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ローリエの焼いたパンケーキを美味しそうに食べるナツメグとフェネル、そしてオレガノを喉を詰まらせそうになるモナルダの背中を叩きながらクミンが見ていると、玄関の方から声がして気配が近づいてくる。
「おぉ食事中だったか。悪かったの」
「今日のお昼はちょっと早かったですからね。大丈夫ですよ」
ローリエが笑顔で応対するのは、ダンジョン建設部隊のトップであるカルダモンである。
「おぉこの子たちがクミンの部下か。ほうほう、元気そうな子たちだ。おっと、わしの名はダンジョン建設部隊隊長のカルダモン!」
そう言ってポーズを取るカルダモンの背後からポンっと赤い煙が上がる。前回よりも遠慮気味なのは室内だからかもしれない。
「家の中で煙を出すのやめてもらえますか」
「ガハハハハ、クミンは相変わらず厳しいわい」
「うはははは、そうなのじゃ! 厳しいのじゃ!」
ジト目で突っ込むクミンに笑って対応する、カルダモンの横にいるオレガノも続いて高笑いをする。
そんな2人のノリに置いてけぼりの3人だが、気を取り直してナツメグが一歩前に出ると自己紹介をすると、フェネルとモナルダも続く。
「いい子たちだの。さすがクミンは見る目があるわい!」
「のじゃ、のじゃ」
ヒゲを掻きながら頷くカルダモンの横でオレガノも満足そうに頷いている。
「うちの子たちを褒めてくれるのは嬉しいですけど、カルダモンさんは仕事をしに来たのではないんですか?」
「そうだそうだ、今日は同時に建設している2つのダンジョンことについて聞きに来たんだわい」
クミンの一言で思い出したかのように手を叩くカルダモンにローリエが反応して、近くの棚の引き出しを開け紙を綴じたファイルを取り出す。
「通常のダンジョンの罠では序盤では効果が薄いので、転送位置調整をして初めから全力で潰しにかかろうかと思ってこの罠を考案したいのですが」
物騒なことを言うローリエからファイルを受け取ったカルダモンが中を確認する。
「ほほう、確かに相手を罠にかけスリルを味あわせる必要はないからのう。落下地点をのう……。こっちのは突破された場合どうするつもりかのう?」
「突破……しますか」
「ワシなら無理だが、勇者どもはどうだろうかのう。弱体化させるまでは常識なんてものは通用しないとワシは思うわい」
カルダモンがファイルを見て出した答えにローリエが黙って考え込でしまう。
「効果が無いわけではないから通常の罠も仕掛ける必要はあると思うわい。この企画だとアンカーを打ち込むことに急ぎ過ぎているように感じるわい。全体的に大味になり過ぎて、見切られる可能性が高い気がするのぅ。正攻法と邪法を絡めて裏をかいていかないと勝てないと、回復師との戦いの記録を見てそう思ったがの」
「アンカーを撃ち込まないことには弱体化は加速できませんから。回復師はマグマに落としたことで大きく体力を削りアンカーを打ち込むことに成功しましたから、初手で落とすのが有効だとも考えたのですが。その後の罠にも閉じ込めてマグマを流し込みなどと考えてみたのですが」
「着眼点は悪くない。だが、大掛かりな罠には発動に時間もかかるし、その間に発動地点から逃げられたら終わりだからの」
ローリエとカルダモンのやり取りを横で「そうじゃ、そうじゃ」「のじゃ、のじゃ」と腕を組んで頷くオレガノがいる。
分かっているのか、いやおそらく分かっていないオレガノが大きく頷いたとき、外でズドーンと大きな音が響き家の中まで震動が響く。
「な、なんじゃ⁉」
揺れと、大きく頷いたタイミングが合ってしまいこけそうになるオレガノが慌てふためく。
「3人はオレガノ様を護衛! サフラン、うちと来て」
「おうよ」
サフランがクミンの肩にとまると、緊張した面持ちの3人を置いて家の外に出て行く。
「こりゃあ、俺が偵察するまでもないな」
「たしかに、これだけ大きいと隠れる方が難しいか」
クミンとサフランは目の前にいる巨大なドラゴンを見上げる。赤い体のドラゴンは見下ろすと、鋭い牙が並ぶ大きな口をゆっくりと開く。
「オレガノはどこにいる?」
巨大なドラゴンから女性の声が響く。声自体の抑揚は落ち着いているが、ドラゴンが大きいので声の圧で空気が震えクミンの髪や服がなびき、サフランはクミンの肩から転げ落ちそうになる。
「オレガノ様はうちの主ですが、どちら様で、なに用でしょうか?」
クミンが睨むと、ドラゴンは黄金色に輝く目の中心にある瞳孔を縦に細くしギロッと睨む。しばらくお互い睨み合うが、ドラゴンが牙の間からふうっと口からため息をもらすと体に炎が巻きはじめ、炎は燃え広がるのではなく中心に向かって集まり凝縮され人の形へ姿を変える。
「やれやれ、私を知らないとは……まあ、南に来たのは200年ぶりだから致し方あるまい」
スリットの入ったチャイナドレスに、赤き鎧をまとう女性は小麦色の肌にかかるオレンジの髪をかき上げる。
「我が名は東の魔王シラントロ。魔王オレガノに会うためわざわざ来てやったぞ」
自信に満ちあふれた笑みで腕を組み、言い放つシラントロの突然の訪問に驚くよりもオレガノをはじめ、魔王とは癖の強い存在なのだなと、正直めんどくさいなと思うクミンなのであった。




