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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
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『剛力』の北、『劫火』の東、『流水』の西……はたまた『力の魔王』『情熱の魔王』『知略の魔王』などと呼ばる北と東、西の魔王たち。


 では南の魔王はというと……一番ましなところで『破天荒』あとは『行き当たりばったり』とか『適当』、『ぞんざい』など辛辣な言葉が並び、人当たりの良さからおよそ魔王と思えない『人情』や『親切』などと呼ばれることもあった。


 そんな呼ばれ方では魔王の威厳はないと奮起した仲間たちが、当時好き勝手に暴れていた魔族を制圧するついでに「魔王オレガノ様に盾つくとこのような極悪人とてただでは済まないのだ! オレガノ様は怖いんだぞ!」と各地の人間や魔族を脅しその地を制圧し支配権に収めていく。南の領土を広げていくその過程で、


『極悪人でもただでは済ませない、恐ろしい魔王オレガノ』

 ⇓

『極悪では済まない魔王オレガノ』

 ⇓

『極悪魔王オレガノ』


 と長い年月を経て血も涙もない暴君、『極悪魔王』の名が生まれることとなる。


 そのことは耳には入って把握はしたが、拍が付いていいとそのまま放置した当時のオレガノと、各地の魔王も実害はないしオレガノの適当さゆえの結果なので特に気にすることもなく今日に根付いた。


