〉
「はい」
否定しない。
少しだけ、視線を周囲に向ける。
壊れた拠点。
倒れたゴブリン達。
そして、俺。
〈セレナ〉
「だから、申し上げたはずです」
静かに。
はっきりと。
〈セレナ〉
「後悔すると」
〈レイセル〉
「……言うな」
低く、返す。
〈レイセル〉
「分かってる」
骨の手を見る。
血はついていない。
だが──
確かに、斬った感覚は残っている。
〈レイセル〉
「人間にも……」
言葉を、選ばない。
〈レイセル〉
「殺していい奴はいる」
セレナは何も言わない。
ただ、聞いている。
〈レイセル〉
「俺は」
顔を上げる。
〈レイセル〉
「そういう奴らを、裁く」
風が吹く。
灰が舞う。
セレナは、ゆっくりと目を細めた。
〈セレナ〉
「……なるほど」
肯定でも否定でもない声。
〈セレナ〉
「それが、レイセル様の答えですか」
答えは、まだ途中だ。
だが──
もう、戻れない。




