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カセロールの町をパタパタと元気よく走るオレガノの後ろを、ナツメグたち3人が必死の表情で追いかける。
足の速さで言えばナツメグたちの方が速いのだが、人混みをものともせず長い間住んでいて走り慣れたオレガノに苦戦する。
なによりも彼女たちの特徴的な角や花、翼などをクミンから教わった術によって消しており、術が解けないように繊細な魔力をコントロールしながら、慣れない人混みの中をオレガノを追いかけるという状況も相成って苦戦しているのである。
「こっちじゃ! こっちじゃ!」
先を走っていたオレガノが立ち止まって両手を振りながらぴょんぴょんと跳ねる。
「ちょっと、ちょっと待ってください!」
「ひぃ~きつぃー」
ナツメグとモナルダが息を切らしながら膝に手をつく後ろから、頭に咲く花を髪飾りに変えたフェネルが息も絶え絶え走ってくる。
「ふ、ふぁ~わわわ。みんな、待って! 待ってぇ~」
髪を乱したフェネルが目を回しながらよろよろ走り、ナツメグとモナルダにしがみつく。
「うわぁっ!」
「うひゃ!」
2人をフェネルが勢いよく掴んでしまい、そのまま悲鳴を上げ3人が倒れてしまう。
「なにをやっておるのじゃ?」
倒れて重なる3人をしゃがんで覗き込んだオレガノがつぶらな瞳をパチパチさせる。
「早くいかないと売り切れてしまうのじゃぞ」
「う、うぅ~」
オレガノに急かされた3人は唸り、よろけながら立ち上がる。そして再び走り出すオレガノを追いかけ走る羽目になるのである。
***
芝の上に並べられたテーブルと椅子の上には、編んだ縄に蔦を巻きつかせた屋根が覆いかぶさり日の光を和らげてくれる。
蔦と葉の間からこぼれる光が降りそそぐ下で、テーブルを囲むのはオレガノとナツメグたち4人。
「これがオレガノ様オススメのイチゴマシマシミルクパフェ……」
透明のグラスにはミルクで作られたムースの上にイチゴふんだんに盛られ、鮮やかに彩られたイチゴマシマシパフェを見つめるナツメグたちがごくりと喉を鳴らす。
「こんな食べ物があるなんて、都会は違いますね」
「だよね。私も村でこんなの見たことないし」
未知の食べ物を目の前にして緊張した面持ちの3人をよそに、オレガノがスプーンをためらいなくパフェに突き立てる。
3人の視線を一身に受けながらムースとイチゴが載ったスプーンを口に入れる。
「う、うまぁーい! のじゃ」
これでもかと満面の笑みで喜びの声を上げるオレガノを、他の席に座っている人たちが微笑ましく見る。
桜色に染めた頬を押え美味しさに悶絶するオレガノを見ていた3人も、パフェを恐る恐るスプーンですくって口に入れる。
「うっ⁉」
「これは⁉」
「な⁉」
3人が目を大きく見開く。
「おいしい……」
「甘くてふわふわです」
「私これ好き!」
3人もオレガノと同じく頬を桜色に染めて、パフェの感想を言うとそこからは集中してスプーンを進める。
あっという間に空になったグラスを名残惜しそうに見る3人を、オレガノが満足気に見ながらうんうんと頷いている。
「おいしかったじゃろう! このドルーチェというお店は季節にあったパフェを提供してくれるのじゃぞ。凄いじゃろう!」
ふふんと腕を組んで生クリームつけたままの口で、自慢気に言うオレガノを見たナツメグが慌てて口元をハンカチで拭う。
「クミンがこんなにお小遣いをくれるなんて滅多にないのじゃぞ。せっかくだからナツメグ、フェネルとモナルダにも食べてほしくてここへ連れてきたのじゃ。数量限定だから滅多に食べれないんじゃぞ」
「「「ありがとうございます」」」
お礼を言う3人の頭には、
━━どーせ町に行ったらドルーチェに行きたいとか言うはず。で、「みんなで一緒に食べるのじゃ」とか言うだろし、オレガノ様にお小遣いを多めに渡しておくから付き合ってあげて。変化の術の訓練も兼ねた護衛任務だけど、あなたたちも楽しみがあった方がいいだろうし、御馳走になってあげて。
というクミンの言葉が思い起こされる。
お礼を言われて満足気なオレガノの姿に、オレガノがもらったお小遣いで自分たちにごちそうしたいと思ってくれたことへの嬉しさ、そしてクミンの言う通りになっていることに笑みを浮かべてしまう。
そんな中、オレガノはゴソゴソとポケットから取り出した財布の中身をテーブルに出すと、お金を数え始める。
「ふふふ、まだ700エンも残っておるのじゃ。これだけあれば期間限定のイチゴラッシーが飲めるのじゃ」
ニヤリと笑みを浮かべるオレガノの口から出た『期間限定のイチゴラッシー』なる言葉に興味津々な3人だが、すぐにクミンの言葉が頭をよぎる。
━━無駄遣いはさせないこと!
「オ、オレガノ様! 今日はもうやめましょう」
「そ、そうです。イチゴラッシーはまた今度にした方がよろしいかと思います」
「オレガノ様、あんまり飲むとお腹壊しますよ」
クミンの言いつけを思い出し、口々に止めに入る3人だがオレガノはふふんと笑うと、3人に顔を近づけ小声で話しかける。
「700エンだと1杯しか買えないのじゃが、小分けにして皆で分けるのじゃ。4つに分ければ飲み過ぎることもないのじゃぞ」
悪魔……魔王の囁きに3人はごくりと唾を飲み込む。
━━数分後
「美味しい!」
「酸味が効いていて甘すぎない爽やかな味わい!」
「も、もっと飲みたい……」
感激する3人を見て満足気に頷くオレガノは、自分のイチゴラッシーに口をつける。
「くぅ~っ! うまいのじゃ!」
ビールの喉越しでも楽しむかのような反応したオレガノは、イチゴラッシーを掲げイチゴ色のヒゲが生えた口を大きく開けて声を上げる。
このあとクミンに、無駄遣いをしたことで怒られることになるとは知らず、4人は束の間の幸せとしてイチゴラッシーを堪能するのである。
***
「楽ちんなのじゃ」
ナツメグに背負われてご満悦のオレガノが、嬉しそうに声を上げる。
そんな様子を左右に並んで歩くフェネルとモナルダが微笑みながら見つめ、背負っているナツメグも優しく微笑む。
「ナツメグ、フェネル、モナルダ、3人ともクミンについて来てくれてありがとうなのじゃ」
オレガノの言葉に驚きつつも照れ笑う3人に、オレガノは言葉を続ける。
「クミンは怒ると怖いけど、とても優しいのじゃぞ。関係ないとか言いつつも、見捨てることができないツンデレなのじゃ。きっと困っている者がいたら自分を犠牲にしても助けようとするはずじゃ。自分のことを疎かにするクセがあるから、だからクミンが困っているときは助けてやってほしいのじゃ」
「はい」
「もちろんです」
「分かりました!!」
3人の返事を聞いて嬉しそうに微笑んだオレガノは、そのままウトウトと小さく船を漕ぎ始めすぐに寝息をたてて寝てしまう。
ナツメグたちは顔を見合わせ笑顔を見せ合うとオレガノを起こさないように、静かに帰路へと着く。