 適当な感じでついた『極悪魔王オレガノ』の名だが、そんな事情を知らない若い世代の魔族たちには恐怖の名前でしかない。


 遥々北から逃げてきた魔族の少女は、歩いてきた振動でフードがズレてしまったことに気づき立ち止まると、額にある角を隠すため大き目のフードを深く被り森の中を歩く。


「本当ここであってるのかなぁ」


 不安そうな声色で呟く少女の名は、ナツメグと言う。フードで隠しているが額にある角からも人間ではないことは明白である。


 人間に悟られないように口頭で伝えられた新生魔王オレガノ軍復活に向けての募集と行く宛のない魔族の保護の噂を頼りにナツメグは、はるばる南の大地へとやってきたのだ。


 うっそうと茂る森の中を歩くナツメグがふと足を止め周囲を見渡す。


「魔力を感じる……これは?」


 その場に屈んだナツメグが落ち葉を払いのけると小さな緑色の石が姿を現す。

 その石を指で摘んだナツメグが顔に近づける。

 そして遠くを見ると、ちょうど吹いた風によってフードがめくれ、額の角と尖った耳が露わになる。


 本来のオーガの姿を見せたナツメグは、手に持った緑の石の出現がもたらした変化が嬉しくて、顔を風に撫でられながら笑みを浮かべる。


「これを辿れってことかな?」


 緑の石を元の場所へ戻し落ち葉をかけ、フードを被り直すと魔力を探りながらナツメグは進む。


 ***


「はぁ〜良かったぁー無事に辿り着けた」


 森の中にある洞窟へと入り、そこに現れたハヌマーンの兵に案内され面接会場へと案内される。


 広い空間に用意された椅子に座り込んだナツメグはフードを脱ぐと手で自分を仰ぐ。

 周囲を見渡すと自分と同じ境遇であろう様々な魔族たちがいて、疲れ切って座り込んでいる者や熱く口論している者などそれぞれの時間を過ごしていた。


 久しぶりに見た魔族たちの姿に安堵すると同時に、小さな子供まで含め沢山の魔族が逃げて来たのだと思うと漠然とした不安に駆られてしまう。


「お飲みものをどうぞ」


 お盆に載せられた数個のグラスを持ったメイド姿の女性が現れ、ナツメグに勧めてくる。


「あ、どうも……」


 少し切れ長な目にかかる黒い色の髪越しにじっと見られ、その射抜く様な鋭い視線にナツメグは緊張から思わず唾を飲み込んでしまう。

 お盆の上にある水の入ったグラスを手に取りお礼を言うと、メイドの女性は会釈をして別の魔族の元へと行ってしまう。


「ふぅ〜、すごく綺麗な人だけどちょっと怖かった……」


 大きく息を吐き胸を撫でおろしたナツメグが改めて周囲を見渡す。


「皆、魔王オレガノ様の魔王軍に入るのかな? 軍に入らない魔族も来てもいいって聞いたけど大丈夫かな。いきなり戦えとか言われても戦えないよぉ」


 ナツメグの視界に入った強そうな魔物たちの姿に場違いではないかと不安になってしまう。そんなナツメグの耳に周囲の声が入ってくる。


「魔王オレガノ様ってめちゃくちゃ怖いって聞いたぞ? なにせ極悪なんだろ、極悪!」


「並みの魔族なら睨まれただけで足腰立たなくなっちまうって聞いたぞ。運が悪ければ即死らしいじゃねえか」


「気に食わないヤツはその場で食ってしまうって聞いたことがあるぜ」


「まじかよ! 俺は拳一撃で軍隊を粉砕しちまうってのは聞いたことあるな」


 他の魔族たちの会話を聞いてナツメグは思わず身震いする。


「あぁ……来なかった方が良かったのかなぁ……怖いなぁ。ノルデン様に逃げるように言われ西に向かったらウェスティー様までお亡くなりになって、近い南に行ったのが失敗だったかも。あぁ、よくよく考えたら私ずっと選択ミスしてばっかりだぁ」


 頭を抱えて悶絶するナツメグは、奥の方から近づいてくる足音に気づきそちらを見る。


 奥からやって来たのは数人の男女。家族か親戚かどこか血の繋がりを感じさせる馬の頭を持つ魔族たち。


「あれはやばいわぁ。お母さん見た瞬間心臓がキュッとなったもの」


「しかたないよ。僕もあんな目で見られたら心臓止まるかと思ったよ。あれは反則だよ」


「魔王オレガノ様……とんでもない方だよ」


 目を見開き胸を押え、とんでもないものを見たといった表情で馬の魔族たちは、ナツメグをはじめとした集団の間を通り抜けていく。


 会話の内容を聞いた魔族たち、そしてナツメグは青ざめた顔で下を向いてしまう。


「ど、どうしよう……やっぱり帰ろうかな」


 恐くなったナツメグが呟いたとき、突然目の前から声がする。


「お待たせして申し訳ありません。準備が整いましたのでこちらへどうぞ」


 いつの間にか目の前に立つ、先ほど飲み物をくれたメイドに声をかけられ、ナツメグは思わずのけぞってしまう。


「ふえっ? わ、私ですか。え、えっとまだ到着したばかりですけど、えっと、もう行くんですか?」


 慌てふためくナツメグを見てメイドは微笑みながら、どうぞと手で進行方向を促す。今更逃げられないと、唾を飲み込んだナツメグは立ち上がってメイドに案内され面接室のドアの前へとやってくる。


「入ります」


 メイドがドアを開けると、部屋には長机があってその前で背伸びをしている幼女とナツメグの目が合う。


「あっ……少々お待ちを」


 ナツメグを置いてメイドが面接室に入るとドアを閉める。


「すぐに連れて来るって言いましたよね! ほらっちゃんと座ってください。あぁーもうほら髪が乱れてる! ちょっとサフラン、くしを取って!」


 ドアの向こうから騒がしい声が聞こえてきてすぐに、ドアが開かれるとメイドが現れ微笑む。だが、先ほどよりも少し髪が乱れ笑顔が引きつっている。


「は、はい」


 緊張気味のナツメグが案内され面接室に入ると、長机の対面に座らされる。さきほど背伸びして目があった小さな少女の隣に座ったメイドが、靴を脱がせると少女は手を借りて椅子の上に立って腕を組む。


「よく来たのじゃ! 余が『愛くるしい魔王』ことオレガノなのじゃ!」


「え、えーと……極悪じゃなくて、愛くるしい?」


 想像していたオレガノではない人物の登場に、ナツメグは状況が把握できておらず言葉が出てこない。

 目をパチパチと何度もまばたかせるナツメグの前で腕を組んでふんぞり返っていたオレガノがクミンを見る。


「ちょっと喉が渇いたのじゃ。オレンジジュースが飲みたいのじゃ」


「さっき飲んだばかりです。ちょっと飲みすぎですよ、飲むなら水にしてください」


「水よりもオレンジジュースの方が美味しいのじゃぞ。常識なのじゃ」


「そういう話ではありません!」


 どうでもいいことを話し始め自称魔王とメイドのやり取りをポカンと口を開けて見ていたナツメグのもとに、一羽のフクロウのガーゴイルがやってきて膝にとまる。


「騒がしくて悪いな。俺の名はサフラン、お前さんの名前はなんていうんだ?」


「あ、えっと、はい。ナツメグです」


「じゃあナツメグ、早速だが面接をっておい、押すな!」


 サフランの頭を押えて身を乗り出したオレガノがグイっとナツメグを見上げる。純粋な瞳に見つめられ緊張するナツメグを見て、オレガノがほわぁ~と笑顔になる。


「ナツメグ、よろしくなのじゃ」


 満面の笑みを向けられナツメグは思わず赤面して体を反らしてしまう。


(なにこの可愛い生き物⁉)


 ナツメグが、愛くるしい魔王の可愛さに触れた初めての瞬間であった。

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