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オレガノとナツメグたちがイチゴラッシーを味わっている頃、クミンはローリエと共に監視室でモニターを見ていた。
モニターには各地に飛んでいるガーゴイルより、様々な地域の風景が映されている。
「「勇者と魔法使い。2人の足取りがまだ掴めていない。おそらく東の魔王のところへ向かうと踏んで、そっちに多くの部隊を派遣している」」
1つのモニターに映しだされたサフランが、画面越しに状況を説明する。
「格闘家の様子はどう?」
「「相変わらずってとこだな。発見されてからずっと滝に打たれ瞑想しているぜ」」
サフランが呆れたように言いいながら森の中にある巨大な滝へ映像を移動させる。天から降りそそいでいると表現しても、けっして言い過ぎではないほど高台から落ち水しぶきを上げる水は霧となって漂う。
その壮大な自然の前に人など小さな存在であり、抗うことのできないちっぽけなものであるはずなのだが……近付くことも叶わずたとえ触れても巻き込み押しつぶすほどの水の圧を物ともせず全身で受ける男が1人。
「まだだ。まだ自分は強くなれる。もっと、もっと強くあらねば」
上半身は裸の男は、体はもちろん腕や足に鎖を巻きつけ鎖の先には巨大な鉄球がついていて自らの動きを制限する。
男が呟き上半身と腕の筋肉に力を入れ、引き締めると全身に魔力をまとい始める。
薄い紫色の魔力が体を包み立ち昇り滝の水を押しやる。すると魔力を鎖が吸い始め、紫色に光ると空気中に放出する。
魔力を高める男と、その魔力を奪い邪魔をする鎖。その拮抗は常識では考えられほどに壮大で高まる魔力と、放出された魔力が空気中でぶつかり紫の雷が周囲に走り始める。
そして、男が目を開いたとき大きく胸は張り叫ぶ。
「おおおおおおおおおお‼」
画面までもが震動し、空気の震えが画面越しに遠く離れたクミンたちにまで伝わってくる。
紫に光った目が空気中に残光を残し線を引き、大きく開けた口から出る声に世界の全てが震える。そして凄まじい魔力が天へ向かって昇る。
「滝が……」
目の前で起きたことにクミンが思わず声に出してしまう。
巨大な滝が魔力に押し負け、逆流し魔力と共に天へと昇る。自然現象を超越した事象に驚く間もなく、映像を映しているであろうガーゴイルが風圧に負け転がったのか、映像ひっくり返り乱れる。
ノイズ混じりに空と地面や木々がごちゃ混ぜになった映像が映し出されるが、やがて木々の間から見える青い空が映し出される。
青い空へと昇った大量の水は昇り切ると、空中でバラバラになり森へと降りそそぐ。
突然の大雨は木々に叩きつけ枝葉を揺らし、森の生き物たちは驚き濡れないようにと逃げまとう。
その上空では太陽の光に当てられキラキラと輝き、大きな虹の橋が森の上にかかっている。
自然をも動かすほどの膨大な魔力を目にして黙ったままのクミンとローリエの耳にサフランの声が入ってくる。
「「あぶねー死ぬかと思ったぜ。こんなに離れてるのに、とんでもないやつだ。おい、みんな大丈夫か?」」
サフランの呼びかけに応えるガーゴイルたちの無線が飛び交い現場の混乱の様子が、クミンたちにも伝わってくる。
「大丈夫?」
「「ああ、全員と連絡がついた、問題ない。ところでダンジョンの進行具合はどうなっている? 格闘家もずっとここにいるわけじゃないだろうし、合流されると厄介だ」」
心配するクミンに応えたサフランの質問にローリエが口を開き応える。
「火のダンジョンが8割、水が6割適度です。もう1つは着工したばかりになっています」
「「そうか、なるべく早く頼むぜ」」
「はい、総力を挙げて工事を進めています」
ローリエが拳をグッと握って笑顔で応えると、サフランもくちばしをキラリンと光らせ翼でいいねとサムズアップする。
「ところでローリエ。今の金額ってさ、どれくらいになった?」
希望を胸に前に進む、そんなキラキラしたやる気に満ち溢れるローリエとサフランの間にどんよりしたクミンがポツリと尋ねる。
「「お、俺忙しいんだった!」」
「サ、サフランさん! ひどっ! ひゃっ⁉」
ブツッと消え暗くなる画面に泣きそうな顔で訴えるローリエは、肩を掴まれ涙目でクミンを見る。
「ね? おかしくない? なんでダンジョン作る度にうちの借金が増えていくわけ? これって魔王オレガノ軍の事業であって、うちの趣味でやってるわけじゃないよね? ね?」
「ひぃぃっ⁉」
瞳のハイライトが消え闇が深くなったクミンの瞳を向けられ、ローリエが逃げようとするが、肩をがっちり握られ逃げることは叶わず涙目で悲鳴を上げてしまう。
「基本料金で、火のダンジョンが15億、水が12億。最後の1つは未知数……これって個人の借金のレベルを超えてるよね?」
「は、はひ、そ、そうですね。で、でも本当はもっと高くて、クミンさんは四天王割引でかなり安くなってお得になっているってぇうひゃ! はひっ!」
「ほんとーにそう思ってるぅ? ローリエはお得だって思ってるぅ? ねー、ねー」
クミンに肩を強めに握られ、顔を近づけられ詰め寄られて怯えるローリエは、クミン越しにドアの影から覗き口を手で押さえフフフと笑っているアンジェリカを見つけ、口をパクパクさせ目で助けてと訴える。
手を軽く振って消えてしまうアンジェリカを見て「酷い」っと呟き、四天王の2人が逃げたことを恨みながらローリエは、クミンの愚痴を聞き続けることになるのである。




