葬送13
餅つきから帰って一息付いていたら旦那が帰って来た。
「姉ちゃんが警察から葬儀屋に帰って来たから見に行かなあかんわ。」
意外とお早いお帰りで。
事件性は認められなかったので検死解剖無しで昨日の今日でもう帰してもらえたようだ。
そして間髪入れずに私の両親が来た。今から義母さんに会いに行くらしい。
孫に苺を買って来たとの事で玄関先で孫に渡すと去っていった。
嵐のような我が両親だ。
とりあえず貰った餅を息子と旦那に焼いて砂糖醤油で食べさせた。
みんなで義姉を見に行くという事は息子も行くという事で。説明しなくてはならない。意外と早く言う時が来たようだ。
食後の一服を夫婦でしながら「行きますか!」で、リビングで塾の宿題をしている息子の元に向かった。
旦那が代表して話す事になった。
「大事なお話しが有ります。ここに座って下さい。」
庭の長椅子の真ん中に息子を座らせた。
「なんですか?」
宿題が終わったらゲームをしようとしていたので息子は不機嫌そうに答えた。
「犬のお姉ちゃんが死にました。」
単刀直入に言った。
「うそ!?」
そりゃそうなるだろう。
息子は2週間前に義姉が飼っていたうちの1匹で有る老コーギーの葬儀に仕事で行けない我々の代わりに参列している。
我が家で直近で義姉に最後に会った人物だ。
「今からお姉ちゃんに会いに行きます。」
「えー…嫌なんだけど?」
そりゃ死体だからな。嫌だと言うのが普通だ。大人なら謙遜して会いに行ってやるが子供の率直な気持ちはそうだろう。
率直な気持ちは分かるが"とりあえず""一応"親族なので見に行かせなくてはならない。
「今日とお葬式で会ったらもう二度と会えません。」
「えー?行かなきゃだめ?」
「大好きな甥っ子が会いに行ってあげないとお姉ちゃん悲しいと思う。」
「死んでるのに悲しいとか有る?」
「死んでても心は有るからさ…」
旦那が何ともメルヘンな非科学的でつまらない理由を言い出した。
死んでるのだ。生ゴミに心が存在してたまるか。
生きている人間が勝手に作った綺麗事を死んだ人間という虚像に押し付けているだけなのだ。
「心なんて臓器は存在しないし。気持ちは全部脳内で考えてること何だから死んでたら脳は動いてないから。」
なるほど。流石我が息子。素晴らしい現実主義だ。一般的な人間が考えるような世迷言を言っている旦那では埒が明かないので私が変わった。
「そう。死んでるから。つまり、心臓が止まってる人間を見る事が出来る。」
「心臓が止まっている…」
息子が興味を示した。もう一足だ。
「心臓が止まっていて脳が活動していなくて細胞分裂が止まって、微生物に餌として分解され始めた無機質な人間を見たり触れたりする事は家族以外に出来ない。」
勢いで息子の好きそうなワードを出した。
「……行くわ。」
現実的に「死体を見れる」と言ったらゲームより優先順位が上になったのであっさり聞き入れてくれた。
みんなで会いに行く事にした。
会いに行くと言えば綺麗に聞こえるが、要は死体を見に行くという事だ。
「最後のお別れ」と言うより「死体見に行こうぜ!」と言った方が私の息子には効果覿面だ。
"子供にそれはどうなの?"と思われるかも知れないが、夢みたいなことばかり言っていても仕方がない。
生きているモノは遅かれ早かれいつかは死ぬ。
いつか自分の身にも起こる"死"という現実を見せておかないといけない。
それが私の息子には9歳だったというだけの話だ。
車で義母と義兄を迎えに行った。私の両親の車が停まっていた。まだおる!
中に入るとうちの両親が普通に寛いで義母とお茶をしていた。
正月無いからうちに一緒に帰っておいでと言う話になっていた。
良いのでは無いか?
どうせ死んだ人間の事を鬱鬱と考えてつまらない元日を過ごすのだろう?
