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ゆめのけむり  作者: またたび
第1編 英雄 第1章 夢のはじまり
8/23

第8話


おかしい。


おかしい。


確かに、夢の中の世界ではタントという青年に出会った。ブルーの綺麗な目をしていた。彼の笑顔は太陽のように眩しかった。


彼と過ごした時間、そして別れた時の事も。

ちゃんと覚えている。


しかし、何故夢の中の俺は覚えていないのだろうか?


「なんでだろうね」


声が聞こえた。それに部屋が煙たい。


「おまえか。ディスパー。」

「おはよう。いやー、相変わらず君の夢は美味しいね。」

「…そうか。」

「確か夢を食べると言っていたな。獏といったっけ?」


こいつははたして獏なのだろうか?明らかにネットで調べた画像と一致しない。

そもそも二足歩行な獏なんていないだろう。人間かと言われると決してそんな事はない。

顔は異形そのもの。鼻がやけに長い。


「で、どうしたの?この前はあんなに怖かったのに。」

「いいだろ。そんなことは…」

「そうだね。」

「ただ、最初に会ったときは…その…悪かったよ。」

「いいよ。気にしてないからね。」


部屋中が煙に包まれる。


「聞きたいことがあるんだ。」

「どうぞ。答えられることであれば。」


「夢の中に、お前と同じ名前を名乗る少年が現れた。」

「おお、そんな事があるんだね。」


「お前は俺の夢の中をのぞけるのか?」

「そんなこと出来ないよ。僕は君の夢を味わっているだけ。何だろう。今ここにある煙のようなものだ。それを食べている。」

「そうか…」


「聞きたいことはそれだけかい?」


「いや、他にもある。俺は夢の中で起きた事を鮮明に覚えている。まるで夢の中で別の人生を歩んでいるような。」

「ほうほう。」


「そんなことあり得るのか?確かにいろんな夢を見てきたと思うが、こんなに明瞭なのは初めてなんだ。」


「夢は、『睡眠中に生じる自覚的体験のうち明瞭な映像(imagery)を持つもの』だととある科学者は定義づけている。要は自分の体験を映像化しているようなものだ。」


「つまり、俺の体験を映像化したのが今夢を見ている内容だというのか?」

「そうかもしれないね。あるいは…」


ディスパーは続ける。


「無意識にある、『願望』」


「願望?」

「ああ、無意識にある『願望』を夢によって充足しているというものだ。これもとある学者が提唱している説の一つ。願望充足説と呼ばれているそうだよ。」

「願望の充足…俺の無意識の中にある願望を夢によって満たしているというのか?」


ディスパーはニヤリと笑う。


「君の『願望』はとても強いものなのかもしれないね。だから鮮明に覚えている。」

「なるほど、俺の『願望』か…」


ディスパーはニヤニヤしながら呟いた。

「そんなになりたいんだ。『英雄』に。」


「英雄だと?どういうことだ?」

「まぁまぁ、声を荒げないでよ。」

「お前は夢の内容は知らないと言ったな。」

「うん。分からないよ。」

「なら何でそんなことが分かる!」

「さぁ、なんででしょう?ハハハ!じゃあ、また君の夢を食べにくるからさ、またねー!」

「おい!待て!!」


手を掴もうとしたが、奴は煙の中に消えていった。


なんだ、なんなんだ!あいつは!

「俺に英雄願望でもあるというのか?あるわけないだろう!」


「…」


聞きたい事まだ沢山あったのに聞けなかった。

何故夢の中の俺はタントの事を覚えていないのだろうか?忘れたという方が正確か。


それに彼女もタントの事は一切覚えていないようだった。


まるで、世界そのものに記憶が書き換えられたような…


それにそれに、あいつの言う『英雄』についても…


「…」


気になる。


たかが夢の話と切り捨てるのが憚られるのだ。

何故か分からないけど、そんな段階に来た。もはや夢と切り捨てられなくなっていたのだ。


気になる。


気になる。


気になる。


俺は何を思いついたのかテーブルにあったノートとペンを取り出した。



ゼクロード王国

 建国300年

 300年前、始王ゼクロードによって建国。ホド平野一帯を国土としている。

 現在は近辺の魔物たちと長らく交戦中。


レイジオ・ブルーム

 俺。城下町の飲食店を営む父ランド・ブルームと母ミヨ・ブルームとの間で生まれた三男。

 兄が二人。ともに他の町の飲食店で修業中。年が離れているらしい。会ったことが無い。

 国兵団の入団試験に落ち、城下町の傭兵団で働いていた。黒髪。


メロウ・サザンドリア

 傭兵団に来た依頼先で出会った。その後傭兵団に入団。魔法が使える。

 年は不明だが自分レイジオと近いはず。赤髪、赤い瞳。


タント・レシレム

 旅の途中で出会った僧侶。神聖魔法とやらを使える。金髪。ブルーの瞳。

 魔物と交戦中死亡…


レイナ・ゼクロード

 ゼクロード王家の第一王女。以前、お忍びで城下町に来た際に出会った。



そしてメモを続ける。


魔物 人間に寄生する精神体 なぜ人間?

何故タントを忘れた?メロウだってそう。覚えている人いる?

魔王?魔王なんているのか?いるもんだって聞いただけ

姫の在処、魔王城、さらったのは魔物?

なぜ王は姫の救出&魔王討伐?国兵団は動かない?俺だけに命じた。

魔物多い、というか多すぎ。町の襲撃、いつもそうマジで

後に下町は?兵団があることろは大丈夫 ないところは?


そのノートの数ページは荒いメモ書きに埋め尽くされた。


「…ふぅ」


思えば、夢の世界のことについて考えた事が無かった。

たかが夢の話だ。見た夢の事を真剣に考える人間なんて世界中探してもそう相違ないだろう。


夢だって毎日見るわけじゃない。のんびり考察でもしてやろうじゃないか。セルフ夢分析だ。


『俺だけ』が見ている夢の世界。その世界の全貌を解き明かしてみようか。


「ディスパー、お前だって考察の対象だ。」

一応ここまでがプロローグ的な感じでした。

第1章は短く淡泊にする予定でしたが、筆者自身の予想以上に大きな物語になりそうです。

以後、夢の世界の話が多くなりそうです。

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