心恋
心恋。多分大勢の人は知らないであろう、この言葉。心の中で恋焦がれる様。古典用語なのだそうだ。この言葉を、決してしてはいけない、身分違いの恋の詩だと思ったのは、自分だけだっただろうか。
ある小説を読んだ。ある漫画を読んだ。ある映画を見た。その物語の中では、必ず主人公達は結ばれて、幸せになっていた。別にそれが悪いと言いたいわけじゃない。ハッピーエンドはハッピーエンドで、いいと思う。だけど、一般的に「当て馬」と呼ばれる人達はどうなる。「二番手」と呼ばれるキャラたちはどう思う。ハッピーエンドなのだろうか。その人たちは、ずっと「心恋」でいなければいけないのに。
これは、かなわない恋をした僕の話だ。
高校の入学式の日、恋に落ちた。春のように笑うあの子に。名前も分からなかったけれど、あの子の笑顔が素敵だと思った。あの子に似合うのは、僕みたいな冷たい目をした変わり者じゃなくて、あの子を丸ごと包み込んでくれる、夏のような人だろう。だから、僕は気持ちを伝えることはしなかった。いや、できなかった。僕は弱かったから。
でも、あの子が選んだのは冬のような奴だった。春を枯らす冬。すべての終焉のような冬。あんな奴と絡んだから、彼女は事故にあったんだ。それでもあの子はあいつを選んだ。見舞いに来させるのもあいつ。すべて、あいつを呼び寄せた。復帰してからもあの子がそばにいて、話しかけるのはあいつ。あの子の終焉も、あいつが見るんだ。悔しい。悔しい。なんで僕じゃダメなんだ。なんであいつならよかったんだ。なんで。僕には春が来ない。
あいつを観察していて気づいたことがある。僕はあいつにはなれない。あいつみたいに離れない。あいつは強いんだ。人と関わらないでいられる強さがある。来るもの拒まず、去る者追わず。まさしく冬だ。まさしく、「春」を包みこむ「冬」だけど同時に、「冬」を包みこむ「春」持ちつ持たれつ。あの子にはぴったりだった。青い春、とはよく言ったものだ。名は体を表す。あの子によく似合う。最初から他人は他人。あの子にとって僕は、僕たちは物語の端役でしかなかった。あの子にアプローチしてたあいつだって、「二番手」ですらない。「あの子」という物語にいたのは、「春」と「冬」だけ。「夏」でも「秋」でもなく。ましてや「それ」になれない他人は、端役にすらなれていないのかもしれない。「心恋」僕が唯一知っている、僕に似合う、古典用語。心の中で恋焦がれる様。
僕は初めて他人を想った。
2作品目です。
読んでいただきありがとうございます。
こちら、まだ完成してない作品のスピンオフで書いたら先に終わっちゃいました笑
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次回作も読んでいただけると嬉しいです。