第6話
午前8時。もう外は明るい。
ここ最近、早起きになった。
今まで廃人のような生活をしていたのに、あの夢を見るようになってから、夜は早く寝るようになったし、午前中に目覚めるようになった。
以前からの通り、仕事は相変わらずしてないし、基本的には部屋に引きこもっている。
もうずいぶん人と会話していない。
今の状況を決して良いことだとは思わない。それに貯金もずいぶん少なくなってきたし…
以前の自分は仕事が人生だった。
大学時代に司法書士試験に合格し、都内の司法書士事務所で働いていた。
司法書士試験では総合成績が13位だったことは小さな自慢だ。
まぁ、司法書士業界では、試験の順位なんてものは一切関係のないものだけれど。
その司法書士事務所はハウスメーカー、マンションディベロッパーや投資用マンションの買い取り再販などの大規模な会社を顧客に持ち、社員は例外なく、日々大量の登記業務で追われていた。
周りの司法書士事務所からは、「登記工場」というように揶揄されていたが、自分にとってはそれが楽しかった。
最終的に行うことは同じ事の繰り返しではあるものの、顧客との情報共有のための新しいシステムの開発を行ったりと、新たな発見の日々でもあった。
それに、「不動産」という大きな市場のなかで、その流通の一端を担っているような気がして、それが誇らしくもあったし、二人で始めた司法書士事務所を今は100人弱という規模の事務所にした今の社長をとても尊敬している。
そこから、自分でも経営をしてみたい!と思い、大した経営計画なんてものも作らずに、勢いだけで地元で司法書士事務所を開業した。
…だが、その結果がそのざまだ。
客をなかなか見つけられず、また、せっかく手に入れた人脈も、自身のミスで失う始末。
思うように事務仕事も進まないし、迫る納期に焦る日々。
そして気が付けば、体が思うように動かなくなり、やがて布団の中で一日の大半を過ごすようになって、今に至る…
そんな中、このゲームに出会ったんだ。
『レジェアルファンタジー』、モンスターを仲間にしながら、他国の侵略者と戦うロールプレイングゲームだ。
自分が生まれる前に生まれた作品ではあるものの、今に至るまでシリーズものとしてその続編が製作販売されている。
このゲームをプレイしてからだろうか、嫌な現実から離れられる様な気がしていた。
ただ、いつまでもそうではいられない。
所詮ゲームだ。これをいくらプレイしたからって、減っていく貯金が増えるわけでもない。
「…そろそろ働かないとな。」
どんな仕事をしようか。といっても、俺が仕事を選べる立場ではないだろうが…
でもまた司法書士事務所で働くのは、少し抵抗がある。
それに…
再就職もそうだが、どうやら自分は最近見ている夢の続きがどうしても気になるようだ。
所詮夢。
だが、その夢の結末を見届ける必要がある、そんな気がするのだ。
なんとなく、今の自分には、あの夢が必要なものだと思っている。
「タント、メロウ、それにあの少年…」
あと、この前現れた、ディスパーとかいう獏の存在だって気になる。
あいつはなんなんだ?自分だけが見える幻覚か?
まぁ、考えても仕方がない。あいつは「また来る」と言っていた。
次にあったら、いろいろ話を聞いてみよう。
用語解説(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
「司法書士」
~専門的な法律の知識に基づき、登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする国家資格である。また、法務大臣から認定を受けて簡易裁判所における民事訴訟などにおいて当事者を代理する業務も行う。
※弁護士と多少似ている。本編においてはさほど重要な情報でないため、「弁護士みたいなもの」という認識で差し支えない。
「登記」
~日本の行政上の仕組みの一つであり、個人、法人、動産、不動産、物権、債権など実体法上の重要な権利や義務を、不動産登記法や商業登記法などの手続法により保護するとともに、円滑な取引を実現する。不動産の権利関係、会社の役員などは公示により周知される。法の支配並びに法治国家を支える法制度の一つである。