1 魔を狩り尽くす者
高貴な白い服を着た1人の男性が年老いた男性にカードを手渡すと、手渡してくれた男性の手を握り涙目で年老いた男性はお礼を口にする。
「ああ、ありがとうございます。こんな老いぼれに衣食住を与えて下さっただけでなく、このような尊い仕事まで与えて下さるとは、何度お礼を言っても言い尽くせません」
「いえいえ、わたくしどもは皆の幸せを願っていますから、至極当然のことをしたまでですよ」
高貴な服の男性は目尻に笑いジワを寄せ優しく微笑む。
「ああなんとも慈悲深い! さすがコアノン司祭様です!」
年老いた男性は感動の涙を流し、コアノン司祭に感謝の祈りを捧げる。
「いえいえ、ミスリさんの幸せを私は祈っております。それではその幸せのカードをできるだけ多くの人に配って下さい。そのとき、お気持ち程度の寄付を捧げていただければ我らが神もお喜びになるでしょう」
「はい、このご恩に報いるためにもこの老いぼれ身を粉にしてお勤めさせていただきます」
そう言って、涙を流しながら年老いた男性はコアノン司祭のもとを後にする。
「ふぅー、心酔して働いてくれるのはいいが、ちと臭うな」
服の袖を嗅いで眉間にシワを寄せるコアノン司祭の後ろにあるカーテンから1人の男が出てくる。
「まあまあ、我が身を犠牲にしてでも稼いでくれる、大切な駒なんですからちょっと臭うくらい許してあげましょうよ」
「いいや、カードを配る人間が臭うのはよくないだろう。今度戻ってきたら水浴びを念入りにさせてから香水を振るとするか」
コアノン司祭と薄ら笑いを浮かべる男性が言葉を交わすと、コアノン司祭が目元を押える。
「キュイエールの町で掴まって、なんとか脱獄し北の国まで逃げて来て本当に辛かった……。だが、ようやく新たな団体を立ち上げこうしてお金も集まってきている」
「えぇ、本当に辛かったです。あの生意気なガキと暴力メイドとぼんやりした女のせいで苦渋を飲まされましたが、やっとここまできましたね」
しみじみと語りながら同じく目元を押えた男とコアノン司祭が、様々な思いを噛みしめる。
「ところでラッハ。なにか報告があったのではないか?」
「おおっとそうでした。これをどうぞ」
ラッハが懐から出した紙をコアノン司祭に手渡す。
「愛らしい魔法使いモモちゃん? なんだこれは?」
紙に書いてある文字を読んだコアノン司祭が眉間にしわを寄せ、怪しいものでも見るかのように怪訝そうな表情をする。
「はい、なんでもガーゴイルの投影機能を使って多くの地域へ一斉に映像を送って、凄い魔法やトリックを見せたり、踊ったり、歌ったりして楽しませ、ときには会話を楽しんだりする、大道芸を超えた配信と呼ばれるものらしいです。なんでも最近北の地域にも進出してきたみたいでここ、ガトゥーに来るのは初めてらしくて町はこの話題で持ち切りですよ」
「配信? 私たちが捕まっている間にこんなのが流行っていたのか。それで、これが私に知らせたいことか? 私は自分のところに人が集まるのは好きだが、群衆になるのは嫌いなんだが」
興味を示すどころか、どうでもいいと会話を切り上げようとするコアノン司祭にラッハが食い下がる。
「いえいえ、本題はこれからです。まあ聞いてくださいよ。この配信とやらでおひねりをガーゴイルに渡してお金を集めているみたいなんです」
「お金を集める?」
お金と聞き打って変わって興味を示したコアノン司祭を見たラッハがニンマリと笑みを浮かべる。
「たとえばですよ、大陸中にいるコアノン司祭を信じる者のもとにガーゴイルを飛ばして、ありがたいお言葉を与え集金する。個別に相談なんてオプションをつけて別料金を取る……なんてどうです?」
「ほほぅ、面白そうだな。それなら拠点から動かなくとも集金できるな……いやそもそも拠点を持たないことで痕跡を残さないように移動しながら集金も可能。それに、距離に応じて変わる派遣料なんてのも取ったりもできるな。会話も制限時間を設けて、延長料金など、うーむアイディアが浮かんでくるぞ!」
「さすがお金のことになると、次から次へとアイディアが浮かんできますね!」
「そんなに褒めるな。どれ、その魔法使いモモちゃんとやらを見て技術を盗むとするか」
「そうくると思いました! 日時と場所は調べてますから案内しますぜ!」
ラッハが指を鳴らすとコアノン司祭は満足そうに頷く。
━━そして、魔法使いモモちゃんショー当日
コアノン司祭とラッハはウキウキで魔法使いモモちゃんのショーを見に行ったが、投影された映像を見て引きつった顔で固まってしまう。
「こっ、このガキ……私たちを陥れて監獄送りにしたヤツではないか。なぜこんなことをしているんだ」
「え、ええ。オレガノとかいうガキですぜ。間違いないです、憎たらしいこの顔、忘れもしません!」
詐欺集団コーアコアの代表とその部下であった2人は、オレガノとクミン、そしてローリエの3人によって自分たちは捕まってしまったのだと怒りを露わにする。
完全な逆恨みなのだが、2人は捕まって監獄での惨めな日々、脱獄してからの辛くて苦しい日々のことしか頭になく、その怒りを画面の向こうで楽しそうに笑う魔法使いモモにぶつける。
「ねえ? 今さ、この子のことオレガノって呼んだ?」
怒りの視線を向ける2人の背後から声がかけられる。聞き覚えのないやや幼い声の主に振り返った2人の前には手を小さく振りながら笑みを浮かべる、少女の姿があった。
特徴的な大きな帽子や、魔女の服を着ていない村人の恰好をしたカラミィーテは、赤の他人である自分を不思議そうに見る2人を見てニンマリと笑みを浮かべる。




