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咲かない雑草の願い【chatGPT利用】

作者: 夕暮れの家

短いです。サクッとお楽しみください。

「痛っ!」


 また踏まれた。

 ゴツゴツした靴底が容赦なく押しつぶしてくる。アスファルトの隙間、わずかな土に必死に根を張って、こうして生きているのに。

 ――人間なんて嫌いだ。無遠慮に、無配慮に、私たちを傷つけていく。


「大丈夫?」


 隣で、くたっと折れた葉を持ち上げながら、友人が声をかけてくる。


「うん、大丈夫!そっちは?」


「大丈夫、いつものこと。もう慣れたよ」


 そう、もう慣れた。

 踏まれたって、ちぎれたって、私たちはまた立ち上がる。雑草だから。


「うんしょ、うんしょ」


 友人は、傷んだ体を震わせながら、ぐっと芽を伸ばす。

 ぺたんと押しつぶされた葉の間から、新しい緑がのぞく。踏まれたあとは、いつもより一生懸命だ。


「ねえ、頑張ろう。そしたらさ――」


 続きは聞きたくない。

 聞いてしまったら、きっと、期待してしまうから。


「私たちも花が咲くかも!どんな花だろう」


 友人はいつも夢を語る。でも、私は知っている。

 私たちは咲かない。ただの、名もない雑草だということを。


「そうだね。どんな花かな?」


「綺麗だといいな~」


 ――この景色が、私たちのすべてだ。

 カサカサと乾いた風が吹くアスファルトの隙間。モノクロみたいな世界。

 今日も変わらない日々が過ぎていく。きっと明日も、明後日も。ずっと、ずっと。


 そう思っていた。


 でも、冬が来た。空は重く沈み、冷たい風が容赦なく吹き抜ける。

 友人が病気になった。


「ゴホッ、ゴホッ、もう私、ダメかも」


 葉先が茶色く枯れかけ、震えている。


「元気出して。春になったら、暖かくなるから」


 薄っぺらい励ましだってわかってる。

 でも、言わずにいられなかった。


「ゴホッ、ゴホッ、春か~……そしたら私たち、咲けるかな?」


「うん、春になったら、きっと咲けるよ。私たち。楽しみだよね。だから――」


「うん、頑張る」


 友人はか細い声でそう言って、もう一度、葉をわずかに持ち上げた。


 私たちは咲かない。

 咲かないけど――いいじゃないか。

 こんな嘘くらい、許されても。


***


 冬が終わった。

 冷たい空気に耐えながら、ようやく、空が少しずつ青くなる。


「暖かくなってきたね」


「うん……一時はダメかと思った」


 友人は持ち直した。縮こまっていた葉が、また空に向かって広がっていく。

 これぞ、雑草魂。人間にも、冬の寒さにも負けない。


「うんしょ、うんしょ、咲くかな~」


「咲くかな~」


 ――ごめんね、咲くわけないのに。

 でも、こんな嘘なら、きっと悪くない。


「うんしょ、うんしょ」


 今日も友人は、負けじと芽と葉を伸ばす。

 私も、友人に釣られて芽を伸ばす。

 目線が合わなくなるのが、嫌だから。


「咲け~~!!」


 力いっぱい、空に叫んでいる。

 咲くわけ、ないのに。


「やったー!咲いたー!」


 えっ!?

 隣を見ると、友人の葉に、薄紅色の花びらがそっと乗っていた。


「見て見て、咲いた!桜だよ、私!」


「うん、綺麗!」


 ふわり。風が吹いた。

 友人のところに止まっていた花びらが、ふわりと舞って、私の葉にも降りた。


「あっ!咲いた!」


「うん、私も咲いちゃった」


 暖かな光の中で、私たちは笑いあった。

 この日のことは、きっと一生忘れない。

 ほんの、小さな、小さな願いが、叶った瞬間だった。


***


 カシャッ。


「隆太、何撮ってんの?」


「ん?雑草」


「は?なんで雑草?」


「いーじゃん、好きなんだよ。アスファルトの隙間から生える雑草」


「見して」


 スマホの画面を覗き込む。

 そこには、アスファルトの隙間から元気に芽を伸ばす二つの雑草があった。

 まるで写真を撮られることを喜んでいるかのように笑っているかのように見えた。

お読みいただきありがとうございました。

あなたさまに幸多からんことを。

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