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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
vs.回復師ティフォン

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 その箱はリスポーンブロックと呼ばれ登録した魔物や魔族、果てはドラゴンなどをダンジョン内で召喚するもの。レベルを設定し、ドロップアイテムを登録して使用するのが本来の使い方。


 だがオレガノが手にするリスポーンブロックは世界に一つだけしかない特別なもの。


 力を失って空になったオレガノの魔王の真核に、勇者一行から抜き出しダンジョン内にあふれた魔力を集約させ、真核を満たすことで魔王オレガノを召喚することが可能となる。


 オレガノを中心にして半径30メートルしか動かせないなどと、制約は多いが勇者討伐における魔王オレガノ軍の切り札である。


 ペタンと地べたに座り込むオレガノの前に立つ、背の高い男は金色の髪に巻いた羊の角に筋肉質ながらも引き締まった細身の体を持ち、凛々しい青年の顔でありながらもどこか少年っぽさが残る顔に自信にあふれ表情を浮かべる。

 大きなマントをひるがえし、手を広げると身の丈ほどの巨大な黒い魔剣が現れ手に握られる。


「魔王……オレガノですって」


 驚きの表情を見せたティフォンが突如現れた青年の名を呟きながら、地べたに座っているオレガノを見る。ティフォンと目が合ったオレガノは、ぴょこんと勢いよく跳ねて立ち上がるとニンマリと笑みを浮かべる。


「く、くっくっく、余の登場なのじゃ! 余が余でお前を倒すのじゃ! さぁー行くのじゃ余!」


 オレガノが指をさすと魔王オレガノが地面を削りながら魔剣を振るう。


「くっ!」


 ティフォンが魔剣を腕で受け止める。


「無駄なのじゃ!」


 オレガノの声に合わせ魔王オレガノがティフォンごと魔剣を振り抜いてしまう。吹き飛ぶティフォンが壁を砕きながら叩きつけられ、僅かにバウンドし宙に浮く。


「余のビームを喰らえなのじゃ!」


 魔王オレガノの両目が光ると目からビームが放たれ、ティフォンは光に包まれ爆発する。壁に空いた大きな穴の縁はビームの熱で赤く溶け、ただれていることからもビームの熱量が窺い知れる。


「やれた……?」


「いいえ、ローリエからまだ反応があるって」


 立ち上がったがふらつくクミンをアンジェリカが支え、2人して見る大穴から立ち昇る白い煙の中で黒い影が動く。


「く、なんて攻撃力なの」


 まだ熱を持つ壁に手をかけ、全身から煙を上げながらティフォンが姿を現す。凄まじい攻撃をまともに受け動けることにも驚くが、それ以上に煙を上げ傷が癒えていく姿にクミンは恐怖すら感じてしまう。


「いくら魔力を奪われ続けているとはいえ、以前に出会った魔王オレガノとは比べ物にならないほど強い」


 これまで狂気をみせたり怒りはしたものの、常に涼しい顔をしていたティフォンの表情に僅かだが焦りの色が垣間見える。


「ぬははははっ! 今の余は魔王3人分! つまり3倍なのじゃ! 3倍魔王なのじゃ!」


 腕を組んで笑うオレガノをティフォンが睨む。


「なるほど、本体はあっちで。目の前にいる魔王オレガノは召還的ななにか。魂の色が見えないのも納得だわ、ねっ!」


 ティフォンが一歩大きく踏み込んだと思ったら、一瞬でオレガノの目の前にいて手を伸ばす。だがその手の前に刀が差し込まれ、刃が掌に食い込む。


 ティフォンの掌から赤い鮮血が散る。鮮やかな赤色が舞う中鋭い目でありながらも、どこか苦しそうなクミンの姿を驚き見開いたオレガノの瞳が映しだす。


 思わず手を引っ込め後ろに下がるティフォンと、オレガノの間にクミンが立ち塞がる。鋭い視線で睨むクミンだが、突然よろけると片膝をついてしまう。刀の先端を地面に刺してなんとか転倒を防ぐクミンの背中に心配そうな表情のオレガノがすがりつく。


