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「クミンさん!」
医務室から出て1人歩くクミンのもとに3人娘が駆け寄ってくる。
心配そうな表情の3人にクミンは笑顔を見せる。
「3人ともお疲れ様。怪我とかしてない?」
心配して来たのに先に気を使われてしまい戸惑う姿を見て、可笑しそうに笑うクミンの笑顔につられ3人も笑顔になる。
「モナルダ、作戦の内容から出撃が急遽決まったけどいい動きできてた。転送タイミングも完璧だったし、いい仕事してたよ」
「い、いえ……もう必死でなにがなんだか分からなくて、その、無我夢中だったんで」
クミンに褒められ恥ずかしそうに下を向いて頭を掻きながら応えるモナルダの肩に、クミンが優しく手を置く。
「謙遜しなくていいよ。初めてであれだけ動けたら凄いから自信もって! それと、ナツメグとフェネルもオレガノ様を守ってくれてありがとう」
「わ、私はその、怖くて立ってるのが精一杯でしたから、情けないです」
「わたしも、オレガノ様を守るどころかすがってしまって、役に立つどころか足を引っ張ってしまいました」
自分たちがクミンに褒められるとは思っていなかった2人は、全力で否定する。
「初陣で、しかもあのとんでもない敵を前にして逃げなかったのは立派なこと。うちなんて初めての合同訓練ですら泣いてめちゃくちゃ怒られてたんだから」
恥ずかしそうに笑うクミの話す内容を信じられないと驚きの表情で3人が見る。
「ま、そういうことだから3人とも自信を持って」
3人の驚きの視線に好奇心が混ざっていることに気がついたクミンが慌てては話を終えようと締めに入るが、3人がグッと一歩前に出て近づいてくる。
「興味があります」
「ナツメグがそんなにグイグイ来るのは珍しいね……」
いつも遠慮がちなナツメグが一番興味を示したことに驚きつつも、話したくないクミンが一歩後ろに下がる。
「私もっと強くなりたいんです。昔のクミンさんは怖くて泣いていたのに、今はこんなにも強くてカッコイイということはその過程に強くなれるヒントがあるんだと思います!」
「あ、うん。真面目だねナツメグは……。正直あまり参考にならないと思うけどなぁ」
どうにか話さない方向に向けようと、言い訳をしながらクミンが目を逸らした方に目を輝かせたフェネルが回り込む。
「クミンさま、わたしも昔のお話が聞きたいです! すごく興味があります!」
「私も私も! 小さい頃のクミンさんの話とか聞きたいですっ!」
「フェネルとモナルダは興味本位的な部分が強い気がするけど……」
手を挙げてアピールするモナルダも加わって3人に囲まれたクミンは大きなため息をつく。
「分かった、分かった、話してあげるからん別の場所に行こうか。はぁ~、言わなければよかったなもう……」
3人に自信をつけさせようと昔の自分のことを話してしまったことを後悔しつつも、嬉しそうにクミンを囲む3人を見てクミンもなんだか嬉しくなり微笑んでしまう。
***
シラントロがグラスに注がれたオレンジジュースに口をつける。
グラスを離した鮮やかな赤い唇を指で拭うシラントロを向かいに座るオレガノがワクワク、ドキドキと体を揺らして落ち着きなく見つめる。
「そんなに見られると飲みづらい」
「おいしいかえ? どうじゃ?」
文句を言うが全然聞いていないオレガノにシラントロは、呆れた顔で大きなため息をついてしまう。
「お前の言う通りうまい。南の果物は新鮮で絶品だと聞いたことがあるがこれほどとはな。正直驚いたぞ」
「じゃあ、おかわりするかえ?」
オレンジジュースが入ったピッチャーを、氷の入ったバケツから取出そうとするオレガノを周囲の使用人たちが変わろうと慌てて駆け寄ってくる。
「ああ、もらおう」
シラントロの返事に目を輝かせたオレガノが、ハラハラした表情の使用人たちに支えられながらシラントロのグラスにオレンジジュースをそそぐ。
口を尖らせながら真剣な表情でオレンジジュースをそそぐオレガノを見るシラントロの頬が緩む。
「姿が変わったから可愛らしく見えているだけかと思ったが、中身も可愛くなってないか? 性格も少し変わった気がするぞ」
