後編
「賢い方は迷いも少ない。
けれどもそこに落とし穴が生まれる」
『雑音』は歌うように風に言葉乗せ、燃え上がる大地を見る。
「咄嗟の判断には習性が生まれる。
あなたの場合まず防御を優先し、そして逃げる時は右へ飛ぶ。
投網を破るでなく触れることさえ警戒し、見事に罠にかかった」
遅まきながら集まってきた衛兵を高みから見遣り、雑音は続く。
「……あの爆発の前にいかに貴女の魔法防御といえ防ぎきれるものではないでしょう」
その声は余りにも無感情。
「その程度ですか?
所詮、過去の残滓なのですか?」
湧き上がる心の歪み。
彼は冷たく、そしてもどかしく思う。
後一つ。
そう、自分の心に生まれた不協和音をどう膨らませればよいのかを模索しながら、侮蔑の言葉を生む。
消火活動が始まったらしい。
そろそろこの場を離れなければならない。
数カ所に仕掛けた同じ罠が何時誘爆してもおかしくはない。
きっと多くの死者が出るだろう。
そしてこの一角は昔を忘れ生まれ変わる。
そう、所詮過去など追憶の中にしかなく、覚え伝う者が消えてしまえば幻想よりも希薄なものになる。
「あなたがその程度であるならば、結局世界はその程度なのでしょう。
どんな悔恨も、どんな絶望も、全ては泡沫に消え行くのみなのでしょう」
ならば ────と、歌う。
「感情など得たところで何も変わらないのでしょう。
憤りに胸掻いたとしても、それは刹那の夢なのでしょう」
闇より黒い黒煙が昇る。
旧きを飲み込む蛇の顎は何を飲んで空に逝くか。
あの表情を思い出す。
「己の行為を振り返り、より良い未来を夢想する。
そこに至れぬ事を悟り、どうしようもない時間の流れを苦悩する」
それが『悔恨』の定義。
戻れぬ過去、掴めぬ未来。
そう、それは不毛な精神苦痛。
「今この胸中にあるのは……きっと残念という思いなのでしょう」
己の手の中から出られなかった少女への失望。
それは己の否ではなく、故に悔恨とならない。
「かの殺人鬼は何を思い人を殺めたのでしょう。
彼には彼にしか見えぬ何かがあったのでしょうか?」
ただ黙々と命を刈りつづけた狂人を思う。
それは自分も同じ事だ。
別に金なんてどうでもいい。
殺しの仕事などしなくても生きていける。
なのに自分は人を殺めることを止めない。
こうして無為な死を生み出してなお失望という思いだけがあった。
「息をするように人を殺め、そうしていつか殺められ……
止まるまで終わらない循環を繰り返す他ないのでしょうか?」
「黙れ小童が」
杖の先が向けられた。
すすだらけになりながら、凄惨な姿になりながら、少女はそれでも杖を手に翠の瞳に濁りはない。
鮮烈な朱の光景になお白き姫は純粋な闘志を失っていない。
「…… スティアロウ皇女」
「今すぐ他の仕掛けの場所を言うのじゃ」
ぽかんとしている自分に気付くまで数秒要した。
「……くく……」
「……」
「く…… あははははは」
ティアは睨み何も言わず、その杖の先に魔法の矢がある。
放てば確実に彼を殺す必殺の矢。
身に纏う白銀の鎧。
純粋なる美───そう、煌々と降り注ぐ銀嶺の元でその気高き少女は性別や種を超えてただ美しいと感じる。
否、自分が美しいと思うそれは白刃の煌き。
殺戮の宿命を背負いながらそれでも人を惹きつける狂気の美。
「なるほど。それがリリエンクローンとか言う魔法の鎧ですね。
装着するために周囲のものを弾き飛ばす特性があったとは……これは計算外です」
粘性の罠ごと吹き飛ばしたティアはリリエンクローンが持つ飛行能力に《浮舟》の加速を得て脱出する。
