8話 戦闘狂、強敵とのバトル
「にしても思いのほか簡単に情報が入ったわね。私の運ってとてつもなく高いのかも」
あの町で魔王関連の情報が手に入ったら嬉しいな~、程度に考えていたのだが、まさかこんなにも早く手に入るとは正直予想外だ。
なんたって絡まれてから屋敷を出るまでにかかった時間わずか30分。
もちろん遺跡にいるのが魔王と決まったわけじゃないけども。
そんなことを思っている今の私の状況はというと、ガロ遺跡に続く道を歩いているところだ。
王都に行く道と違い、人とすれ違うこともなければ見かけることすらほとんどない。
これは地図を見て分かったことなのだけど、クルアの町より北側に行くと町はなくあっても小さな村がぽつぽつとあるだけだった。
その変わり東西南の方角には大きな町や王都が存在していた。
北側だけがとびぬけて田舎のようだ。
さきも言ったがこのまま歩いていけば問題なくガロ遺跡に着くだろう。
しかしここで問題がある。
遺跡まで歩いて4時間。体力温存のため歩きだ。
そして、その間やることがなく超絶暇なのだ。
暇をつぶそうとリンに話し掛けたが全く反応が返ってこない。
おそらく疲れて寝ているのだろう。
起こすのは可哀そうなのでそっとしている。
そういうことなので何か暇をつぶす方法を考えないといけない。
って言ってもね~。
何かないかしら……。
ガサガサ、ガサガサ。
茂みのほうから音がしたのでそちらに目をやると、剣を握った5人の男がでてきた。
うわ~、これ絶対やばいやつらだ…。
とはいえ、もしかしたらいい人達な可能性もほんの少しだけ残されているわよね…。
私がそんなことを考えていると、
ヒュン!
1人の男が私目掛け剣を投げつけてきた。
私はそれを軽々よける。
「いきなり剣投げつけてくるなんてどういうこと?」
「・・・・・・・」
男たちは虚ろな目をしながらこちらを見ている。
「うーむ、これはあれね。アンデット系の何かね多分…」
専門外なので詳しくは知らない。
「まぁいいわ、とりあえず倒すわよ <獄炎の槍>×5」
炎をまとった槍が私の周りに出現し、男たち目掛けて放たれた。
私が得意としている火属性魔法、そのなかでも上位である<獄炎の槍>この魔法を喰らってまともに立てる者など転生する1000年前の世界にすらあまりいなかった。
そして男たちは案の定倒れていく。
男達が倒れたと思ったら次の瞬間、男たちの体が弾け飛んだ。
「かっかっかっか、儂の操り人形たちが死んだかと思ったら嬢ちゃんが倒したのか?」
後ろから声がしたので振り返ると、頭に角と背中に翼が生えていて、邪悪な笑みをうかべ2Mほどある大男が立っていた。
魔族?しかもなかなかの威圧感。
もしかしてこの大男が魔王なのかしら?
私はそう思い、質問に答えるついでに聞いてみることにする。
「ええそうね、ところであなた魔王だったりする?」
大男は少し驚いた顔をした後、顎髭を触りながら答え始めた。
「すまんが、その質問に答えることはできんな」
「話し方からして知ってはいるのね。まぁいいわ、私この先にあるガロ遺跡ってとこに行くんだけど見逃してくれたりしない?」
「それも無理じゃ。そしてたった今嬢ちゃんには死んでもらうことになった。恨むなよ儂にも色々あるんじゃ、出でよ<黒王の剣>」
大男の右手に漆黒の剣が現れ、次の瞬間、大男は私に接近してきた。
「フンッ!!!!!」
私は大男から放たれた横降りを体を反らすことで間一髪回避する。
大男は躱された瞬間、剣を持ってない方の左手で魔法を生成し、私の目掛けて放ってきた。
魔法は見事に命中し私は吹っ飛んでいった。
しばらく地面を転がり続け、最終的に木にぶつかって止まった。
「私は大好きよ、すぐ戦闘に持っていってくれる人」
私は服についた汚れを叩き落としながら立ち上がった。
「魔王戦前の準備運動ね。<獄炎の大槍>」
<獄炎の槍>より2倍ほど、でかい槍が出現し大男目掛けて飛んでいった。
「ふむ、嬢ちゃん若いのに最上位の魔法が使えるんだな」
大男は髭をさわりながら、そう言うと片手で持っていた剣を両手持ちに替える。
「しかし、その程度で儂にダメージを負わすことはできん!<大連斬>!!!」
大男の周りに5本の大剣を持った巨大な化身が現れ、大槍めがけ大剣を振り下ろした。
ドゴンッッッッ!!!!!!!!!!!
化身が振り下ろした5つの大剣は大槍を消失させ、それだけにとどまらず地面までもえぐっていた。
私はその光景を見て高揚感に包まれていた。
「お爺さん、中々やるわね。魔王戦前の準備運動って言ってごめん。お詫びに私の本気見せてあげる」
そう私の本来の目的は別に魔王と戦うことではない、ただただ強いやつと戦いたいだけなのだ。
それで結果的に一千年後に最強の魔王が転移してくるから私も転移しただけ。
つまり強いやつがいるなら戦いたい、心躍るバトルがしたい。ただそれだけ。
今、目の前にいる大男は強い、だから私は本気で戦う。
「さぁ行きましょうか。楽しい楽しい世界へ……」
そう静かに呟くと、周囲の木々は震え、地面は揺れ、そして瞳は紫から紅へと変化した。
それが意味することは、ミリーナ・グライアが本気になったということ。