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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
vs.回復師ティフォン

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1 慈愛と寵愛の狭間

 魔法使いモモちゃんの配信が終わった広場で、1枚の紙を器用に折って鳥の形にする。紙の鳥に唇をつけると、鳥は翼を羽ばたかせはじめホバリングして空中に留まる。


「飛んでいったガーゴイルたちを追って」


 ティフォンが紙でできた鳥の頭を指で軽く触れると、紙の鳥は広場から飛び立った2羽のガーゴイルを追って空へと飛んでいく。


 空を見上げていたティフォンが視線を元に戻すと、目の前には血走った目をした小太りの男が立っていた。


「よくも、よくも、僕とモモちゃんの邪魔を!」


 ふーふーと息を荒くした男、サレオンは手に持っていた剣を鞘から抜いて両手に握る。


「あらあら、モモちゃんにフラれる前に逃がしてあげたのに。傷つくの嫌じゃないかなって思ったけど、余計なお世話だったかしら?」


「おまええええっ!!」


 クスクス笑うティフォンを見たサレオンが顔を真っ赤にして剣を振り上げ襲いかかる。広場に残っていた人たちの悲鳴が上がる。


 ティフォンに向かって勢いよく振り下ろされた剣だが、ティフォンがそっと掌で受ける。


 弾くわけでも避けるわけでもなく、ただ優しく受け止めたティフォンがサレオンに目を向ける。その目は慈愛などとはほど遠く、暗くどこまでも深く、深淵を覗いてしまったかのような恐怖を感じさせる。


「近づかないでいただけます? わたくし、可愛い子にしか興味ありませんから」


 真顔になったティフォンの深淵の目に当てられたサレオンが恐怖を感じる間もなく、錫杖が首に当たるとおよそ人間とは思えない勢いでサレオンが飛んでいき、中央にあった噴水を破壊し吹き上がった水と一緒に水の中へと落ちる。


「汚らわしい存在のくせに、わたくしのモモちゃんに近づかないでほしいわ」


 赤く染まる噴水の水に周囲の人々が騒いでいることなど気にすることもなく、ティフォンは町の外へと向かって歩き始める。


「さーてと、わたくしの使い魔はどこかしら」


 鼻歌を歌いながら街道を歩くティフォンはこめかみを指で押さえなにかを探る素振りを見せる。


「ふふふっ、随分と遠くに行くのね。さてさてどこに行くのかしら? ね?」


 ティフォンは横目で街道の草むらの影を見て独り言なのに、誰かに話しかけるように尋ねる。そしてそのまま歩いてその場から離れて行く。


 草むらに潜んでいた雀型のガーゴイルは翼でくちばしを押え息を殺して、ティフォンが去って行くのを待つ。


 ***


 広場から飛び立った2羽の鳩型ガーゴイルの目は涙目である。勇者一行の恐ろしさを知っているこの2羽にとっては、後方から回復師が放ったと思われる紙の鳥の存在は恐怖でしかない。


 つけられていることに気づいているが、気づいていない振りをしながら、つかず離れずのスピードで目的地へ向かって飛ぶ。


 彼らが向かうのは、出発したオレガノたちがいる拠点ではなく大陸の中央よりにある、大きな森の中にある小さな小屋。


 小屋の前にある、とまり木に鳩型ガーゴイルたちが着地すると小屋の小さな扉がそっと開く。


 人では通れない小さな隙間に鳩型ガーゴイルたちは体をねじ込ませ、小屋の中へ消えていく。


 その様子を近くの木の枝にとまっていた紙の鳥が目のない顔でじっと見ていた。

 なにも動きがないことが分かると、下に降りて小屋の周囲を一周回る。足をペタペタとまるで足型をしっかりつけるかのような行動を取ったのち、その場から飛び去っていく。


 一連の様子を影から見ていた数羽のガーゴイルのうち1羽が耳に翼を当てる。


「対象物立ち去りました。回復師と接触するものと思われます」


「「了解。引き続きポイント周辺の監視を頼む。回復師担当のものは、他の勇者との接触ないかをよく見てくれ」」


 サフランの声が聞こえ、続いて別のガーゴイルの声が入る。


「「こちら追跡部隊A班。回復師真っ直ぐポイントに向かって徒歩で移動。引き続き監視します」」


 サフラン率いるガーゴイル部隊の通信は、スタジオにいるオレガノたちにも聞こえている。監視が順調に進んでいることに、緊張しながらもホッと胸を撫で下ろしたとき。


「「対象物ロスト! 繰り返します! 対象物ロストしました!」」


 突然の緊迫した声に、スタジオにも緊張が走る。


「「落ち着け! 対象物の行き先は回復師のところの可能性が高い。A班! 引き続き監視を続け変化があれば報告しろ! 回復師監視部隊状況を報告しろ! 他の班は対象物が他の勇者と接触する可能性を考慮し周辺を捜索だ!」」


 サフランの鋭い指示に各地のガーゴイルたちの返事が飛び交う。


「「回復師、対象物と接触! 映像送ります!」」


 手の甲に紙の鳥をのせて微笑むティフォンの姿がモニターに映される。日が沈みかけ、夕日に照らされ、紙の鳥を撫でるティフォンの姿は美しく幻想的にも見える。


 だがそれは紙の鳥が霧のように消え去るまで。口角を大きく上げ、張り付いた様な笑みを見せたティフォンが画面の方に視線を向けニンマリと笑う。


 そして右手が光を放ち、それが錫杖へと伸びると足下に魔法陣が浮かび上がり、文字の羅列が変化しながら詠唱を紡いでいく。


「転移魔法!? 装置も道具も使わずに自力にですって! 個人で組める魔法の上限を超えているわ!」


 驚くアンジェリカの言葉が示す通り、ティフォンが足下の魔法陣の光に包まれると、モニターに映る小屋の前に魔法陣が現れティフォンが姿を現す。


「「回復師ポイントと接触します!!」」


 緊迫した声と共にティフォンが小屋の扉にそっと触れると、その手をじっと見つめる。僅かに指を動かすと小屋に沿って青く光る線が周囲を囲い弾ける。


 張り詰めていた糸が切れたかのように、青い光の糸が宙を泳ぐと同時に、周囲の空気がガラスでも割ったかのようにパラパラと砕け地面へと落ちていく。


「「小屋に張っていた結界破られました!!」」


「この短時間でポイントにたどり着くとは……もう少し迷わせて手の内を探りたかったけど誘導できたので問題ないわ! そして結界を破られるのは想定通りよ。あとはダンジョンに誘導できるかどうか。1人目で失敗は絶対にできないわよ」


 アンジェリカの言葉にスタジオにいる全員の顔に緊張の色が浮かぶ。

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