第7話
…
夜、とある小屋にて
「…」
「…」
パチパチと暖炉にある薪が割れる音だけが部屋に響く。
不思議な事態だ。
これまで夢の中で起きたことはすべて鮮明に覚えている。というか、夢の中で別の人生を歩んでいるような気がする。
俺が『レイジオ』という名で、城下町で飲食店を経営していた父母のもと三男として生まれた事、何故か自分には剣の才能があって少年時代に町の剣技大会で優勝した事、国兵団の入団試験に受けた事、そして落ちた事、仕方なく、傭兵団で働いていた事。
それになぜか、姫がお忍びで城下町にやってきて、なぜか俺の家で匿うことになった事。それが姫脱走事件みたいな感じで匿ったことを知られたらと思うと胃がキリキリした事だって覚えている。
そして、そんな自分が、何故か国王からお姫様の救出を命じられ魔王のいる城へ旅立つことになった事、傭兵団の同僚であり魔法が使えるメロウを仲間に引き入れた事、それから…
「ねぇ勇者さん。」
「…」
「勇者さん!」
「うっ、すまない、ぼーっとしていた。」
「いえ、大声出して申し訳ありません。」
「あの、聞きたい事があるんだ。」
「はい、なんでしょうか。」
「俺、覚えてないんだ。あのディスパーという少年と出会って以降、それに彼を町に送る途中に死んだはずのタントに…」
そう、今まで長らく旅をしてきた記憶がきちんとあるのに、あれ以降の記憶がないのだ。先ほどの不思議な事態の正体である。
というか、あれ?タントって誰だ?死んだはずってなんだ?
「あの、勇者さん、タントとは一体誰のことでしょうか?」
「ごめん、今の話は忘れてくれ。」
「まぁいいですわ。ディスパー君はあの後町の孤児院に預けたじゃないですか。」
思い出した。そうだった。ディスパーと名乗る少年に出会った後、町まで何事もなかったし、孤児院の院長には事情を話したらすんなり受け入れてくれて、あの少年とは笑顔で別れて…
「ああ、そうだった。すまない、思い出した。そういえば、君からも何か話があったんじゃないか?」
「いえ、なんか勇者さん、以前よりもお優しくなられたと思いまして。」
「そうかな?俺はそんなに自分を優しいなんて思った事ないけど。」
「そんなことありません。勇者さんはとてもお優しいお方です。」
「じゃあ、優しくなったっていうのは?」
「自分に対してです。今までの勇者さんは、勇者さん自身に対してとてもお厳しい印象を受けました。まるで自分に厳しいといいますか、まるで生き急いでいるというか…」
「そうかな…」
「はい、それに以前までは寝言でよくおっしゃっていました。『自分が死ねば良かった』と…」
自分が死ねば良かった?どういうことだ?
確かに彼女の両親を助けられず、討ち取るしかなかったことに対しては申し訳ないと思っているが…
それに後悔することはよくあるけれど、『自分が死ねば良かった』なんてレベルの後悔なんて心当たりがない。
まぁ所詮寝言だ。気にしてもしょうがないな。
「そんな事を寝言で言っていたんだな。俺は。」
「はい、その時の寝顔が忘れられません。とても辛そうで…」
「まぁ俺の事はもういいだろ。それより君は大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫ですわ。ただ、強いて言うなら魔物と戦うのはあまり好きではありませんので、はやくこの旅を終わらせたいです。」
「そうか。悪かったな。こんな旅に付き合わせて。」
「いえ、大丈夫ですわ。勇者さんが旅についてきてくれないかとお話を頂いた時からこうなる事は覚悟しておりました。それに…」
「それに?」
「…なんでもありませんわ。」
「そうか。」
「ええ、そうですわ。」
彼女は笑顔でそう言った。とても眩しい笑顔だった。
※彼女ことメロウとの話は姫救出&魔王討伐の旅の前の話です。かなり分かりにくいので、以前の話を少し修正する予定です。また、ストックに余裕があるので、少しの間更新頻度を増やします。