第5話
…
旅の途中、ある少年と出会った。名をディスパーという。
「おまえっ!!」
「勇者さん、お知り合い??」
「あ、いや…」
「??」
どうやら、現実で出会った獏のディスパーとは違うようだ。
「先ほどは失礼。こんな魔族が多くいる場所で何をしているんだ?」
「じつは、なにもおぼえていません。きがつくとなぜかここに…」
どうやらこの少年、自分の名前がディスパーであること以外の記憶が一切ないらしい。
いや、正体については重要じゃない。この少年の安全を確保することが最優先だ。
そう、この道には多くの魔物がいる。むしろ何故この少年は今まで無事でいられたのかが不思議でならない。
「メロウ、ひとまずこの子を安全なところまで連れていこう。」
「そうね。ここからだと、あの町が一番近いかしら。」
「ああ。」
彼女と相談し、ひとまず近隣の町まで後退することにした。
「あの!」
「…どうした?」
「ぼくはどうなるのでしょうか?」
「この近くの町にある孤児院に預けようと思う。仮に魔物が襲ってきてもあの町には強力な兵団がある。」
あの町の兵はかなり強い。先日、一緒に魔物の群れの討伐を行ったが、兵一人一人が洗練されている。
正直、一緒に魔王討伐に来てほしいぐらいだ。だがそれはかなわない。
「ぼくはいったいなにものなのでしょうか?」
「…分からない。」
「勇者さん!魔物です!」
魔物だ。その数は10体ほど。
「俺が前に出る。メロウはその子の近くに。」
「かしこまりましたわ。」
…
「あの、ゆうしゃさん。」
「どうした?」
「さきほどのものはいったい…」
「魔物だ。魔物は人間を依り代にし、寄生する精神体だ。」
正直、戦いたくはない。
例外なく、この世界の魔物は言葉にならない声しか出さなくなるのだが、それはまるで人間だ。
というか、発する声は人間となんら変わりがない。
「ということは、いまたおしたまものは、もともとにんげんだったのですか?」
「そういうことだ。」
依り代を手に入れた魔物は、その依り代の肉体を維持するために食事をする必要がある。だから人間を襲う。
そして依り代の肉体が朽ち果てるとき、新たな依り代となる人間を探す。
「なぜ、まものはにんげんをおそうのでしょうか?」
「…分からない。」
そう、分からない。
この世界の魔物は他の動物には一切寄生をしない。人間だけを依り代にし、そして人間だけを喰らう。
「メロウは何かわかるか?」
「いえ、考えたこともありませんでした。どうして人間だけを標的にするのでしょうか…」
まぁ、これは俺の夢なのだから、そういうものだと割り切るしかないだろう。
とういうか、この夢の終着点が見えない。
魔王の所在について把握こそしているものの、そこまでの道のりがあまりにも長い。長すぎるのだ。
この夢は一体どこで終わりを迎えるのだろうか…
そんな事を思っていると、再度魔物を発見した。
「どうして…」
メロウが弱々しく呟く。
綺麗なブルーの瞳。
「タント…なのか??」
タントの姿を目にしたとたん、意識が薄れ、やがて途切れた。
その際、出会った少年の小さな笑い声が聞こえたような気がした。