1 ダンジョンに炎を灯して
剣を振るうナツメグの攻撃はクミンに当たることなく空を切り、首を押されると同時に足をすくうように蹴られ、1回転したナツメグは派手に地面を転がってしまう。
フェネルが指で印を切りつつ詠唱し放った風の刃を紙一重で避けたクミンの腕に蔦が絡みつく。
一瞬口角を上げたフェネルだが蔦を引っ張られ、ぐらっと体が大きく揺らいだかと思うと、驚きで目を丸くしたまま空中へと放り投げられる。
「うえっ⁉」
空中にいて攻撃の機会を窺っていたモナルダが、自分目がけ高速で飛んできたフェネルに驚きの声を上げてしまう。
目を回すフェネルと地上にいるクミンを交互に見て、どうしていいか分からず戸惑うモナルダに突然糸が絡みつく。
「え? なんで糸が!? ど、どこから⁉」
自分に絡んだ糸がいつ飛んできたのか分からず戸惑うモナルダと、落ちてきたフェネルの2人は、クミンが指を引くと高速で落下し始める。
涙目のモナルダと目を回したままのフェネルを受け止めたクミンが、2人を地面に転がすと正面から向かってきたナツメグの刀をナイフで受け止める。
「筋はいい。ただ真っ直ぐ過ぎる」
感想を述べたクミンの回し蹴りによってナツメグが真横に吹き飛び地面に転がると、仰向けになって目を回す。
「ここまでにしようか。皆立てる?」
クミンが手を叩きながら呼びかけると3人がのそのそと起き上がる。
「フェネル、魔法を囮にして別の攻撃を重ねるのは良かった。だけど止まってはダメ。相手の動きを見極め攻撃するか、防御するかを瞬時に判断しないと」
「はい」
返事をしたフェネルが唇にぎゅっと力を入れ、悔しさを滲ませる。
「モナルダは飛んで上空を取れるのは大きなアドバンテージだから、それを活かすのはあり。だけども上だけでは読まれやすいから絡め手が必用かな。それとフェネルを助けるか、攻撃を続けるか悩む時間もちょっと長いからスパッと判断すること」
「わかりました! ところでどうやって私に糸を投げたんですか? 全然見えなかったんですけど」
元気よく返事をしてすぐに質問したモナルダに、クミンが笑顔でフェネルを指差す。
「まさかわたしと一緒に糸を投げられたんですか? ということは蔦を腕に絡ませたのもわざと……」
「ちょっと待ってください。ならフェネルを助けたら結局糸に絡まっていたってこと⁉ かといってクミンさんに向かっていっても動きを読まれていたわけで……」
驚きの表情を向けるフェネルとモナルダを見て、クミンはいたずらっぽく笑う。
「詰んでるね」
その言葉にショックを受けガクッと肩を落とす2人に笑顔を向けたあと、クミンはナツメグに目を向ける。
「ナツメグは太刀の筋がとても綺麗だから、剣術を練習すれば強くなれるかもね。ただ、護衛という仕事上真っ向勝負じゃなくて、護衛対象と自分が生き残る方法を考えて動く必要があるってことは覚えておいて」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うナツメグの肩をクミンはポンポン優しく叩く。
「皆想像していたよりも動けるし筋もいい。絶対に強くなれるから自信持って」
クミンに褒められ、3人は嬉しいが戦闘訓練中なので気を引き締めないといったせめぎ合いの結果、くすぐったそうな顔をする。
「それじゃあ休憩して、オレガノ様の面倒をみようか」
『オレガノ様』の言葉を聞いて一転緊張した面持ちになる3人を見て、クミンは可笑しそうに笑う。
***
玄関のドアを開けると美味しそうな匂いが漂ってくる。
ドアが開いたことに気づいたローリエが台所からひょっこり顔を出す。
「もうすぐ焼き上がるから待っててくださいね」
「今日はパンケーキ?」
「はい、小麦が安く仕入れられたので。それと果物も沢山買えましたから豪勢にいこうかと」
「楽しみにしてる」
フライパンに載ったキツネ色のパンケーキを見せ、会話を交わすクミンとローリエの後ろで3人がオロオロしている。
「どうかしました?」
そんな3人にフライパンを持ったまま不思議そうにローリエが尋ねる。
「あ、いえ。その、ローリエ様は四天王なんですよね? そんな方に料理を作らせ私たちが食べるのは間違っていると言うか、申しわけないんです」
代表して答えたナツメグに、フェネルとモナルダもうんうんと何度も頷く。
「そんなこと気にしなくていいんですよ。私が好きで作ってるんですから。訓練のあとでお腹空いてませんか? たくさん食べてくれたら嬉しいです」
ニッコリと笑うローリエに3人もつられ笑顔を見せる。
「それよりもオレガノ様の相手をしてあげてください。暇を持て余してしますから」
そう言って台所に戻るローリエを見送ったクミンたちはリビングへと向かう。
リビングに入るドアにはプレートがあり、文字が刻まれていることに気がつく3人だがなんとなく聞いてはいけない気がして黙ってクミンに続いてリビングへと入る。
中ではサフランを頭にのせ、ボケーっとソファーにふんぞり返って座るだらしないオレガノの姿があった。
背もたれを枕代わりにし、置いてある頭を揺らしていたオレガノは、開いたリビングのドアを見ると、死んだ魚の目からキラキラ輝く目に変わり勢いよく飛び起きる。
その勢いで空中に投げ出されたサフランが、翼を広げバランスを取るのも構わずオレガノが両手を広げ走ってきてクミンに抱きつく。
「暇じゃったのじゃぁー! 皆の訓練の様子見たらダメじゃって言うから大人しく待っておったのじゃぞ! 偉いじゃろ!」
「はいはい、お利口さんでした」
クミンに頭を撫でられると、オレガノは目を細め頬をほんのり赤くして気持ちよさそうにする。
「あ、あの! 私も撫でていいですか?」
うずうずした様子のモナルダの発言にナツメグとフェネルが目を丸くして驚く。
「よいのじゃ! どーんとこいなのじゃ!」
オレガノが頭を差し出すとモナルダが頬を赤らめてオレガノの頭に触れる。
「ふわぁぁっ! 髪の毛さらさら! あぁ~可愛い!」
喜びに満ちあふれた笑みでオレガノの頭を撫でるモナルダを、羨ましそうな目で見るナツメグとフェネルの背中をクミンが押す。
「撫でてみたら? オレガノ様いいですよね?」
「もちろんなのじゃ」
モナルダに撫でられるオレガノが胸を張って2人を手招きして呼ぶと、ナツメグとフェネルが顔見合わせ頷くと、オレガノに近づき撫で始める。
「ほっぺたがぷにぷにです」
「うわぁ~耳も柔らかい」
勢いついた3人娘に撫でられもみくちゃにされるオレガノが手足をパタパタさせもがく。
そんな様子をクミンは笑いながら見つめる。




