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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
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「こ、こうでいいのかな」


 ナツメグは慣れない手つきで、ホワイトブリムの位置を合わせながら自分の姿を鏡で確認する。立ち上がって姿見の前に立つと、今度は自分の全体の恰好を確認する。


 襟と袖が白い藍色のワンピースの上から白いフリルのついたエプロンを着て、ホワイトブリムを頭に着けた姿、つまりはメイド姿である。


「は、恥ずかしいなぁ。変じゃないかな」


 見慣れない自分の格好に戸惑いながらナツメグは、先日行われた面談での出来事を思い出す。


 ━━ナツメグはうちの部隊に入ってほしいなって思っているんだけど、どう?


 面接会場で案内してくれたメイドが実は四天王の一人で、会場を回りながら自分を直にスカウトしてくるとは思っていなかったナツメグはポカンと口を開けてクミンを見つめる。


 ━━ナツメグはうちの僅かな殺気に反応したでしょ。危険感知能力が高い子を探していたからそういう勘のいい子が欲しいんだけど。途中で無理だって感じたらやめてもいいから、お試しってことでどうかな?


 第一印象で感じた怖い感じではなく、優しく微笑むクミンを見てこっちが本来の姿じゃないかとナツメグは感じる。


「やってみます……かぁ」


 北の大地で普通の家庭に生まれ、これまでの人生で他人から自身の能力を買われた経験がなかったナツメグは自分の口から出た答えに、自身もビックリしていたりする。


「でもなぁー、まさかクミンさんの二つ名が『暗殺メイド』とは知らなかったもんなぁ~。先に聞けばよかったけど返事しちゃったし。クミンさんは、仕事はちょっと面倒だけど慣れれば簡単だからって言ってたけど……暗殺ねぇ……慣れるものなのかな? 体験ってなにをやらされるんだろ」


 仕事の内容に不安に駆られながら、壁にかけられた時計を見たナツメグは、集合時間に近いことに気がつき慌てて準備を終え外へと出る。


 集合場所である施設内の広場に着くと自分と同じメイドの格好をした魔族の少女が2人いて、目が合ったナツメグと2人の少女たちはぎこちない会釈を交わす。


 緑の髪の頭に大きな花を咲かせている少女はアルウラネ系の魔族。右側に咲く赤い花がパクパク動いているのは体の一部であることを示している。


 もう1人は背中から生えている大きな青い羽根と、スカートの下から伸びる鳥の足が見えることから、ハーピー系の魔族だと窺い知ることができる。


 ナツメグをはじめとした3人は無言のまま、どこか落ち着かない様子で姿勢を正していると、静かにドアが開きクミンが現れる。足音も立てず凛と歩くクミンの登場に室内がピリッとして緊張感が増し、3人の表情がさらに硬くなる。


「そんなに硬くならなくてもいいんだけど、まあ緊張するか。うちも入社時そんな感じだったし」


 クスっと笑うクミンの表情に3人は少しだけホッとした表情を見せる。


「とりあえず座って、これからやることを簡単に説明するから」


 促され座った3人をクミンが順に見ていく。


「改めて自己紹介させてもらうけど、うちの名前はクミン。魔王オレガノ様の四天王の1人で『暗殺メイド』とか呼ばれてるけど……」


 クミンの自己紹介の途中で『暗殺』の単語が出た瞬間一気に緊張感を増し、顔を引きつらせる3人を見てクミンがふっと笑う。


「名前の前に暗殺なんて大層な言葉がついてるけど、あなたたちにやってもらうのはそんなのじゃないから安心して」


 自分たちの仕事が『暗殺』ではないと聞き、一転3人が同時にホッと胸を撫でおろす。


「ナツメグ」


「は、はい!」


 突然名前を呼ばれて、慌てて返事をしたナツメグが立ち上がる。残り2人の視線を感じ思わず立ってしまったことに恥ずかしくなり顔を赤くするナツメグにクミンが微笑む。


「フェネル」


「はいっ」


 アルウラネの娘が可愛らしい声で返事をすると立ち上がって、スカートの両端を摘まんで頭の花と一緒にちょこんとお辞儀をする。


「モナルダ」


「はい!」


 手を挙げて今にも飛びそうなくらい元気よく立ち上がったハーピーの娘は翼をバサバサさせる。


「あなたたち3人の危険感知能力は非情に高い。だからあなたたちにやってもらいたいことは、魔王オレガノ様の護衛。護衛っていっても戦うわけではなく、危険を感じたらオレガノ様を連れて全力で逃げるのが仕事」


『暗殺』から離れたと思った『護衛』という言葉に3人が再び緊張した面持ちになる。


「あのぉ……私戦闘経験とかないんですけど。逃げるといっても戦えないと厳しくないですか?」


 恐る恐る手を挙げたナツメグに気づいたクミンが手を広げ促すと、ナツメグは不安そうに答える。その内容にフェネルとモナルダもそうだと頷く。


「それが分かってるなら、やっぱり見込みあるってことね。それも含めてあなたたちは才能があると見込んだわけ。だって数百人見てみて、うちがいけると思ったのはあなたたち3人だけだから」


 クミンの言葉に3人は驚き目を丸くして顔を見合わせる。


「まあ最低限の戦闘や護衛の訓練とかはうちがぼちぼち教えるつもりだけど、通常業務は魔王オレガノ様のお世話係りがメインだから。今日は初めてだし、仕事がどんな感じか見てもらう予定だからうちについて来て。見てからどうするか考えてくれたらいいから」


 クミンに言われるがままに3人は返事をして、ついて行くこととなる。


 ***


 ぎこちない動きをするメイド服を着た3人を引き連れクミンがやってきた場所は、カメオくんたちがスタンバイされ、多くのスタッフが行き来する撮影現場であった。


 その中心にいるローリエが声を張り上げている。


「そっちの1カメオくんをも少し中央へ、上の撮影はガーゴイルさんの方でサポートしますから、皆さんは担当の仕事に集中してくださいね。出力とれてますか?」


 ローリエの声に猫耳の女性が、ハヌマーンの手を借りながら不慣れな手つきでコントロールパネルを操作する。


「はい! いけます」


「それじゃあ、各カメオくんで中心をぐるーと右から撮影してみましょう」


 ローリエが順番に指を差すと、それぞれの配置にいる魔族たちが慣れない手つきでハヌマーンたちの力を借りて操作していく。


 モニターをチェックしながら皆の動きを見ていたローリエが笑顔で拍手する。


「とても上手にできていました。それではこのあと本番があります。今日はハヌマーンさんたちの動きを見て今後自分たちがやる動きを覚えてください」


 ローリエに褒められ各場所に配置されている魔族たちが安堵の表情を見せる。


 その様子をしばらく見ていたクミンが振り返ると、ナツメグたち3人に声をかける。


「さてと、オレガノ様を迎えに行くからついてきて」


 クミンの口から出た『オレガノ様』の名前に3人顔に緊張の色が強く差し込まれる。

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