第9話
…
ゼクロード王国 南西 ホエル領のとある大酒場にて
「メロウお疲れ様。」
「え、あ、ありがとうございます。レイジオさんもお疲れ様でした…」
こんなに大規模な魔物達との戦闘は初めてだったかもしれない。さすがに相当疲れた。
現在は魔物達の撃退に成功した後、大酒場を貸し切りこの町の兵団員達の祝勝会に参加していた。
「おう、勇者さん、魔法使いさん、お疲れ!」
背が高く筋肉質な体をした男が俺たちに話しかけてきた。
「メイゴさんもお疲れ様でした。」
「あ、ありがとうございます。」
メイゴさんはこの町の兵団の団長だ。
先ほど終えた大規模戦闘において指揮を行っていた。
劣勢状態であったにも拘わらず、メイゴさんの的確な指揮でどうにか打開できたのだから。
メイゴさんが大きな腕で俺の肩を覆う。
「にしても勇者さんに魔法使いさん!なかなか強いじゃないか!おかげで被害も少なく済んだよ。」
「ありがとうございます、死者もいなくて本当によかったです。」
「え、あ、ありがとうございます。ただ、あんなに魔物が多いなんて…」
「ああ、それに…」
あんな大量の魔物達と相対する事も初めてであったし、しかも魔物達は統率が取れていたような気がする。
「メイゴさん、魔物達が『撤退』をする事なんてかつてありましたか?」
「いや、ないね。俺もそれが気になっている。」
そう、魔物達が『撤退』したのだ。
これまで魔物達との戦闘は、基本的にやるかやられるか、我々人間達が撤退をする事があっても、魔物達は撤退するなんて行動をしたことは無かった。
というか魔物達は基本的に10数匹の群れで行動しており、今回のように100を超える魔物達と戦闘するのは初めてだった。
そもそも、魔物達は人間に寄生する精神体。魔物に寄生された人間だったものは、まるでゾンビのようなものだ。
知性なんてまるでなく、ただただ食事・寄生した肉体の維持のためだけに目の前の人間や動物を襲う。
「今回の襲撃の件、王国へ報告をした方がいいのではないでしょうか?もしこのような事が続くのでれば、国兵団への応援要請も必要かもしれません。」
「ああ、そうだな!おい、マシュー!」
「はい!」
メイゴは自信の秘書官であるマシューに今回の件の報告をするように手配を依頼した。
「今回で魔物の襲撃が終われば良いのだがな。」
「そうですね。」
「まぁいい!今日はお疲れだろうから、沢山食べて飲んでくれ!!」
「はい、ありがとうございます。」
そういうとメイゴは他の兵たちの席へ移動した。
「メロウ」
「え!あ、なんでしょうか?」
「何かあったか?ここ最近様子がおかしいけど…」
「え、あ、いえ!何もありませんわ!」
「そうか、何もないなら良かった。でもあまり無理はしないでくれよ。君は大事な仲間なんだからね。」
「えっ、あ、はい!」
…おかしい。明らかに以前の彼女と違う。
以前の彼女はいいところのお嬢様という印象を抱いていたのだが、すこし挙動不審な気がする。それに…
「あ、あの、レイジオさん」
「ん?どうしたんだ?」
「あ、いえ、なんでもないです…」
「そうか。今日は疲れただろう。明日はゆっくり休もう。」
「そうですね…」
以前までは「勇者さん」としか呼ばれなかったのだが、ここ数日間にいつの間にか俺の名前を呼ぶようになっている。
というか、国王に姫の救出及び魔王討伐の命令を受けたときから俺を名前で呼ぶ人はいない。彼女だって、その命令を受ける前から面識はあったはずなのに、それ以降は「勇者さん」と呼び、俺を名前で呼ぶことは無かった。
以前までの俺はそれを当然のことのように受け入れていたのだが、彼女の件がきっかけとなり、出会う人すべてに「勇者さん」と呼ばれるようになったことに違和感を覚えた。
自己紹介で自分の名前を伝えているはずなのに。
まぁ、考えすぎてもしょうがない。
それに魔物討伐もあってかなり疲れた。もう休もう。
…
次回も夢の世界でのお話です。