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同じ道

作者: だりょ
掲載日:2026/03/12

 夕暮れの帰り道だ。


 西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。

 電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。

 右手には低いブロック塀、その向こうに小さな空き地がある。

 雑草が好き勝手に伸び、中央には白く色褪せた三角コーンがひとつ、寂しく置かれている。


 今日も、ここからだ。


 自分がなぜここに立っているのかは分からない。

 ポケットには家の鍵。

 スマートフォンの画面には「18:12」と表示されている。

 既視感はあるが、思い出せるのはここからしかない。


 まあいい、と僕は歩き出す。


 空き地の前を通り過ぎ、角を曲がる。

 古い自動販売機の蛍光灯が、じじ、と虫の羽音みたいに鳴っている。

 アスファルトの割れ目に、小さな白い花が咲いていた気がする。

 どこか遠くで犬が吠えた。


 家までは、まっすぐだ。


 ——いつもそこで、記憶が曖昧になる。瞬きをしたはずなのに、その先がない。





 夕暮れの帰り道だ。


 西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。

 電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。

 右手には低いブロック塀、その向こうに小さな空き地がある。

 雑草が好き勝手に生え、中央には白く色褪せた三角コーンがひとつ、ひっくり返っている。


 今日も、ここからだ。


 なぜここに立っているのか分からない。

 ポケットには家の鍵。

 スマートフォンの画面には「18:12」。

 既視感が、喉の奥に引っかかる。


 ……何か、違う気がする。


 視線を空き地に向ける。

 雑草の背が、前より低いような。

 三角コーンの位置も、少しだけ塀に寄っている。


 どうせ気のせいだろう。

 いつものことだ。


 僕は歩き出す。

 自動販売機の蛍光灯が、じじ、と鳴る。

 アスファルトの割れ目に、小さな白い花が咲いている。

 前から野良犬が歩いてきた。


 家までは、まっすぐだ。


 ——そして、また途切れる。





 夕暮れの帰り道だ。


 西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。

 電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。

 右手には低いブロック塀。

 その向こうに、小さな家が建っている。

 ……家?


 今日も、ここからだ。


 なぜここに立っているのか分からない。

 ポケットには家の鍵。

 スマートフォンの画面には「18:12」。


 ……やはり何か違う気がする。


 ブロック塀の向こうを覗き込む。

 空き地があるような気がしたが、違った。

 そこには白い二階建ての家がきちんと建っている。

 窓はすべて閉じられ、カーテンは引かれている。


 おかしい。

 工事なんていつしたのだろう。


 自動販売機の蛍光灯は鳴らない。

 代わりに、乱雑に張り紙が貼ってある。

 そこには「使用禁止」とだけ、黒いマジックで。


 家までは、まっすぐだ。


 ——視線を落とす。





 夕暮れの帰り道だ。


 西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。

 電柱の影が長く伸び、防音シートに黒い線を引いていた。

 右手には低いブロック塀。

 その向こうに、小さな家が建っている。


 今日も、ここからだ。


 なぜここに立っているのか分からない。

 ポケットには家の鍵。

 スマートフォンの画面には「18:12」。


 何か違う。


 白い二階建ての家。

 窓の一つが、開いている。

 薄いカーテンが、風もないのに揺れている。


 家の前に、赤い三角コーンが置かれている。

 ひっくり返って。


 僕は足を止める。

 さっきまで——さっき?——あれは空き地の真ん中にあったはずだ。


 自動販売機はない。

 代わりに、ブロック塀に黒い染みが広がっている。

 人の背丈ほどの、縦に長い染み。

 夕日の影と重なって、誰かが立っているように見える。

 きっと気のせいだ。


 家までは、まっすぐだ。


 白い家の二階の窓に、こちらを影が見つめている気がする。


 ——視線を逸らす。





 夕暮れの帰り道だ。


 西に傾いた陽が、住宅街のアスファルトを橙色に染めている。

 電柱の影が長く伸び、民家の壁に黒い線を引いていた。

 右手には、低いブロック塀。

 その向こうに、何もない。


 今日も、ここからだ。


 なぜここに立っているのか分からない。

 ポケットには家の鍵。

 スマートフォンの画面には「18:13」。


 違うのは多分気のせいだ。


 ブロック塀の内側は、きれいに舗装されている。

 塵一つなさそうに見えるくらい何もない。

 ただ平らなコンクリート。

 中央に、黒い染みがひとつ。


 人が倒れているように見える。

 僕は目を背ける。


 家までは、まっすぐだ。


 背後で、じじ、と蛍光灯の鳴る音がした。

 通ったとき自動販売機はなかったはずなのに。

 振り向こうとして。


 ——気付けば、夕暮れの帰り道に立っている。

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