それがティアの採った脱出方法。
大きく息を吸い込み肺に熱を吸い込まぬように息を止めて。
「言え。他の罠はどこじゃ!」
「教えましょう?」
笑みは深く、声は緩やか。
「けれども私は嘘をつくかもしれない。
あなたが確認している間、私が大人しくしていると思いますか?」
「御託は要らぬ。どこじゃ!?」
沈黙。
騒ぎの声は遠く近く、けれども二人の間にある緊張に踏み入る事はできない。
「全部で5カ所。
目印はあなたの知る通り、吹き飛ばすための仕掛けがしている場所です。
探せばすぐに見つかるでしょう。
このスラム街限定なのでね」
疑問。
観念とはかけ離れた笑みのまま語る言葉は真実かと。
それも『雑音』の掌の中。
彼は感情なき故に安心せず、確信せず、二重三重に罠を張る。
「ちなみに、この真下もその一つです」
絶句。
自分はさらに張り直した《防陣》があるが、この男にそのような防備は見て取れない。
「さて、姫様。
聞きたい事はそれだけですか?」
何かの間違いで吹き飛ぶかもしれないのに、彼は涼しい顔で問う。
「……ぬしは何者じゃ?」
じわりと、不安という刃が少女の心を抉る。
それを顔に出さぬように眉根に力を混め、睨む。
「それは告げたはずです。
もっとも、証明する手段はありませんが」
炎の勢いは弱い。
僅かに加味された薄明かりの中で二つの影はただ対峙。
「私は『ノイズ』。この世界の雑音です。
貴女のような力のない、ただの現象です。
それは暗殺者という殻を纏いここにあります」
「騎士の誇りは伝うことなかったか」
篭る悲嘆にアサシンは笑む。
そう、これが私の欲しいものだと。
だからノイズは歌うように伝う。
小さな体に狂える不協和音の旋律を。
「存じません。
私の知らぬ頃から私は暗殺者でした。
仮初の太陽、仮初の楽園。
そこに満ちるのは死とそれを運ぶ無慈悲な手のみです」
「道すらなかったか」
「はい」
頭の中で数字が進む。
「貴女にはお分かりでしょう。
私には人を殺めるという罪が存在しない。
なぜなら人が食すために牛や豚を殺すことを厭わないからです」
殺意も敵意も存在せず、ただ必要だから刃を奮う。
かの殺人聖者と同じように。
「私は殺すために野に放たれては、笑い嘆く者たちを羨ましく思いました。
私に許された感情は『欲求』というただ一点です。
しかしどんなに欲しいと強請ってもその最初の足がかりを奪われた私に術はありませんでした。
賢明な貴女には分かるでしょう。
生まれてすぐに耳を奪われた者に、聞き語るという概念は存在しえないと」
それは戯言でもなんでもない。
人は当たり前のようにその感情を持つからこそ、この『雑音』の思考を狂人と認定する。
『当たり前』とか『常識』という言葉で世界を見る者にとって彼は到底理解しえな存在。
ありとあらゆる物を客観的に観測し、判断する事を信条とするティアは狂気の理由を見て同情の念を堪える。
さりとて同情などこの男には決して理解できまい。
「だから、私に命じるそれを破壊しました」
理解してもはや心は動かない。
つまり彼は一流の判断能力と身体能力を持ちながら、感情という一点で幼児。
人の世界に混じるためのペルソナを纏う砂城の上に立つ者。
「けれどもサーガで踊る者達の激情の一つ足りも理解するに足りませんでした。
心の底からという言葉の意味を知るにはあまりにも儚すぎた」
どれだけの骸の上に彼は立つのだろうか。
「だから、貴女と言う存在が今、この時に存在すると知り、私は貴女を求めました。
崩壊せし楽園の姫君。
覇世の英知。あなたほど深い思いに踊り、そして気高き者を私は知らない」
