10 骨、悪くない日常
拠点の朝。
焚き火の煙が、ゆっくりと空に溶けていく。
〈ゴブリン達〉
「「「おはようであります!」」」
〈レイセル〉
「声がデカい……」
一斉に挨拶されると、骨に響く。
〈ゴブリンリーダー〉
「今日も訓練であります!」
〈レイセル〉
「昨日も聞いたな、それ」
〈ゴブリンリーダー〉
「毎日言うであります!」
誇らしげに言うことじゃない。
〈ゴブリンリーダー〉
「素振り二百回!」
〈レイセル〉
「増えてる!?」
〈ゴブリンリーダー〉
「成長したからであります!」
理屈が雑すぎる。
カン、カン、と木剣の音が響く。
最初は百回で腕が外れていたが──
〈レイセル〉
「……っ、二百……!」
まだ、繋がっている。
軋みはするが、折れない。
〈ゴブリン達〉
「おおー!」
「外れないであります!」
「進化であります!」
〈レイセル〉
「進化って言うな」
素振り二百回を終えて休憩していると、
〈ゴブリン〉
「今日は罠の整備であります!」
〈レイセル〉
「訓練じゃないのか?」
〈ゴブリンリーダー〉
「実戦の一部であります!」
木を組み、縄を張る。
単純だが、よくできている。
〈ゴブリン〉
「ここ踏むと落ちるであります!」
〈レイセル〉
「へぇ……」
試しに踏む。
ガコン!
〈レイセル〉
「うおっ!?」
落とし穴に落ちた。
〈ゴブリン達〉
「「「成功であります!」」」
〈レイセル〉
「成功じゃない!!」
下から見上げると、全員が覗き込んでいる。
ちょっと楽しそうなのが腹立つ。
罠の整備を終えて拠点に戻ってきた。
〈ゴブリンリーダー〉
「午後は囲むであります!」
〈レイセル〉
「囲む?」
次の瞬間、四方からゴブリンが突っ込んできた。
〈レイセル〉
「おい聞いてないぞ!?」
〈ゴブリンリーダー〉
「実戦は説明しないであります!」
無茶苦茶だ。
だが──
今までとは違う。
一体を弾き、もう一体の動きを読む。
足をずらし、間を抜ける。
〈レイセル〉
「……見える」
動きが。
隙が。
“どこを斬ればいいか”が。
気づけば、全員が転がっていた。
〈ゴブリン達〉
「つ、強いであります……」
〈ゴブリンリーダー〉
「……いいでありますな」
リーダーがニヤリと笑う。
〈ゴブリンリーダー〉
「ちゃんと“生き残る動き”になってきたであります」
〈レイセル〉
「……そりゃどうも」
少しだけ、悪くない気分だった。
焚き火を囲みながら、肉を焼くゴブリン達。
〈レイセル〉
「それ、うまいのか?」
〈ゴブリン〉
「最高であります!」
〈レイセル〉
「俺、食えないんだが」
〈ゴブリン達〉
「「「あ」」」
一斉に固まるな。
〈ゴブリンリーダー〉
「スケルトン殿は何で回復するであります?」
〈レイセル〉
「知らん」
〈ゴブリン達〉
「「「知らん!?」」」
結局、焚き火を見ながら時間が過ぎる。
食えないが、悪くはない。
ふと、思い出す。
あの老人の背中。
セレナの言葉。
〈ゴブリンリーダー〉
「どうしたであります?」
〈レイセル〉
「……いや」
少しだけ、間を置いて。
〈レイセル〉
「お前らってさ」
〈ゴブリンリーダー〉
「であります?」
〈レイセル〉
「……楽しく生きてるよな」
一瞬、静かになる。
そして──
〈ゴブリン達〉
「「「当然であります!」」」
〈ゴブリンリーダー〉
「生きてるなら、楽しい方がいいであります」
あっさりと、言い切った。
〈レイセル〉
「……そうか」
その言葉は、妙に引っかかった。
夜になると焚き火が小さくなっていく。
騒がしかった拠点も、静かになった。
骨の手を見つめる。
今日は外れていない。
確実に、強くなっている。
だが──
〈レイセル〉
「……どっち、か」
小さく呟く。
答えは、まだ出ない。
だが少なくとも──
ここでの時間は、
思っていたより、悪くなかった。




