第3話
「ここでしばらく休もう。」
「そうですね。勇者さん。」
この時期は吹雪く日がほとんどのようだ。姫の救出のために一刻も早く進みたいところではあるものの、俺も彼女もかなり消耗していた。
そんななか、小屋を見つけた。雪が落ち着くまでのしばらくの間、ここで過ごそうということで二人は合意した。
木を伐採し、小屋にあった暖炉で共に温まっていたところ、
「ねぇ勇者さん。」
「…どうした?」
「私、辛いと感じた事も多いけれど、あなたと旅にでて本当に良かったと思っているわ。」
「…そうか」
「ええ、あなたが救ってくれたから、私の世界が広がったの。いろんな所で、いろんな人と出会って別れて、いろんな体験ができたわ。」
「だから、私はあなたと出会えてとても幸せ。」
「…そうか」
彼女は、自分が傭兵団として働いていた際に出会った。そう、姫の救出のために旅に出る前の話だ。
魔物に襲われた彼女を助けたのがきっかけで知り合い、そして今一緒に旅をしている。
「…その、俺を恨んでないのか??」
「え?」
「だって、俺は君の両親を救えなかった。俺にすべて任せろ!なんて大口たたいたのに…」
「…」
そう、彼女は魔物に攫われた両親をひとりで助けに行くところで出会ったのだ。
彼女を助けたのち、共に彼女の両親を助けるべく、魔物が占拠している城へと入った。
しかし、俺たちが来た頃には既に手遅れだった。
魔物は彼女の両親の肉体を依り代にしてしまっていたのだ。つまり、彼女の両親だったものは既に魔物となってしまっていた。
どうやらこの世界の「魔物」は人間を依代にして生命活動を行っているようだ。人間に寄生し、そしてさらに強い人間を探す。
寄生した魔物を除去する方法はあるのだが、魔物に寄生された後1時間以内に僧侶等が使える神聖魔法でなければそれが出来ない。
結局、依代ごと倒す他なく、俺は彼女の両親だったものを殺した。
「…」
「でも、いいの。あなたがいなければ私も死んでいたわ。あなたが旅に誘ってくれたら、いまの私がいるの。」
「それに、私なんとなく、あなたが英雄になれる気がするわ。それはあなたにしか為せない事。」
あの後、タントと出会うまでしばらく二人で旅をしていたが、いつの時も彼女はどこか虚ろな目をしていた。
まるでいつ死んでもいいと考えているような…
しかし、タントと出会ってから彼女は変わった。
タントが彼女を変えたのだ。そして彼女の心の闇を救った。
彼女を救ったのは俺じゃない。タントだ。
俺なんかじゃないんだ。彼女にとっての英雄なんかじゃない。
なぜタントが死んで俺が生きているんだろう…
…こんな夢、早く終わればいいのに。
※2024.09.24修正加筆
以降の話との整合性を合わせるために一部修正加筆いたしました。物語の大筋は変化しておりません。