「だから、わしを殺したいと?」
「私は、死という腕だけで抱く事を許されましたから」
ありとあらゆる物に真に触れんとするならば、彼は死という崇高な行為によって腕を広げる。
そう、愛する事、思うことを許される。
誰にも理解されない。
世界が否定し拒否しようともそれが彼であり、彼はやはり世界によって作られた澱みであることは間違いない。
死を尊び、死を畏敬し、死により世界と触れ合い、そして殺すという手段を以って存在する。
千の刃、千の剣、千の血流、千の惨劇。
決して触れ合わぬ刃の邂逅。
ただ結果だけを見続け、苦悩する事すらできず苦悩する殺人人形。
放たれるのは問いというEdge。
死という結果を超えて応じる声はない。
彼の刃は暗殺という舞台にあって必殺を命じる。
それはスマートなものでない。
死なないなら死ぬまで刃を繰り出し続ける。
無数の問い。問いを放ちながら死を経過して初めて返答を待つ。
その根底的矛盾に気付けない男は静かに笑う。
笑う仮面の奥から見据える。
「さて、時間です」
彼は軽く告げた。
「貴女の防御魔法は本当に素晴らしい。
けれども呼吸をする限りあなたはそれを取り込まざるを得ない」
「毒……かっ」
ふらり、ティアの体が揺れた。
「はい。
小屋の中に遅効性のものを混ぜて置きました。
確か、教会製の状態回復剤は小瓶に入っていたと思いますが、
あの爆発の中、無事でしたか?」
奥歯を噛み締め、じっと耐えるように男を睨む。
「あなたが使える魔術はコモンマジックに類似するものと聞いています。
解毒の魔法はご存知ですか?」
「……」
返答はない。
「驚きました。
しかし、残念でもあります。ここまでですか」
『雑音』は笑みのままの無表情。
「余裕……じゃな…… わしが……く、わしがこを放たば……ぬしは死ぬのじゃ……ぞ」
搾り出すような声が夜風に消える。
しかしその全てを聞き遂げて、『雑音』は当たり前のように問う。
「それが?」
死は終わりでなく、問い。
「姫君。私にそれを拒むつもりはありません」
平常というにも静か過ぎる声音で彼は応じる。
「放ちなさい。そして私に絶望を見せて下さい。
悔恨を、貴女のその深き思いを見せて下さい」
「……」
ティアは深く、重く、そして辛く、吐息を吐く。
伏せた目。銀の髪が月光に舞う。
「我が力は万物を支配する」
そして放たれた言葉は力強く、杖の先に灯る魔力の光を輝かせる。
「……なるほど。次の手を聞くのを諦めましたか?」
「気付いておったなら、何故逃げぬ?」
彼女ははとっくにリフレッシャーを使っている。
毒を取り込むと何故か変色するグリーンスライムのおかげである。
そしてリリエンクローンで散り散りになる道具を保持するのは彼女のペット、G-スラの役目である。
その体内に安置された小瓶は割れる事無く彼女の元に戻っていた。
「心音が変わらなかったですから」
「何故、逃げぬ?まだ手があると言うのかえ?」
「貴女に下されるのであれば、拒む理由もありません」
一際大きな風の中、ティアは逡巡。
「穿ちなさい。
お姫様。
この末路もまたひとつの雑音とし、一瞬世界に刻まれ、消え行くのでしょう」
「黙れ。
大人しく縛に付くが良い」
「無理ですよ。
ここで殺さなければ私を捕縛する全てを殺し…また貴女のところに来るでしょう」
純然たる事実に少女はただ眼光鋭くしかし光は動かない。
「その迷いが、貴女なのですか?
私は貴女にとって悪であり消し去るべき存在になりえたと自負します。
それでも迷うのですか?