「そうかえ? 余はなにも変わっていないと思うのじゃ」
「もっと生意気で、無駄に自信家だっただろう。なんだったか、あーあれだ、回復師の呪いとやらで恐怖を感じる体質になったからなのも関係してるのかもしれんな。それにしても可愛くなり過ぎだろ」
キョトンとするオレガノを見てシラントロが鼻を鳴らして笑う。
「まあいい、それよりもあと2人を倒さねばならんだろう。ダンジョンに誘い込む準備はできているのか?」
シラントロの問いにオレガノが首を横に振る。
「ダンジョン自体は予定通り建設が進んでおるのじゃ。じゃが、肝心の勇者たちの行方がつかめんのじゃ」
「……ふむぅ。あちらがこちらの動きに勘づいている可能性もあるな」
「ローリエたちからもそう言われたのじゃが、シラントロもそう思うのかえ?」
「ここまで行方が掴めないとなると、身を潜め様子を窺っている可能性があると考えるのが普通だろうな」
「ほえ~」
口を開けて感心しするオレガノを見て思わず吹き出したシラントロは、オレガノの頭をポンポンと叩く。
「オレガノは不思議なヤツだな。魔力もほぼ失い、力もなくなり魔王としての威厳も全くないのに、それでいて魔王としての魅力がある……本当に面白いな」
「むーっ、けなされている気がするのじゃ」
両頬を膨らませ不満そうな顔をするオレガノの頭を、再びポンポンと叩いたシラントロが笑う。
「くはははは、褒めている、褒めている! そんな顔するな」
大きな口を開けて笑うシラントロをオレガノは疑いの目で見る。
「さて、そろそろ私は帰るとするか」
「もう帰るのかえ?」
「ああ、私の国の防衛を固めねばならんからな。今回の戦闘データーの解析も終えたことだろうし、指示をだしてやらんとな」
少し寂しそうにしょんぼりするオレガノを見たシラントロが吹き出す。だが、すぐに真面目な顔でオレガノに近づくと耳元で囁く。
「オレガノ、クミンとお前に血の繋がりはないのか?」
「ほへ? 余とクミンが? ないはずじゃぞ」
思っていもなかった質問に思わず大きな声で答えるオレガノに呆れた顔のシラントロが、耳元から離れると咳ばらいを一つする。
「ふむ、そうか……まあいい。それよりもあの娘は強くなる。今回一緒に戦って感じた。将来の魔王を大切に育てろよ」
「もちろんなのじゃ!」
胸を張って答えるオレガノを見て笑みを浮かべたシラントロが背を向けて部屋から出ようとする。
だが、ドアの前に立ち案内人が開けたドアをくぐろうとしたとき、シラントロがふと足を止める。
「オレガノ」
「なんじゃ?」
背中を向けたままシラントロがオレガノの名前を呼ぶ。
この状況に周囲の使用人たちは、2人の魔王の間でどのような言葉が交わされるのか、どんな言葉がきても対応できるように身構え、ゆえに緊張感がはしる。
「オレンジジュースを土産に持ち帰りたい。頼めるか?」
「もちろんなのじゃ!」
2人の交わした内容に周囲の緊張感が一気に解け、和やかなムードの中急いでお土産用のオレンジジュースの準備がなされるのである。
***
「ふーん、ここから南の方角でエリュプの魔力のふくらみを観測できたけど詳しい位置までは分かんないや。地上に痕跡がないってのが気になるところだけど……でもまっ、尻尾が見えたしあとは捕まえるだけ。エリュプを泳がせといて正解だったってわけじゃん。あたしえらい!」
教会の鐘のある鐘塔の上に立って遠くを見るカラミィーテがニンマリと笑う。
「この世界も楽勝だと思っていたけど、なかなか面白そうなことしてくれるじゃん。魔力の残滓が途中で綺麗に消えてることも踏まえて、おそらくだけどティフォンお姉ちゃんもやられてるね、これは」
カラミィーテが指で大きな帽子のつばを押し上げ、東の方角を見る。
「トルナードにはそのまま東に行ってもらうとして、あたしは打って出てやるか。どこの誰かしんないけど覚悟しやがれってね」
不敵な笑みを浮かべたカラミィーテが帽子を手で押さえて飛び降りる。
「さぁーってと、まずは同じ魔法使いから探ってみますかね」
鼻歌でも歌いそうなほど、どこか楽しそうな表情でカラミィーテは歩き始める。




