同じ道
夕暮れの帰り道だ。
西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。
電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。
右手には低いブロック塀、その向こうに小さな空き地がある。
雑草が好き勝手に伸び、中央には白く色褪せた三角コーンがひとつ、寂しく置かれている。
今日も、ここからだ。
自分がなぜここに立っているのかは分からない。
ポケットには家の鍵。
スマートフォンの画面には「18:12」と表示されている。
既視感はあるが、思い出せるのはここからしかない。
まあいい、と僕は歩き出す。
空き地の前を通り過ぎ、角を曲がる。
古い自動販売機の蛍光灯が、じじ、と虫の羽音みたいに鳴っている。
アスファルトの割れ目に、小さな白い花が咲いていた気がする。
どこか遠くで犬が吠えた。
家までは、まっすぐだ。
——いつもそこで、記憶が曖昧になる。瞬きをしたはずなのに、その先がない。
夕暮れの帰り道だ。
西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。
電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。
右手には低いブロック塀、その向こうに小さな空き地がある。
雑草が好き勝手に生え、中央には白く色褪せた三角コーンがひとつ、ひっくり返っている。
今日も、ここからだ。
なぜここに立っているのか分からない。
ポケットには家の鍵。
スマートフォンの画面には「18:12」。
既視感が、喉の奥に引っかかる。
……何か、違う気がする。
視線を空き地に向ける。
雑草の背が、前より低いような。
三角コーンの位置も、少しだけ塀に寄っている。
どうせ気のせいだろう。
いつものことだ。
僕は歩き出す。
自動販売機の蛍光灯が、じじ、と鳴る。
アスファルトの割れ目に、小さな白い花が咲いている。
前から野良犬が歩いてきた。
家までは、まっすぐだ。
——そして、また途切れる。
夕暮れの帰り道だ。
西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。
電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。
右手には低いブロック塀。
その向こうに、小さな家が建っている。
……家?
今日も、ここからだ。
なぜここに立っているのか分からない。
ポケットには家の鍵。
スマートフォンの画面には「18:12」。
……やはり何か違う気がする。
ブロック塀の向こうを覗き込む。
空き地があるような気がしたが、違った。
そこには白い二階建ての家がきちんと建っている。
窓はすべて閉じられ、カーテンは引かれている。
おかしい。
工事なんていつしたのだろう。
自動販売機の蛍光灯は鳴らない。
代わりに、乱雑に張り紙が貼ってある。
そこには「使用禁止」とだけ、黒いマジックで。
家までは、まっすぐだ。
——視線を落とす。
夕暮れの帰り道だ。
西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。
電柱の影が長く伸び、防音シートに黒い線を引いていた。
右手には低いブロック塀。
その向こうに、小さな家が建っている。
今日も、ここからだ。
なぜここに立っているのか分からない。
ポケットには家の鍵。
スマートフォンの画面には「18:12」。
何か違う。
白い二階建ての家。
窓の一つが、開いている。
薄いカーテンが、風もないのに揺れている。
家の前に、赤い三角コーンが置かれている。
ひっくり返って。
僕は足を止める。
さっきまで——さっき?——あれは空き地の真ん中にあったはずだ。
自動販売機はない。
代わりに、ブロック塀に黒い染みが広がっている。
人の背丈ほどの、縦に長い染み。
夕日の影と重なって、誰かが立っているように見える。
きっと気のせいだ。
家までは、まっすぐだ。
白い家の二階の窓に、こちらを影が見つめている気がする。
——視線を逸らす。
夕暮れの帰り道だ。
西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。
電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。
右手には、低いブロック塀。
その向こうに、何もない。
今日も、ここからだ。
なぜここに立っているのか分からない。
ポケットには家の鍵。
スマートフォンの画面には「18:13」。
違うのは多分気のせいだ。
ブロック塀の内側は、きれいに舗装されている。
塵一つなさそうに見えるくらい何もない。
ただ平らなコンクリート。
中央に、黒い染みがひとつ。
人が倒れているように見える。
僕は目を背ける。
家までは、まっすぐだ。
背後で、じじ、と蛍光灯の鳴る音がした。
通ったとき自動販売機はなかったはずなのに。
振り向こうとして。
——気付けば、夕暮れの帰り道に立っている。