スティアロウ様」
「黙れと言うておる!」
恫喝。
だが、それの無意味さは彼女が一番よく分かっていた。
「どうやら、結論はでないようですね。
ではそろそろ私は失礼させていただきましょう」
衣擦れの音一つなく一礼する。
さび付いた歯車の音がティアの心臓に響いた。
「穿てっ────」
「全ての意志は我が意志に従う────」
涼やかな声の介入。
記憶が反応し、意識が引き攣りながらも魔を司る部位は意志を貫く。
「魔弾!!」
「偏向」
どこまでも追いすがるはずの魔力の一撃があらぬ方向へと疾走。
真下────そう思ったときにはティアは大きく距離をとる。
─────────轟音
直下の建物が弾け飛び、無数の飛礫が魔法の防護を叩く。
刹那の惨状から晴れたとき、地に立つのは一人の女給と、それに支えられた血塗れた男。
「……っ!?」
それは微笑み、優雅に頭を垂れる。
「失礼いたします。
姫様」
わなと、体が震えた。その金の髪は熱気が生み出す上昇気流が優雅と踊らす。
「ミスカっ!!」
「はい?」
ゆるい笑みを浮かべ己の名を呼ぶ少女に返事。
どういうことだと問う声は凍り付き、賢明なる少女を見たミスカは笑みに満足を加える。
「はわぁ。やはりお忘れですか、姫様──私の現在の主を。
例えこの体はフウザー様にいただいたとしても、この魂はあの方に縛られているんですよぉ」
あの方という単語に怒気が膨らむ。
しかしカケラも気付かないと少女はにこやかに続ける。
「そして思い出してください姫様。
あの後で誰が彼の環境を整備できたかを。
そしてただの女給たる私が、どうして戦略などをあなたに教えることが出来たのかを」
真っ赤に焼ける大地の上。涼しげに見上げる瞳は快。
「でも、仕方ありません。
メイア様という特異な方で『異常』に慣れた貴女は、あの方を受け入れた事で私の存在に疑問を抱けなくなりました」
よっこいしょとファムを路上に引きずり出したミスカは大仰に額の汗を拭って再び見上げる。
「私は最初から舞台の裏方なのですよぉ、姫様。
貴女が生まれるずーっとずーっと昔から」
「あやつの眷属と言うか!」
「いいえ。
あの方の女給ですわぁ。
賃金は前払いで頂いております」
むせ返る熱気の中。漂ってきた特異な香りに眩暈すら覚える。
「貴女の魔族を嗅ぎ分ける特異な嗅覚も、私とあの方を隠蔽するためのギフトなのです。
魔族同士の共感作用。
普通の魔族の方々は隠されませんしね」
沸騰する。
冷静沈着を信条とするティアが真っ白になる思考の中でただ殺意だけを知覚。
向けられた杖の先には凍て付く死の刃。
「我が力は万物を支配するっ!」
冷たき怒気が膨れ上がり、疾走─────
「霧散」
たった一言。
必殺の氷槍が霧となり、大気に散る。
怒りの中で、知識が叫ぶ。十三系統魔法操魔魔法─────
「十三系統魔法の中でも最も特異な系統魔法。
万物のを歪める魔術自体に干渉する魔法」
散った魔力はミスカの周囲を光と舞う。
「唯一原理魔法に遠く、唯一完成に近かった異端の系統。
姫様、これが私の報償です」
「黙れっ!
魔弾っ!」
息もつかぬ連続詠唱。
周囲に纏うは魔力の弾丸。
「放てっ!」
三つが同時に飛ぶ。
しかし意味がない。
「偏向」
必中の刃が軌道を逸れ、大地を揺るがす。
「放てっ!」
続くように二つが疾走。
その後ろを追随してティアが舞う。
「反射」
返る魔力が己の魔法防壁を削り、二つ目の《魔弾》が完全に消し去る。
無防備になったティアだが、不敵なるメイドは目前────
「歪曲」
リリエンクローンの飛行能力が歪み、制御を失うより早く粒子となりペンダントに戻る。
裸足が異音。
焼ける大地を踏みしめ衝撃に悲鳴を挙げる膝を無視。
裸身の少女は舞い降りたそれを掴み、一歩前へ。
「させません。奪取」
目の前の魔法反応。
その制御を奪った瞬間、思考に響くえも知れぬ雑音────
「スラ───っ!?」
体の動作を奪われたG-スラがぽとりと落ち、そのさらに後ろから魔法剣ラファエルの輝き。
