葬送11
実家に着いたら息子は既に晩御飯を食べ終わって父とオセロをしていた。
「ただいまー」
と、真剣にオセロをしている2人の横を通って奥の仏間に行って今は亡き私の祖父母の仏壇に線香をあげた。
ただいま帰りました。こはるです。ちょっと暫くバタバタするけど守ってくれたらありがたい。やかましいのも居るけどすまんね。
祖父母に手を合わせながらそれっぽい事を頭の中で言っておいた。
毎回一応何か語りかけるようにはしているが今回はかなりイレギュラーなお願い事の内容だ。
仏さんに願い事を言っても仕方ないのだが。
願い事は神社。
日頃の感謝は寺仏閣だ。
だが、仏壇に入ってるのは私のじいちゃんばぁちゃんだ。多少の孫のワガママくらい聞いてくれるだろう。
まだ真剣に勝負をしている2人の横を何も言わずに通り抜けて廊下を通りダイニングに入った。
「ほい。おかえり。あの子よう食べるようになったわぁ。そりゃ背も伸びるわ。」
母が鍋の具材を追加してくれていた。普通の日常。普通に実家に帰って来た娘に対しての何気無い言葉だ。
あまり懐いてくれていない実家の猫を捕まえて抱っこして母の近くで隣の部屋の息子と父に聞こえ無いように義姉が死んだ事をストレートに伝えた。
「えっ?何で?」
そりゃそうだ。みんなそう言う。
父には後で迎えに来る旦那が伝えるのでまだ言わなくていい事を前置きした。
死因と昨日の夜から今日の早朝にかけての事や、義姉が頑なに病院に行くのを嫌がった理由等伝えた。
「何か…可哀想な人やな。何のために生きてたか分からん人生や。」
まぁ、普通に考えたらそう言う答えになるだろう。
私の両親は義姉とほぼ関わりが無いのであまり彼女の事が会話に出る事は無かった。
義母から愚痴は聞いていた様だが「自分の娘の愚痴を他人にあんな酷い言葉で言えるかねぇ…って位怒ってた。」とは私も聞いている。
彼女が引き篭もりになった根本的な理由も前から話しているので私の母も知っている。
義姉夫婦には子供は居ない。不妊治療が上手くいかなかったのだ。
人工授精も何回もしたが着巣しなかった。一度だけ妊娠3ヶ月まで行った。嬉々として母子手帳を貰いに行った。その後流れた。
「外に出て子供を見るのが嫌だ。」
「外で人に会ったら子供の話にしかならないから辛い。」
義姉が引き篭もりになった理由の一つらしい。元々引き篭もり気味ではあったのでコレだけが理由では無いのだが。
私の母は新婚旅行で姉を妊娠したとても健康な母体の持ち主なので不妊の女性の気持ちなどさっぱり分かっていない。
「子供が居ないなら子供が居ないなりに夫婦で楽しめば良かったのにな。」
今回もそんな一言で済ませてしまう。
実際の所、妊娠を諦めざる得ない状況になった人にはとても辛い事だと思うのだが。
私も不妊治療で一人息子を授かった人間なのでその辺りの義姉の気持ちはよく分かるつもりだ。
妊娠を諦めたと同時に糖尿病の治療も辞めたのだ。必要無くなったと言う方が多分正しい。
諦めた理由は一つだ。
生理が終わった。
そもそも40過ぎてから不妊治療など私が行ってた産婦人科の医師にまで
「それはええ金蔓やったな。40過ぎて不妊治療なんかこっちからしたら「何しに来たんや?もっと早よ来い。」って思うだけや。30代やったらまだ可能性も有るから治療も上手くいく確率上がるけどな。人工授精ならするけど?後は知らんで?出来るかもわからんで?金捨ててるようなもんや。」
そんなもんである。
義姉はいつも何かうだうだとやらない理由を付けて無駄に考えてネットの情報を鵜呑みにして行動が遅くなるタイプだった。
