表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

1 勇者、魔王軍に就職する?

暗闇。

何も見えない空間に、意識だけが浮かんでいた。


〈レイセル〉

「……俺の名はレイセル。かつて“魂の勇者”と呼ばれた男だ」


声だけが響く。

身体はもうない。あるのは魂だけ。


〈レイセル〉

「人間を守るために剣を取り、仲間と共に魔王城へ乗り込んだ。

だが──俺は魔王に敗れた。完膚なきまでに、だ」


胸の奥にぽっかり穴が開いたような感覚。

死んだはずの場所で、魂だけが宙を漂う日々は、味気なく、虚ろだった。


そんな時だった。

突然、暗闇の向こうから、光が差し込む。


眩しさに目を細めると、二つの影が浮かび上がった。


一人は、幼い少女。

漆黒の髪が揺れ、頭には小さな黒い角が二本。

見た目は十二歳ほどだが、周囲の空気を震わせる魔力だけは本物だった。


その隣に立つのは、対照的な大人の女性。

知的な眼鏡越しの瞳は冷静で、サキュバス特有の魅力をまとっている。

背中の小さな翼を畳み、端正な服装で佇む姿は、まさに魔王軍の秘書そのものだった。


〈セレナ〉

「……レイセル様。お呼び立てして申し訳ありません。

魔王軍人事部、秘書のセレナと申します」


落ち着いた声。

魔族特有の魔力が、空気を震わせている。


〈レイセル〉

「……魔族? 俺を呼んだのか?」


〈セレナ〉

「はい。本日は“面接”のため、魂を召喚させていただきました」


〈レイセル〉

「……面接?」


セレナは淡々と続ける。


〈セレナ〉

「現魔王ヴァルシア様が、

“魂だけでうろつかれても鬱陶しいから、いっそ雇えばよい”と」


……鬱陶しい?


俺の死後の扱い、雑すぎないか。


その時、空気が一変した。

強烈な魔力が吹き込み、空間が震える。


〈ヴァルシア〉

「おぬしがレイセルじゃな! わらわが魔王ヴァルシアじゃ!」


声は若く、威圧感よりも勢いが勝っている。


〈ヴァルシア〉

「魂だけでふよふよされても邪魔なのじゃ!

どうせなら魔物として働くのじゃ! 人手不足なのじゃ!」


〈セレナ〉

「……魔王様、書類仕事はすべて私が──」


〈ヴァルシア〉

「うるさいのじゃ! 魔王は忙しいのじゃ!」


忙しいのはセレナの方だろう、と言いたいが、魂に口はない。


〈レイセル〉

「……俺、勇者だったんだが……魔王軍に……就職……?」


〈セレナ〉

「ではレイセル様。

魔物としての採用面接を始めさせていただきます」


セレナは静かに微笑んだ。

その表情は、どこか諦めと慣れが混ざっている。


こうして──

勇者だった俺の、魔王軍での第二の人生(?)が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