表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
胡遙さん無駄話  作者: 南方胡遥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

ご婦人と私

 関西圏に住んでいるので梅田をたまに歩いている。

 阪急百貨店に行ったり阪神百貨店に行ったり大丸に入ったりグランフロントや、ルクアにも行く。

 百貨店意外にもホワイティを歩いたり阪急32番街の29階に行ったり大きな本屋を梯子したり、仕事で展示会や催事にお邪魔したり用途はその都度様々だ。

 周りを歩いている人も様々。休みの日は人の数が凄い。戦場か地獄かというくらい人がいる。

 はい、ちょっとすいませんよ。という事も無く人の波を縫って歩くのだ。他人など見ている余裕は無い。ただ自分の進むべき場所に一直線だ。

 

 平日は違う。確かに人は多いが少し落ち着いた雰囲気になる。仕事中の人やご観劇の後のマダムやお買い物マダムが多い感じだ。もちろん若い子達もいるが、お買い物単価が高そうなマダムが平日は多い。

 素敵な御召し物をお召しになっていらっしゃる。

 阪急百貨店の前のエントランスロードは足早に歩くマダムも多い。


 阪急電車を降りてムービングウォークを進んでいると私の前方を歩くマダムのお尻の辺りに何か付いている。"何か"というより一目瞭然だ。


 ハンガーだ。

 

 スカートを吊るしていたと思われるクリップ付きのハンガーがマダムの濃い紫色のスカートの後ろウエスト部分にぶら下がっている。

 ちょっとやそっとでは取れそうに無いくらいにガッツリスカートの布がクリップで挟まっている。


 さて、このままこのマダムを目的地に行かせるのは忍びない…ここはお声がけさせて頂こう。


 とは思ったものの、何と声をかけるか…"マダム""お姉さん""奥様""お母さん""あのすみません"様々な呼び掛けの言葉が有るが。

 この場所で高価そうな御召し物とバッグ、装飾品を身に付けたマダムだ。

 "お姉さん""お母さん"は論外。"奥様"とお声がけするにもこの方が既婚者で有るとは限らない。

 "あのすみません"はキャッチセールスに間違えられて無視されかねない。

 "マダム"は女性にお声がけするには空かし過ぎだ。

 ここはもうコレしか無い。


「ご婦人、少々宜しいでしょうか?」

 私はそう言いながら女性の肩にそっと手を掛けた。

「何よこの人?」という目で見られる。

 まあそうだろう!突然肩に手を掛けて声を掛けてくるのだ。怪しさも募るだろう!そうだろう!

 しかし私は怯まない。


「不躾にも突然のお声がけ失礼致します。」

 そう言うとご婦人の耳元で低めの声で静かに周りに聞こえないように


「ご婦人、スカートの後ろ側にハンガーが付いております。」


「えっ!?」と言いながら自分のスカートに付いているハンガーに手を掛けてサッと取るとカバンに入れ口元に手をかざしながら「オホホホホホホ!」と笑うともう片方の手は私を軽く叩く。