「すぐに調子に乗るのは悪いクセです。この戦いを終わらせるにはあなたの力が必要なんですから……」


 そう言って、倒れるクミンを見たオレガノが手を伸ばそうとするが、それよりも先に手を伸ばしたアンジェリカがクミンを肩に担ぐ。


「クミンは大丈夫。心配する前に安心させてあげて。頼んだわよオレガノ!」


 クミンを抱えたアンジェリカが下がると、オレガノが自分の頬をパシッと叩いてティフォンをまっすぐ見る。目が合いニンマリと笑うティフォンの視線に恐怖を思い出したのか、オレガノは再び体を震わせて始めてしまう。


 波打つ唇を噛んで、震える足で踏ん張りティフォンと目を合わせるオレガノが小さな人さし指で前を指す。


「行くのじゃ最強の余!」


 ニヤリと笑った魔王オレガノが一瞬でティフォンのもとへ移動すると強烈な蹴りを放つ。

 避けることはできずガードするのが精一杯だったティフォンは、そのまま吹き飛ばされ壁に激突したところを振り上げられた魔剣によって上空へと打ち上げられる。


 空中に投げ出されたティフォンのさらに上に現れた魔王オレガノが今度は魔剣を振り下ろし、ティフォンを真下の地面へと叩きつける。


 ダンジョン全体が揺れる程の衝撃が響き渡る。そして空中にまだいる魔王オレガノが、魔剣を振りかぶって構えると刀身に魔力が集まり始める。


「余の最強最低の技なのじゃ!」


 アンジェリカに肩を借りて立つクミンは、箱を抱きしめたまま叫ぶオレガノに、最強はまだしも最低って言葉は間違ってません? とツッコもうかと思うが、隣にいるアンジェリカが、キラキラした推しを見る目をオレガノに向けているのでやめる。


 クミンの冷ややかな視線をものともせず、魔王オレガノが魔剣を振るう。


「喰らえ!! 『オレガノ超スーパーアタック』なのじゃ!!」


 名前がダサい……そんなクミンの思いとは違い、魔王オレガノが放った必殺技は斬撃と魔力を重ねたシンプルなものでありながら、地面に這いつくばるティフォンごと周囲一帯を砕いてしまう。


 地形が変わるほどの激しい威力でありながら、本来なら砕け散る地面の破片すらも消し去ったデタラメな力のおかげでクミンたちは眩しさに目をつぶるだけで済む。


「さすがの勇者の1人といえどもこの威力であれば跡形も残らないのじゃ! ぬははははっ! 余の勝ちなのじゃ!」


 高笑いをしてオレガノが勝利宣言をする。


「はは…は、は、は?」


 笑っている途中でゆらりと立ち上がった黒い物体にオレガノの笑いのキレが悪くなり、疑問形へと変化していく。


「オレガノ様! 早くとどめを!」


「おわわわっ! いけ! いくのじゃ余!」


 クミンの声にオレガノが慌てて抱きかかえている箱をぎゅっと握り、魔王オレガノに指示を出す。魔王オレガノが魔剣を振りかぶり姿勢を引くくし前のめりになったとき、ポンと音がして白い煙を残して魔王オレガノが突然消えてしまう。


「あっ……時間切れなのじゃ」


 箱を抱えたままやってしまったと、口と目を大きく開けたオレガノの前に立つ黒い人型の物体から煙が吹き出す。煙と共に表面の黒い皮がはがれていき、ティフォンの姿が露わになる。


「今のはさすがにまずかったわ。オレガノちゃん、ちょっとおいたが過ぎるわ。ただで済むとは思わないことね」


 傷は治っているが服はなくなり、一糸まとわぬティフォンがオレガノを見てニンマリ笑う。


「あわわわわっ」


 ティフォンの圧に怯えたオレガノは、箱を持ったまま後退りする途中でつまずき、ペタンと尻餅をついてしまう。

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