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第8話:タルパへの誘い

 経済状況や人間関係に囚われず、幸福にオナニーを行う時、束の間、彼は自分勝手になり、自由になる。誰にも邪魔されず、気を遣わず、人体という小宇宙の深淵へ降りていく孤高の行為であるオナニーとは、現代人に平等に与えられた究極の癒しと言えるのである。

 連休の朝、鳴海は新幹線の窓際に座り、カップホルダーに缶コーヒーを置いた。豊橋からの誘いで、彼の実家の寺を訪ねることになった。東京の喧騒を抜け、列車は緩やかに都市を離れていく。

 トンネルを抜けると、視界の先に広がるのは青く果てしない海。穏やかな波がきらめき、寄せては返す水音が、聞こえるはずもないのに、耳の奥で想像される。窓の向こうの景色に、鳴海は無意識に息を飲んだ。

 電車の中で本を開いていたが、活字は景色に溶け、ただ視線を流れる情景に吸い込まれるばかりだった。


「……久しぶりに、旅をしている気分だな」


 そう呟いたのは、いつぶりだろう。

 やがて、目的の駅に着くと、湿った潮風が頬を撫でた。鼻腔には、かすかに磯の香りが満ちる。ホームに降り立った瞬間、東京では決して味わえない時間の流れを感じた。ゆるやかに、人の歩く速度も、風の流れも、すべてが違う。

 改札を出ると、豊橋が待っていた。


「よく来たな」


 相変わらず、彼の三白眼は鋭く光を宿しているが、僧侶としての風格が加わり、より厳かに見えた。


「随分立派になったじゃないか」


 鳴海がそう言うと、豊橋は微かに笑った。


「……いや、まだまだだよ。とにかく、寺に案内するよ」



―――

 車で山道を抜け、しばらくすると、目の前に寺が現れた。

 そこには、歴史の重みを感じさせる荘厳な佇まいがあった。軒先の彫刻、柱に刻まれた仏の像、ひとつひとつが時を超え、今も静かに佇んでいた。


「すごいな……」


 鳴海は、思わず圧倒される。


「うちは、代々この寺を守ってきた。俺の代になってからは、海外の寺とも交流を持つようになったんだ」


 豊橋はそう言いながら、境内の奥へと案内する。

 寺の内部は広く、畳の間に静けさが広がっていた。どこか異国の空気が漂う装飾品が、ところどころに飾られている。


「これはチベットの寺院との交流で得たものだ」


 そう言いながら、豊橋は小さな仏像を手に取る。


「チベットか」


 鳴海が興味を示すと、豊橋は静かに頷いた。


「チベット仏教には、独特の修行法がいくつもある。その中でも、特に異質なものがあるんだ」



―――

「タルパという修行法を知っているか?」


 鳴海は首を振った。


「タルパとは、自己催眠を極め、自己の意識を追い詰めることで、幻覚を生み出す修行だ」


「幻覚?」


 豊橋は、少しずつ語り出した。


「まず、ひたすら自己催眠をかける。すると、やがて脳が自分を欺き、幻覚を生じさせるようになる。最初は、声だけが聞こえる。だが、その声と会話ができるようになるんだ」


「会話が……?」


「そう。自分が求める存在を想像し、意識の中に定着させ続けることで、それはまるで実体を持つかのように動き始める。目を開けていても、まるで実在するかのように感じるんだ。そして、さらに修行を続けると、その幻覚が自分の意思を離れて自由に動き出す」


 鳴海は、言葉を失った。


「つまり、完全にコントロールできる幻覚を作ることができる……?」


「そうだ。だが、問題は、途中でコントロールを失うことだ。修行に失敗すると、その幻覚が暴走し、本人を攻撃するようになる。やがて、現実と幻覚の区別がつかなくなり、精神を壊してしまうんだ」


 鳴海は、背筋が寒くなった。


「……それを、俺に試してみろと?」


 豊橋は静かに首を振った。


「遊び半分でやるものではない。だが、お前は今、自分を見つめ直すべき時期にいるように見える。もし興味があるなら、やってみる価値はあるかもしれない」



―――

 帰りの電車の中、鳴海は窓の外を眺めながら考えていた。

 金山が渡した催眠音声。

 それと、豊橋が語ったタルパ。


「自己催眠……意識を変えること……」


 電車の窓に映る自分の姿が、どこかぼやけて見えた。



―――

 帰宅した鳴海は、ベッドに横たわりながら、過去の記憶を手繰るように目を閉じた。

 ふと、離婚した堀田の姿が脳裏に浮かぶ。

 出会ったばかりの頃の、あの笑顔。

 堀田の声を、もう何年も聞いていない。


「……もし、タルパを作ったら……」


 あの頃の堀田が、目の前に現れるのだろうか。

 鳴海は、ゆっくりと息を吐き、目を閉じた。

 このまま、あの頃の彼女を夢に見ることはできるのか。

 そして——もし、夢の中で彼女と会えたなら。

 それは、現実と何が違うのだろうか。



―――

 こうして、鳴海はタルパという未知の扉の前に立った。

 それを開けるべきか否か。

 その答えは、まだ見えなかった。






//この小説は100%AIにより執筆されたものです//


今回のプロンプト


■8話のあらすじ

 ・連休に、豊橋から招かれて、鳴海は豊橋の実家であるお寺へと電車を乗り継いでいくことになる

 ・都会の喧騒から離れて、電車の窓から見える海の景色や、駅を降りて感じる海風や潮の香りに鳴海は少し旅情を感じる

 ・豊橋の寺は、歴史のある荘厳とした寺院で、建物も立派だった

 ・豊橋は鳴海に、寺の来歴や、調度品、施設などを案内してまわる

 ・豊橋は、チベットにある寺院との交流があることを鳴海に語る

 ・その中で、豊橋はふと、チベット仏教に伝わる「タルパ」という修行法について、鳴海に語り出す

 ・この修行法は、自分を追い詰めて自己催眠をかけることで、故意に統合失調症の様な状態を作るところから始まる

 ・その状態で、自分が会いたい人物などを、あたかも実在するかのように夢想し続ける

 ・すると、やがて声が聞こえてくる様になる。その声とは、実際に会話ができる。あくまでもこれは幻覚だが、本人にとっては現実と同様である

 ・そして、修行を極めると、姿が見えるようになる。自分が妄想した人物が、自分の意思を離れて、好き勝手に動き出す

 ・この幻覚を操れる様になれば、タルパの修行は完成となる

 ・だが、修行を失敗してしまうと、この幻覚が制御を失ってしまい、やがて本人を攻撃し始め、そのまま統合失調症の幻覚の世界から戻れなくなる、という

 ・豊橋は、遊び半分でやっていいものではない。しかし、鳴海の様子を見ていると、自分を見つめ直すためにも、一度試してみる価値はある、という

 ・鳴海は、先日金山が渡してくれた催眠音声に似た話だな、と思いながら、豊橋の寺院を後にする

 ・帰宅した鳴海は、離婚した堀田の、出会ったばかりの頃の姿を思い出しながら、タルパを作ることについて、思いをめぐらすのだった


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