「んもう!ご婦人だなんて!初めて街中で言われたわよ。ほほほほほほ。ご丁寧にありがとうございます。」

 丁寧にお辞儀をされた。

「いえいえ、礼には及びません。突然のお声がけ失礼致しました。」

 軽く腰を折って頭を下げて去ろうとした


「ちょっとお待ちになって。宜しければこちらお召し上がりになって。荷物になってしまうかも知れないけど…」

 と、差し出されたのは箱を袋に包まれた乙女餅だ。


「乙女餅ですね!そんな不躾にもお声がけさせて頂いた次第…お受け取りする事など出来ません。」

 私はその場で両手を前に出し"いけません"のジェスチャーだ。ただハンガー付いてますよと教えただけだ。

 そもそも乙女餅はうちから自転車圏内に店がある。わざわざ頂かなくても全然大丈夫だ。気持ちだけで本当に充分だ。


「是非お受け取りになって。貴方にご婦人と呼んで頂けたおかげで今日はこれからとても良い時間を過ごせそうなの。そのお礼。」


「まぁ!そんな…お礼だなんて。宜しいんですか?では遠慮なく頂戴させていただきます。ありがとうございます。」

 ご婦人と呼ばせて頂いた事に感謝されたらしい。 それならばご婦人の気持ちにお応えしよう。深々とお辞儀をして有り難く受け取った。

「ところで貴方…乙女餅をご存知という事は、もしかして御贔屓の方がいらっしゃる?間違えてたらごめんなさいね。」


 どうやら別の方向で見透かされていたようだ。

「はい。◯組の◯◯さんを贔屓させて頂いております。」

「まぁ!今度トップスターになられる方ね!あの方も素敵な方ね。ダンスがとてもお上手で…私は◯組の◯◯さんの贔屓なの。」

 分かる人にしか分からない会話がマシンガンのように始まってしまった。


「◯◯さんですか!この前◯組の演目を観劇させて頂きました。スーツ姿がどれもとても素敵で、歌もダンスもとても素晴らしく夢のような時間を過ごさせて頂きました。」

「そうなのよ!あの方、スタイルが良くて!脚の長さと容姿にとても恵まれてらっしゃるからスーツ姿でも和装でも何でもとてもよくお似合いになるの。今回も良かったわぁ…」

 止まらない〜止まらない〜ご婦人の贔屓トークは止まらない〜!しかしこんな阪急百貨店の前で長々と立ち話をさせる訳にもいかない。


「ところでご婦人?お時間は大丈夫ですか?この後何かお急ぎの用事があったのでは?」

 我ながら良いストップの掛け方だ。たが、一歩間違えるとお茶に誘われかねないのも事実。さて、どう出るご婦人!!?


「あら、いけない!この後お友達とお食事会の予定なのよ。素敵なお時間をありがとう。もしかしたら大劇場でお会いするかも知れないわね。また機会があれば是非お話ししましょうね。」

 お茶のお誘いは無かったが別れの挨拶もマシンガントークだ。


「はい。是非また。お会い出来るのを楽しみにしております。良い一日をお過ごしください。お気をつけて。お菓子ありがとうございます。」

 私も出来る限りの別れの挨拶を告げ、左手を鳩尾に添え軽く頭を下げた。


「ご丁寧に。貴方もお気をつけて。ご機嫌よう。」

 去りながら軽く会釈をして嵐のように去って行かれた。

「ご機嫌よう…」

 左手を揃えて手首だけを使って手を振りその場でご婦人を見送った。


 ご婦人…貴方の御贔屓ですが。私が今からランチをする友人の1人がその方の同期です。

 4人でランチする中の1人が元タカラジェンヌです…。貴方の御贔屓の話はとてもよく聞いてます。

「あの子は脚長いなぁ…座ったら娘役のヒロインより座高低いんだけど…。あの子の方が身長あるのになぁ。」

 脚の長さの話はよく聞いてます。脚長いです。

 

 ランチ会で頂いた乙女餅をみんなに配りながら頂いた経緯を話した。


「ご婦人で合ってたかなぁ…?」

「いいよ!ナイスだよ!」

「私もイケボでご婦人って呼ばれた〜い。」

「ほらほら、ご婦人って言って欲しいそうよ。」

「みんなはご婦人というよりお嬢さんだよ?」


「「「お嬢さんって呼んで!」」」


「如何なさいましたか?お嬢さん方。」


「「「きゃーーー!」」」


 ご婦人じゃなくてお嬢さんって呼べば良かったかな…でもご婦人でナイス頂いたしなぁ。


 帰ってから夜な夜な相談役に昼間のマダムへの声かけの話をして聞いてみた。

「ご婦人かな?お嬢さんかな?どっちで呼ぶ?」

 物凄くどうでもいい相談だ。


 少し悩みながら返答を貰った。

「年上の女性だったらご婦人かなぁ?こはるさんにならお嬢さん。おじさんにしてみたら年下の女性はみんな女の子だからね。こはるさんは私にとってはずーっとお嬢さん。」

「おばあちゃんになっても?」

「お嬢さん。貴方がおばあさんになる頃には私は多分もうこの世に居ないけどね。ずーっと可愛いお嬢さんです。」

 そう言う事らしい。


「そもそもコミュ症だからいきなりハンガーぶら下げた女性に声掛けないわ。コミュ力化け物のお嬢さんだから悩める話よ?それは。」

  

 人を化け物よわばりしてからのお嬢さんとは…

「失礼な!親切とコミュ力化け物は関係ございませんので。」

「これはこれは。ご婦人に化け物とは。大変失礼致しました。年齢的にご婦人でも間違い無いのか…逆にお嬢さんの方が失礼になるのか…わからんね。マナー講座聞きに行かなきゃ。」

 

 行きもしないマナー講座だが、マナーに入るのかも謎だ。私がマダムに「お嬢さん」とお声がけしたら逆に嫌味になってしまいかねないのも事実。

 多分「ご婦人」で間違い無かったはずだ。


「あなたにならお嬢さんと呼ばれて続けても別に構わなくてよ。ってかお嬢さんって普段から呼ばれたら普通に「もうええわ!」ってなるから普段通りでええ。」

「ですよねー。こはるちゃん。」

 ハイハイ。


「もしそれが男性だったらこはるさんなら何て声かける?」

 確かに。お兄さん?お父さん?ヘイ!そこの兄いちゃん?


「ハンガー付いてますよ。」

「あれ?気遣い無しか。」


 要らんやろ。

 ご婦人だからお声がけした。

 それだけです。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