「あ」
声が無意味に漏れる。
そして閃光。
白い胸元に叩き込まれた。
迸る魔力光は少女の体をあっさりと吹き飛ばした。
「……」
残骸を見下ろし、リリエンクローンを再発。
体を隠す。
そうして現れた魔力に視線を向ければ見知ったハーフエルフが慌てた顔でやってきた。
「ティアちゃん無事かいっ!」
返事する気力もなく、制御を取り戻したG-スラが熱を嫌がって頭の上に逃げてきたのを感じる。
「うわっ、火傷だらけじゃないか。手当てするから────」
くらり、よろける体を慌てて支えるフウザー。
「無茶しすぎだよ。あの魔族はどこだい?」
「殺した……」
声が濁る。
「殺し……た。わしが……」
落ちる涙。
零れる嗚咽。
「どうしてじゃミスカ。
ぬしまで……何故っ!」
「ティアちゃん……」
常に冷静で、全ての情を失ったような判断を下す少女が堪えきれずに泣いていた。
「あいつは……」
「分かっておる! 魔族じゃろう!? あの馬鹿の手下なのじゃろ!」
膝にも体にも、一切の力が抜けきり、大粒の涙だけが溢れ出す。
「どうして、あやつらを……どうして……」
「ティアちゃん。
こいつは────」
二人は聞いた。現実の音でなく、魔力の破砕音を。
「っ!?」
「大気の壁っ」
展開する魔力壁。
滲む視界の向こうで殺したはずの少女が微笑んでいる。
纏う衣服はなく、しかしその裸身はその向こう側の風景を透かし見せる。
「こいつは不死身なんだ」
ここに現れる直前まで、ミスカと対峙していたフウザーは警戒も露に睨む。
『はい。そういうことです。ちなみにこの姿が基本スタイルなのですよ。姫様』
思念波を受けて、ティアは力の入らぬ膝を痛みの消えぬ心を強く感じる。
『あの方が『無敵』の概念存在であるように、私は『不死』という概念存在です。
力的にはあの方と比肩するような言い方は無礼極まりないのですけどね』
苦笑という念に引き攣る喉は何も言えない。
ただそこにある無力がなお深く心を切り裂く。
「まだ、何かをするつもりかい!?」
『いえ、あなた方は聞いたはずです。
魂に架せられた鎖が弾ける音を』
微笑は柔らかく、しかし暗い。
『姫様、申し訳ありません。
その言葉で全てを清算できるとは思いませんが、まずはその言葉を』
フウザーとティアを包む大気の壁が解けるように魔力に戻り、ミスカに収束。一言で転化。
『模倣 創造魔術 戦神』
その魔力が凝縮し、周囲の石や土、散った己の体を収束させ、肉体と化す。
再びメイド服を纏うミスカは静かに一礼。
「今、私が全てを語ったとしても、姫様には伝わらないでしょう。
ですので、ただ一言だけここで述べさせていただきます」
それは母の笑み。
柔らかく、慈しむべき相手にのみ向けられる物。
それを見て混乱は思考。欺瞞に満ちた世界がかすかに揺らぐ。
「私は姫様が大好きです。
ジェルド様も、メイア様も……時を置き、決心がついたら私のところへいらしてください。
全てをお話ししましょう」
「戯言を……っ、何処に行く……っく、つもり、じゃ」
押し出すように問う声に笑み。柔らかく、眉尻を下げて仕方ないですねと笑う。
「もちろん、ミルヴィアネス領ですわ。
そこには、新しいファルスアレンがありますから」
「まだ、何か企むのかいっ」
敵意を消さぬフウザーに苦笑。
「そうですね。まずはこの子を再教育しましょう」
手に引き寄せるはノイズという名の暗殺者。
「彼らは貴女のために、消す者となった人たちの末裔です。
そして、私のために刃となった者です。まずはその償いを」
「ミスカ────」
「何でしょう?
姫様」
何も変わらない応じに今度こそ思考は混沌。
「……では、失礼いたしますわぁ」
取り出したのはマナマテリアル。神殿で作られていた高密度のマジックストーン。
「模倣 物理魔法 跳躍」
その姿はあっさりと廃墟から消え失せた。
まるで幻のように─────
それは悪夢なのか、幻想なのか。
小さな身を震わせるばかりの少女には、わからなくなっていた。