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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
vs.格闘家エリュプ

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1 昇る獣、地へ誘う悪魔

 森の中を歩くエリュプの後ろには4つの巨大な鉄球がついて来ており、ときどき木々に引っかかるが気にすることなく引きずり木を押し倒していく。


 地響きを上げながら倒れていく木のことなど気にも留めず森を歩くエリュプの目の前に数人の男たちが現れる。


 鎧を身にまとい、三日月の旗を掲げるのは近隣にあるハルフォールと呼ばれる国の騎士たち。


「止まれ!」


 隊列の中央にいる隊長と思われる1人の兵士が強い口調で停止を呼びかけるが、エリュプは足を止めるどころか視線も寄越さない。


「おい! 止まれと言っている! 止まらなければ斬るぞ!」


 なおも呼びかけるが止まる素振りを見せないエリュプに警戒した騎士たちが剣を構える。そのときはじめてエリュプの目が騎士たちに向けられる。


 だがそれも一瞬のこと、腕を軽く横に振って鎖を引きずる音が聞こえたかと思ったときには、エリュプの目の前には騎士どころか木や草までも根こそぎ無くなっており、文字通り消滅していた。


 騎士たちごと半円状に刈り取られた森の一部のむき出しになった土を踏みながら、止まることなく前に進むエリュプが呟く。


「自分を高めてくれる存在はどこかにいないのか」


 前に進みながら自分の掌を見つめエリュプは独り言を続ける。


「前の魔王との戦いは楽しかった。力で押さえつけるのではなく、洗練された刃物のような鋭さで切り裂く繊細な力……欲しい。またあんな戦いがしてみたい」


 力を入れ震える掌を、見開いた目で見つめるエリュプがふと足を止める。


 掌から前に目を向けたエリュプの瞳に映るのは、40後半くらいの男性。


「お前、人間じゃないな」


「鋭いですね。これでもバレないように巧妙に隠しているので、何十年と誰にも気づかれなかったんですけどね」


 ニコニコと笑う男性をエリュプが睨むと、男性は頭を掻きながら口を開く。


「そんなに殺気立たないで下さい。私は満たされない毎日を送る貴方に素敵なお知らせを運んできたんですから」


「素敵なお知らせだと?」


「ええ、絶対に気に入っていただけると思います」


 そう言って男性はうやうやしくお辞儀をする。その胡散臭い演技染みたお辞儀を終えた男性は、パチンっと指を鳴らすと白い便箋を指に挟んで揺らし存在をアピールする。


「魔王オレガノ様からの招待状です」


「魔王オレガノだと?」


 男性から出た名前にエリュプが太い眉を動かし、怪訝な表情を見せる。


「もしかして、魔王オレガノ様を倒した……などと思っていませんか?」


 男性がそこまで言うと口元を拳の先で押えクスっと笑う。


「失礼、その顔はこの大陸で一番強い魔王オレガノ様を倒したと思っているようでしたのでおかしくてつい」


 目つきが鋭くなったエリュプを男性が可笑しそうに笑う。


「3人の魔王を倒したと息巻いているようですが、()()2人ですよ。分かっているんじゃないですか? 本当は魔王オレガノ様が一番強いということを?」


 男性がニンマリと笑う。


「魔王オレガノ様相手に4人で向かったんですよね? それは、4人じゃないと勝てないと思ったからではないですか? 強き者を求めるとかが口癖のようですが、本当は怖かったんじゃないですか? 自称強いエリュプさん?」


 エリュプが腕を横に振るう。


 拳は男に当たるが、黒い影が弾け霧散する。


 霧散した影からパサッと音をたて落ちた便箋に視線を落としたエリュプを嘲笑うような声が響く。


「「もしも魔王オレガノ様と戦う勇気があるのならそのカギを砕いてみるといいですよ。挑む気があればですが。ふっふっふっふ━━」」


 森に響いていた声は、笑い声を最後に遠ざかって行く。


 無表情のままのエリュプは落ちた便箋を拾うと、便箋を破り手紙に目を落とす。そして中に入っていた小さなカギを手に取ると握りしめる。


「いいだろう! 自分が強いことを証明してやる。待っていろ、魔王オレガノ!!」


 歯をギリギリと鳴らしながら、拳を強く握ってカギを砕くとエリュプの体が光に包まれその場から消えてしまう。


 残された破れた便箋と手紙が風に吹かれ飛んでいく。


 破れた紙は木に寄りかかって座っている男性の足元に飛んで引っかかる。それを手に取ったとき、上空から下りてきた丸いフォルムの鳥が腕にとまる。


「お疲れだったなジンジャー」


「まったく殺されるかと思いましたよ」


 腕にとまるサフランを見たジンジャーが、額の汗を拭いながら応える。先ほどまで見せていた怪しげで余裕のある感じは微塵もなく、息も絶え絶えといった感じである。


「その割にはノリノリでやってたじゃねえか。挑発して、すぐにダンジョンへ直行させたのはすげえと思うぜ」


「うまくやらねば、やられてしまいますからね。必死ですよ」


 そう言ってジンジャーが自分の手を広げる。カタカタと震える手をじっと見つめながらジンジャーが苦しそうに笑う。


「はじめから幻影を使い、武闘家の攻撃はかすってもないのに私の手は恐怖で震えています。情けない話ですが、正面で向かい合っていたら言葉を交わすことも難しかったと思います」


「あんな化物を前にしたら誰だって怖えって。まあ、いいじゃねえか、作戦の第一弾階は成功したんだ。あとはオレガノたちに任せようぜ」


 サフランの言葉にジンジャーが笑みを浮かべる。


「そうですね。オレガノ様たちにお任せするとしましょう」


 そう言ってジンジャーとサフランは、地面に視線を落とし遥か下にあるダンジョンへと希望を託す。

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