無駄に広くてデカい私の実家に来たら良い。
連れて帰ろう。それで良い。
「姉ちゃん見に葬儀屋行くわ。」
寛いでいる両親に伝えた。
「あ、そう?んじゃそろそろお暇しよか。」
うちの親が軽くて良かった。
「一緒に見にいく?」と聞いたら
「何でそんな他人の死に化粧もしてない死体見に行かなかあんねん。気持ち悪い。」
流石私の母だ。ズバァと切り捨てる。
流石私の親だなぁと思うくらいに私の親なのだ。 楽観的であっさりしていて人情深い。そういう人達だ。
「じゃあまた来週!!」
サクッと帰って行った。
義兄と義母、私と旦那と息子。5人で一体の遺体を見に行った。
何処の葬儀場かと思ったらよく前を通る"女性の為の女性スタッフだけの葬儀場"と看板を掲げている葬儀場だった。
よく前を通るがまさかお世話になるとは思わなかった。
中に入るとこじんまりとした、さほど広く無い空間に蓋を閉じられた白い棺が置かれていた。
顔の部分の小さな小窓を開いて顔だけを見れるようになっているのだがまだ触れないように透明の板が貼ってある。
「お顔は見れますのでどうぞご覧になってくださいね。」
明るい雰囲気の50代くらいの女性に案内された。
どうやらこの葬儀場の代表者らしい。
息子は葬儀場の中をウロウロ視察中だ。メダカが飼われているのでメダカの水槽を見たり、飲み物が出てくる機械を見たりして落ち着いてじっとしていない。
息子以外の人間で遺体の顔を見た。
ぽかーんと開いていた口が少し閉じていた。
「あ、口ちょっと閉じてるやん。良かったな。」
率直な私の感想を言った。
「顎を押して少し閉じさせましたが…口から体液が漏れてましたので拭かせて頂きました。もう少し時間をかけて全て閉じている状態に戻します。」
口から体液が漏れていた件は聞きたく無かったなぁ…と思ったのだが
「警察の方で検視になると何の処理もされずにこちらに来るので…今は綿も何も詰めていない状態なんです。この後湯灌師が綺麗にします。」
あー…そうですか。としか家族は言えない。
病院で死んだら確かに身体洗ってもらって鼻に綿詰めてもらってたなぁと癌で死んだ義父の時の事を思い出した。
息子が棺に近付いて来た。
「おっ?見る決心付いた?」
「顔の扉開けましょうか?」
家族も葬儀場のスタッフも息子の行動に注目だ。
「いや、いいです。自分で開けます。」
息子はきちんと葬儀会館の人に断りを入れた。
棺の前に立っている息子はいつに無く真剣な顔だ。
叔母の顔を見た息子は何を思って何を言うのか。詳しくは心臓の止まった人間の顔なのだが。
それを見る為にここに来た息子はどう思うのか。
一つ一つの動作に家族は興味深々だが全員「君の事は気にしてませんよー」の素ぶりだ。
扉に付いている白い房を暫くフサフサと触った後に彼は遂に扉を開けた。
「あれまぁ!」
彼はそう言うと暫く顔を眺めた。何を思っているのか。
あまり聞いて気分を害してはいけないのでそのままそっとしておいたら再び扉を閉めた。
無言でその場を離れてメダカの水槽の前の椅子に座りメダカを眺めた。
何か彼なりに思うこともあったのだろう。メダカを見て考えをまとめているのかも知れない。
旦那が息子の隣に座って何も言わずに一緒にメダカを眺めていた。
その様子を離れて見ていたが隣の部屋から現れた湯灌師さんが私に声を掛けてきた。
「顔の傷ですが。あの傷はいつ頃のものでしょうか?古いように思うのですが閉じ切ってなくて赤味が出てまして…化粧する際の加工で…」
等色々聞かれた。
「ご遺体の生前のメイクは薄い感じですかね?」
「そうですね。私みたいに濃い感じでは無いですねぇ。」
ウフフ…あはは…と2人でメイクについて語り合った。
流石女性の為の葬儀場だ。
このメンバーで義姉と年齢が近い女性は私だけだからな。私に色々聞くのだろう。
義姉が化粧をしている顔などほぼ見た事は無いのだがな!!!
その後遺体の損傷部分を話していたのだが
「脚にもしかしたらビニールが巻かれているかも知れません。脚の傷が化膿して膿というか、体液が出ていたみたいでそれが布団に付かない様に自分でビニールを巻いていたようです。」
一瞬、湯灌師さんの顔が引き攣ったように見えた。
「ビニール…広範囲っぽいですね。分かりました。そちらも出来る限り処置します。お布団を掛けるので見えないとは思いますが…お持ち頂いた靴下を履かせる事が出来れば履かせて無理そうならお布団の上に置いて…出来る限りやらせて頂きます。」
物凄く言葉を選びながら考えて答えてくれた。メイクの話よりこっちの方が長かった。
脚にビニールが巻かれていようがいまいが脚から体液が流れ出ている状態の遺体などそう無いだろう。
多分それなりに色々と工程が増える。申し訳ない…とは思ったが交通事故とかもっと酷い状態のご遺体を見てらっしゃるはずだ。
脚くらいどうという事は無いだろう。多分!
葬儀まで後3日。それまで遺体を見る事も無い。 とりあえず「よろしくお願いします。」と家族で深々と頭を下げて遺体を預けて来た。
時間は17時前。帰りの車の中で息子が
「たこ焼き食べたいかも。たこ焼き食べたい!」
と言い出したので
「よし!食べよう!晩御飯はたこ焼きでいいや!」
となった。
丁度近くに息子が幼い頃から行ってるたこ焼き屋があるのでそこにみんなで行った。
それぞれたこ焼きセットで焼きそば、お好み焼き、キャベツ焼き、大玉12個と頼んだ。
義母はあまり食欲は無いがキャベツ焼きを小さく切って口にポソポソと運んでいる。我々はコレでもかとたこ焼きと焼きそばとお好み焼きを貪り食った。
息子が
「食べるって事はさ!生きるって事だから!」
と、いきなりたこ焼きを食べながら悟りを開いた。それを聞いた義母が笑い泣きしながら
「そうやね。食べなきゃ!食べないと力も出ないししんどいだけやね。」
言いながら大きめにキャベツ焼きを切って口に入れ始めた。
遺体を見た後の人間5人で貪り食べた。義兄は聞いているのか聞こえていないのかずーっと1人で食べ続けていた。
明日は普通に息子は学校だ。私は仕事を休ませて貰っている。旦那も義兄と役所周りをしないといけないので休みだ。
年末のクソ忙しい時に休ませて貰ってごめんなさい。ごめんなさい。あー本当にごめんなさい。と、謝罪の舞を踊るレベルだ。
アイツが悪いー。アイツが悪いー。私はなんにも悪く無い〜。の舞も踊れる位だがそんな事は言ってられない。
クリスマス前の職場は多分修羅場だ。




