まるでおとぎ話のような
ど田舎の末端男爵家の三女がはじめて王都に出てきて学園で……。
私はヒロインに転生した。
エリクセン王国のど田舎に位置するパーミット男爵家の三女な私、マリア・パーミットは年の割には幼く見える赤みがかった金髪の小柄な少女である。
間違っても美人ではないが可愛い、とみんなに言って貰える程度の容姿ではある。
貴族とは言っても普段は一家総手で畑を耕しているような底辺貴族家の三女なので、礼儀とかアウトオブ眼中だ。
ああいうのは家庭教師に習わないと身につかないんだけど、うちは長男や長女ですら親から適当に教えられているだけで、宮廷になんか行ったら一発で叩き出されるレベルだと言われている。
ところでそんな私がなぜヒロインなのかというと、何の間違いか王都の学園から入学通知が届いたからだ。
しかも特待生、学費無料で寮費もただという破格の条件だった。
男爵家の跡取りである長兄が貴族家嫡男の義務として家中のお金をかき集めてやっと通えた学園に何で私が?
「やっぱアレじゃない? ほら共通一次試験」
「そうなのかな」
「マリアって頭がいいからスカウトされたのかもよ」
エリクセン王国にはなぜか「全国共通一次試験」という制度があって、一定の年齢に達した子供は強制的に受験させられる。
内容は多岐にわたっているんだけど、ちょっと訳ありの私には簡単だった。
ちなみにエリクセンの文明進度は地球で言うと近世に近い。
従って庶民でも基礎学校に行っていて読み書き算数くらいは出来る。
「ま、お金がかからないんだったら行ってみたら。ひょっとしたらいい勤め口があるかもよ」
親の勧めに従ってのこのこと王都に出かけてきた私は特待生用に用意されている立派な寮に通された。
何と一人部屋だ。
男爵邸でも部屋が足りなくて姉と二段ベッドで寝ている私なのに。
ちなみにベッドは私が上段だ。
姉がめんどくさがりやなので。
制服一式や教科書、筆記用具などもすべて無料で支給され、入学式も恙なく終わった。
同じクラスになった人に聞いてみたら、この学園は国が管理してはいるものの、各方面からの多額の寄付金で運営されているとのことだった。
だから資金が潤沢なのか。
いやー、うちも男爵家なので判るんだけど、はっきり言ってもう封建制度は時代遅れなのよね。
一応王家や貴族が国を支配していることになってはいるけど、産業革命によって大金を稼いだ元平民の貴族や大金持ちの平民が議員をやっている議会がすべて決める。
その富豪からの寄付が凄いんだろうな。
「それね。この学園も昔は貴族しか入れなかったんだけと、今は生徒の半分以上が平民だし」
仲良くなった同級生のアリーヌが教えてくれた。
「そうなの!」
「ちなみに私も平民。家は商家で」
あとで聞いたらアリーヌの家は王家とも親しい国でも有数の商人だった。
この学校に来たのは生徒の残りの半分、つまり貴族家の子弟と知り合うためだそうだ。
「商売に役立つから?」
「それもあるけど王家や貴族って外国の伝手も多いし、お知り合いになればハクがつくでしょ」
さいですか。
もっとも言うほどには熱心ではなさそう。
私みたいなど田舎の末端男爵家の三女なんかと知り合ったってコネも伝手もないよ?
それを言ったらアリーヌは怪しく笑った。
「今に判る」
何それ怖い。
とまあ、どことなく不穏な雰囲気を感じつつも楽しく学園生活を始めた私だったが、授業の一環で社交ダンスを習った頃から歯車が狂いだした。
というよりはピタゴラスイッチが動き出したというべきか。
一見、関係なさそうな出来事が連鎖して、気がついたら私はエリクセン王国第一王子のライネル殿下と踊っていたりして。
「そうそう。なかなか筋が良いよ」
「はあ」
「僕たち、相性が良さそうだね。今度王家主催で舞踏会開くから遊びに来ない?」
「殿下の家って王宮ですよね?」
「たいしたことないよ。今は観光用に一般に開放しているしね」
ここら辺でさすがの私も悟らざるを得なかった。
ここってアレなんじゃない?
もちろん私は転生者です。
ピタゴラスイッチとか言ってる時点でバレバレですが。
ちなみに私の髪はストロベリーブロンドだ。
「どうしよう」
「あー、やっぱり。いいわよ。ドレス用意してあげる」
アリーヌが黒幕なんじゃ無いの?
ということで舞踏会の夜。
今時馬車なんぞに載せられて王宮へ。
表門は舞踏会を観に来た観光客で大混雑なもので、裏の方から入りました。
そのまま真っ直ぐに案内されたのは、どう見ても王家の私室だった。
アリーヌも平気でついてきてるし。
何が始まるんだろう。
虐めとかあったりして。
悪役令嬢もいるだろうな。
でもどうしようもない。
一応だが、エリクセン王国は封建主義国家で私は貴族家の者なのよ。
王家に命令されたら従うしかない。
で、やはり気がついたら皆さんが輪になって見守る中、殿下と私は広間の真ん中で二人きりで踊っていた。
もちろん魔法なんかかかってないから自力でダンスしている。
アリーヌにとことん叩き込まれた。
鬼だ。
「あの殿下」
「何?」
「これ、3回目なんですが」
「そうだね」
ヤバい。
「あの私、礼儀も知識も外国語もコネも何にもないんですが」
「いいのいいの。これから勉強してくれれば」
「いや無理でしょう!」
「大丈夫だって。そんなこと言い出したら僕だって国の事も政治も何も知らないよ。まあ外国語は出来るけど」
そうなのか。
スパダリじゃなかったと。
すると殿下は踊りながら教えてくれた。
「大事なのは君の身分と容姿と頭脳ね。本当は平民がいいんだけど、優秀な平民女性は自立したがってとても王家の嫁になんかなってくれないし、かといって高位貴族家の令嬢はお互い同士の利益共有のための婚姻でやっぱり王家になんか嫁いでくれない。
旨味がないからね」
そうなのか。
「でも身分が違うと色々と」
「もうそんな時代じゃないから。王子と高位貴族令嬢が結婚しても何も面白味がないでしょ。やっぱり身分の低い、でも可愛くて頭が良くて健気な女の子が王子に見初められて妃になる、というようなストーリーがウケるから」
絵本かよ!
「そんなことして国は大丈夫なんですか?」
「もう政治も経済も外交も全部政府と議会がやってる。王家はキンキラキンの服着て周りの国におべっか使っていればいいんだよ。
大衆に娯楽を提供するのが役目。
王家、もう国の実権ないから」
何てこった。
乙女ゲームって現実だったのかよ!
もちろんアリーヌさん家は王家に依頼されて良さそうな嫁を斡旋していたわけです。