そしてそれを人のせいにする。
自分で自分を救う術を持ち合わせていない。
全部その時に動かなかったお前が悪いんだよ。
私の実姉も好きなことを好きなようにして生きて来たような人だが。
好きな事をする為に幼少期から努力という努力を重ねて来た人だ。
人のせいには絶対しない芯の強さがある。失敗は自分の詰めが甘かったからだ。とそれで決して諦めない。
結婚はもしかしたら姉にとっての一つの諦めかも知れないが。それは諦めでは無く姉が決めた新たな次の道なのだろう。
「お姉ちゃんには言わんといてな。ずーっと黙っててもいいわ。」
結婚式を控えた姉にはこんなバカみたいな不幸事は絶対に言いたく無い。
「当たり前やろ!そもそも何の関わりも無いんやから知らんでもええわ!」
もー。おばあちゃんはすぐに怒るー。ってレベルで何故か母に怒られた。
聞かれる事も無いだろうが姉に聞かれるまで黙っておこうと思う。
「ああ、かなり前に死んだ。」
くらいの軽い返答が出来るくらい先になってて欲しい。
会話の途中で息子が
「じいじに勝った!見に来て!!」
とお知らせしに来たので母はノリノリで孫の後をついて行った。
1人で鍋を食べながら特に何も考えず無心で食べた。美味しいとかいう感想は特に無い。ただ食べる物が有るから食べた。とは言えあまり食が進まないのは事実だ。
息子の勝ちを見て来た母に「その鍋美味しいやろ?」と聞かれたがあまり食べれていないのを見て
「まぁ、そりゃ食欲もそんなないわな。ええよ。食べれるだけ食べとき。」
「んー。美味しいけどな。」
とりあえず気持ちだけと言った感じの感想を言っておいた。
「義姉ちゃんは相談出来る友達も居なかったんかねぇ…私は朝帰ってから友達にLINEで語りまくったからあんまりモヤモヤもしてないけど。」
1人鍋を突きながら母にぼんやりと話かけた。
「そりゃ引き篭もって誰にも会ってなかったら友達も減るだけやろ。自分から声かけたりも苦手やったんちゃう?」
確かにその通りかも知れない。
『元気?』ってLINEする行動力も話す内容も無いのだから。
義姉の年齢なら友達はきっと子育ても終盤に差し掛かっているか一通り終わってゆっくりしててもおかしくない。そんな友人達にLINEなど怖くて出来ない筈だ。
「誰も話す相手は居なかったか…」
寂しい人生とは自ら孤独を作り出して陥るものだと思った。
しばらくして旦那が到着した。
息子を呼んでテレビを見ながらデザートのいちごを食べさせている間に旦那が隣のリビングで父に義姉の事を話した。
コーヒーを淹れて持って行ったらもっと驚いていると思っていた父は意外と普通にしていた。
「いつ行っても顔を見せにも挨拶も来なかったしな。関わりも無かったから特に何も無いけど。義母さんが気になるなぁ…」
やはりそこか。
私も義母さんはかなり気になる。"そのままぽっくり"とかは勘弁して欲しい。
「明日義母さんに会いに行くわ。年寄りには年寄りが相手した方がええやろ。」
と、言う事で明日何も言わずに突然義母に会いに行くらしい。
うちの両親が来ることが分かったら絶対無駄に片付けやら掃除やらで動き回って無駄に疲労する。私の義母はそう言う人だ。
私の母は中々のいい加減な人なのでその辺りは助かる。
「いいんじゃ無い?行こか。お菓子でも買って行こ。」
そんな感じだ。
とりあえず話は勝手にまとまったので我々は実家を後にする事にした。
「じゃあまた来週!10時に。」
また来週というのは来週の結婚式の件だ。
葬式の話はまだ聞いていないが今は来週の結婚式の事だけを考えていたい。本来ならそうなる筈だった。




