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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
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10

 ときどき壁から土が覗く廊下は、今いる場所が地中にあることを教えてくれる。廊下に埋め込まれた証明に照らされながら歩くクミンの後ろに3人娘がついて行く。


「クミンさま」


 アルウラネのフェネルが頭に咲いている赤い花を揺らしながらクミンに話しかける。


「どうかした?」


「はい、今からオレガノ様に会うとおっしゃっていましたが、わたし心の準備がまだできていません」


 不安気な表情で見つめるフェネルを見たクミンは優しく微笑む。


「そんなに心配しなくても大丈夫。面接で会ったとき怖いとかなかったでしょ?」


「そ、それはそうですけど……」


 魔族にとって魔王と名乗る者に対して緊張感を持つことは普通のこと。ただそれは南に住む魔族は薄い傾向にあるが、他の地方の魔族はすぐに変われないのは仕方のないこと。


 クミンはそれを理解した上でフェネルとナツメグ、モナルダを順に見る。


「今うちが色々説明するよりも、直接本人と会って話してみて。そのうち慣れるから」


 クミンの言葉に顔を見合わせた3人は先に進み始めたクミンに急いでついて行く。やがてついた部屋のドアをクミンが声をかけて開ける。


 ドアが開いた先にある部屋で可愛らしい服を着たオレガノが、ハヌマーンたちによって衣装を整えてもらっていた。


 死んだような目でなすがまま、そんな感じのオレガノだが、クミンに気がつくと目を輝かせキラキラとした視線を向ける。


「クミン聞いてほしいのじゃ! 余はこんなふわふわした服よりも、鎧とか装備したほうがカッコよくて、映像的にも華やかになると思うのじゃ。あとマント、マントが必要なのじゃ!」


 わがままを言われ、衣装のチェックやメイクをするハヌマーンたちが困った顔をする中クミンがオレガノをじっと見て口を開く。


「鎧って……あぁ姫騎士みたいな感じですか? 可愛いと思いますよ」


「いや、そうではなくてじゃの。余はカッコよくなりたいのじゃ!」


「んーどうでしょう。将来は分かりませんが、今は無理じゃないですかね。愛らしい魔王なんですから、愛らしくいきましょう。あと、マントはいりません」


「がーんっなのじゃ」


「はいはい、本番近いんですから早く準備してください。主役がいないと始まりませんよ」


「おうそうなのじゃ! 余がいないと始まらんのじゃ!」


 怒ったかと思えば上機嫌になって、自慢気に胸を張る。コロコロと表情が変わるオレガノの姿をナツメグたち3人は目を丸くしたままただただ見ているだけである。


「むむっ、そっちの3人はだれじゃ?」


 クミンしか見ていなかったのか、ようやく後ろにいる3人気づいたオレガノが、ナツメグたちをじっと見る。


「うちの仕事を手伝ってもらう予定の子たちです。自己紹介しようか。ナツメグから順にお願い」


 クミンに促されナツメグが慌てて前に出る。


「わわっ、私、あのぉですね。なっナツメグですっ」


 噛み気味に自己紹介を終えたナツメグの隣にいたフェネルが前に出ると、スカートを摘んでちょこんとお辞儀をする。


「わたしの名はフェネルと申します。よろしくお願いいたします」


 緊張していると言っていたが、堂々と挨拶してみせるフェネルをナツメグが尊敬の目で見る。その視線の先にいるモルダウが大きく一歩前に出る。


「モナルダです! よろしくお願いします! オレガノ様可愛いです!」


 青い髪の上にあるアホ毛を揺らし元気に挨拶をし、余計な一言を添えるモナルダをナツメグとフェネルが驚きの表情で見つめる。


「ほほぉ~っ‼ この3人が前に言っていたクミンの部下かえ。余はオレガノ、よろしくなのじゃ! クミンは怖いが根は優しいのじゃぞ。えーっとなんじゃったか……そうそう、ツンデレなのじゃ」


「余計なことは言わなくていいです」


 オレガノの頭に手を置いたクミンが文句を言うが、その頬はほんのりと赤い。


「それよりも急ぎましょう。もうすぐ本番ですよ」


 クミンが手を差し伸べるとオレガノがその手を握る。


「ほら、ちゃんと皆さんにお礼を言ってください。謝るよりも感謝です」


「そうじゃった。皆のもの、ありがとうなのじゃ!」


 クミンに言われオレガノは繋いでない方の手をブンブンと振ってお礼を言うと部屋をあとにする。その可愛らしい姿にハヌマーンのスタッフたちはもちろん、ナツメグたち3人もほんわかしてしまうのである。



 ***


 オレガノたちの家から離れた場所にある、アンジェリカ所有の地下倉庫を改造し配信用の施設が作られる。カルダモンたちを中心とした職人の手によって建設された、スタジオ、衣装室、配信設備などなど至れり尽くせりの設備の数々。特徴的なのは広範囲への配信をするために必要となる、鳥型ガーゴイルたちの発進施設。


 森の地面の一部が割れると下から大きな台がせり上がってくる。台の上には犬小屋ほどの大きさの様々な家や施設が並んでおり、小さな町を作っている。森の中に突如現れた小さな町の家の玄関の扉が一斉に開くと、中から様々な種類の鳥型ガーゴイルが出てくる。


 それと同時に上空から滑空してきた丸っこいガーゴイルが、町の中心にある高台の止まり木に止まる。

 フクロウ型ガーゴイルのサフランは自分を囲む鳥型ガーゴイルの面々を見渡す。様々な種類のガーゴイルがいるのは北と西から避難してきたものたちがいるからである。


「いいか、今日もオレガノ様の配信に向け出発だ。何度も言うが、俺たちの役目は映像を映すだけじゃねえ。勇者どもを誘い出し、目的の地点に誘導すること! 場合によっては逃げ回りながら相手を分断することが求められる重大な役だ。心してかかれよ!」


 サフランの言葉に翼を挙げ声を上げるガーゴイルたち。


「そしてなによりも大事なのは全員生きて帰ること! いいな!」


 さらに気合の入った大きな声が響く。


 町の地面の一部に線が入り、それがせり上がって空に向かって伸びる。上を向いた地面には四角い箱が3つ並んでおり、その箱にガーゴイルたちが並んで足を乗せる。そして翼で器用にゴーグルを装着すると姿勢を低くして前を向く


「一番隊行きます!」


 四角い箱が上を向く地面に沿って高速で移動する。それに乗っているガーゴイルたちも高速移動し空へと射出される。対象を弾丸のごとく飛ばし飛行時間を短縮させる装置、いわゆるカタパルトによるサフラン率いる部隊の出撃により、各国に鳥型ガーゴイルが派遣される。


「頼むぜ……よし、2番隊出発だ」


 サフランの指示でカタパルトの向きが変えられ次の2番隊がカタパルトに乗る。


 こうして大陸各地に飛ばされた鳥型ガーゴイルは、週2回ほど行われる魔法使いモモちゃんの映像をお送りするのである。


 サフランは空を見上げ、くちばしを僅かに動かして呟く。


「皆無事に戻って来いよ」

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