葬送⑩
電車に乗って地元に向かう。
上手く乗れば快速と隣の駅で準急に乗り換えて最寄り駅だ。
電車好きならもうどの線に何処から乗ったのか分かるような情報。でも内緒だよ。
電車大好きな息子にはこの時間は格別だ。「しょんぼり〜」なんざさせねぇ!
が、アナウンスでずーっと到着が4分遅れた事を謝罪されている。
4分くらい遅れててもいいよぉー。時間に余裕持って出て来たから全然いいよぉー。世の中急ぎ過ぎなんだよ。そんな4分くらい気にしないでいいよぉー?
今日は14時まで寝てたので昼から放送の吉本新喜劇は見れなかったなぁ…今日はアキさん出てたのかしら?なレベルで脳内はアキさんの「いいよぉ〜」が再生中だ。
穏やかである。とても穏やかに時間は進んでいる。
乗っている電車が停まる前に乗り換えるはずの快速急行が目の前で発車してしまった…
おんどれ!踏み切り事故がぁぁぁぁぁ!!次に来る電車が普通か準急しか有らへんやないかぃ!どないしくさってくれるんじゃ!あぁ?4分も遅れとったら美容室行くのにギリギリやないか!途中駅からタクシー乗らなあかんやないか!!キェェェェ!!
難波で乗り換え失敗のおかげでミナミの帝王さながらだ。
下手すりゃ血の雨が降る。
さっきまでの穏やかコミカル吉本新喜劇脳を返せ!
同じ難波でも違う生き物が交差する所。それが大阪だ。
普段は乗らない準急に乗れて息子はご機嫌だったからまぁ良しとする。
最寄り駅の1駅前からタクシーに乗った。コレまた普段乗らないタクシーなので息子はご機嫌だ。今日の世界は息子を中心に回っているのだろう。
生ゴミになった人間を中心に動いて無いだけ全然良い。どんどん世界を回してくれよ我が息子!
5分遅刻しただけで済んだ。
ばぁば(私の実母)が迎えに来てくれるまでの間の息子は店のパソコンで何かアニメを見ていた。音声だけ聞いていた限りの登場人物は「レイコ」「タカシ」「おじさん」「おばさん」…
何故君は夏目友人帳観ているんだい?
今まで息子が夏目友人帳を見ていた事などないのだが?
「猫ちゃんが百分裂してるサムネだったから。猫ちゃん出てるのかな?と思って。まだ猫ちゃん出てこないわ。」
出て来たとしてもその猫ちゃんは多分君が想像しているよりかなり強強猫ちゃんだと思うのだが?
凄くどうでもいいのだが突拍子も無い突然の夏目友人帳で少し和んだ。
爆発音とか闘ってる音がしない。今はそう言う激しいバトル系アニメを観る気分では無い。
私が長年通っている美容室は髪の毛を施工中にパソコンで動画を見せてもらえる。
実のところ今回のヘアカラーとカット中の3時間でミーガン2を見させて貰おうと思っていたのが。
全く持ってそんな気分では無かった。
とにかく今日は話をしたい。だが、まだ近くに息子が居るので義姉が死んだ話は出来ない。
代わりに次の週末に有る私の実姉の結婚式に着て行く服と髪の色の話をしていた。
「無難な色にしようかと思ったんですけど。いつも通りマルーンカラーにしちゃってください。」
「えっ?いいの?」
かれこれ25年以上の付き合いがある美容師の男性。今まで数々のワガママに付き合って来てもらった。
電話で予約した時に
「無難な髪色にするのかぁ…」
と、少し残念そうにしていたのだが。
いつも通りと言ったら遠慮なくブリーチを始めてノリノリで染料を作ってくれた。
結婚式の前に葬式もあるのだが。
髪色なんてもうどうでも良いのだ。
死んだ奴に合わせる気も無い。実の姉の為に無難な髪色にするのも辞めだ。
今は自分の好きなように好きな髪色にする。
つまらない茶色の髪で生活するなど鏡を見る度に老け込みそうだ。
自分の髪につまらない事はしない。サラサラ過ぎる地毛もつまらないので好きでは無い。
ばぁばが嬉々として孫を迎えに来た。
夏目友人帳はニャンコ先生が出てくる前にご機嫌な息子に停止された…さて、息子が居なくなったので美容師との会話も本領発揮だ。
「実は旦那の姉が死んだ。」
「へぇ!?いきなり来たな!!」
長年の付き合いの美容師もびっくりだ。何故ならさっきまで結婚式の話しかしてなかったからだ。
もうそこからは義姉と義兄の愚痴のオンパレードだ。止まらない止まらない。
「めちゃくちゃディスってるやん!」
笑いながら言われる始末だが笑って聞いて受け答えしてもらえるくらいが丁度いい。
美容師だ。話をするのも仕事だ。
この手の話は慣れっこだろう。
他のお客さんのお父さんが奥さんが死んでるの気付かないまま1日寝かせてた話とかもしてくれた。 他の家の事を聞くのも良い。
3時間色んな話をノンストップで語り続けたように思う。
「お迎え来る?」
いつもなら旦那が迎えに来るのだが今回はお迎えは無い。
「今日は音楽聴きながら歩いて帰りたい気分だから大丈夫。」
「ははは…ロックでも聴かなやってられっか!って気分な訳ね。お気をつけて。良いお年を…の前にまた来週お待ちしてます。ありがとうございました。」
そうなのだ。来週結婚式の前にヘアセットをしてもらう予約をしているのだ。
「では来週よろしくお願いします。」
美容室から出て大音量でロックを聴きながら歩いた。赤い髪の毛が復活したのと今までLINEで送っていた話を生で話してとてもスッキリした。
実家に着いたら私の両親に義姉の事を話さなければならない。
さて、どう話すかなぁ…と普段はしない歩きタバコをしながら話す事を組み立てた。
駅前に出るまでは暫く田舎道なので人はほぼ通らない。
電灯も申し訳程度だ。20時を過ぎたので犬の散歩をしている人も居ない。
普通に話すのが1番無難だな。
落ち着いたのでコンビニでタバコの吸い殻を灰皿に入れてコーヒーを買って帰った。
コンビニで出てから実家までの300mほどの道のりがとても遠く感じた。
帰り道に葬儀会館が2つもあるのだが。
団塊世代が死に絶えたら葬式の需要は減るなぁ…とぼんやり考えていたが、多分そうでもない気もする。
人はいつか死ぬのだ。
産婦人科はあまり増えないが。
葬式場とちょこザップはどんどん増える。
健康と死は背中合わせだなぁ…とぼんやり考えながらやたら遠く感じる実家に足を進めた。




