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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
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6

 かつて西の地は山脈を経て巨大な川が流れときに反乱し被害をもたらす地域と、その雨が降らず乾き荒れ果てた大地が広がる地域に分かれていた。


 四人の魔王がそろう遥か前に一人の魔族がこの地にやってきて、大地を削り川の流れを変え水が飽和し大地を傷つける地と、乾き果てなにものも育たなぬ地のバランスを取る。


 その魔族は仲間たちと共に巨大な魔力と力を使い大地を削り水を各地へと分け、大地を耕し動植物を育て豊かな大地へと導いていく。


 途方もない年月魔族はコツコツと大地を整え、やがて西の地は水の大地と呼ばれ潤いと繁栄の象徴となる。


 その魔族は今、老いた手に水をまとい飛んできた鉄球を受け流し、鎖に沿って水の刃を放つ。


 普通の者であれば怪我では済まないであろうほど研ぎ澄まされた水の刃を体で受けてものともせずに突っ込んできたエリュプの蹴りを受け流し、がら空きとなった背中に目にも止まらぬ突きを数発入れる。


 互いに距離を取ると同時にウェスティーは右手の指で印を組むと、エリュプの背中から無数の水が紐状に伸び体に巻きつく。


 腰を落とし姿勢を低くしたウェスティーが右手を引き力を溜めると、エリュプから離れた位置から掌底を繰り出す。短い気合と共に放たれた水の塊が水しぶきを上げながら高速で飛んでエリュプと衝突する。


 激しい破裂音と水しぶきが飛び散り水蒸気が煙となり周りに立ち込める。そして城の影に潜んでいた兵たちが一斉に、水蒸気に包まれまだ見えぬエリュプに向かって武器を構え突っ込んで行く。


 轟音と共に鉄球が回転し水蒸気と兵たちをまとめて吹き飛ばし、エリュプの姿が露わになったときウェスティーの水をまとった手刀が放たれる。


 間一髪で避けたエリュプの頬が切れ血が宙に舞う。


 目を大きく見開くエリュプとニンマリと笑みを浮かべるウェスティーの目が合う。


「あのじいちゃん凄くない⁉ あたしらで一番防御力高いエリュプに傷つけたじゃん!」


 離れた場所で見ていたカラミィーテが驚きの声を上げると、隣にいたトルネードが腕を組んで感心したように頷いている。

 2人の驚きの視線を受けるエリュプ自身も驚きながら自分の頬を撫で、手についた血を見つめる。


「血を流したのは何年振りだろうか……どうやってやった?」


「ほっほっほ、年の功が成せる技だといっておこうかの。ゆえに教えたところで若造には真似できんぞ」


 笑うウェスティーとニヤリと口角上げたエリュプが同時に一歩踏み込むと、目にも止まらぬ突きと蹴りの攻防が始まる。


「それだけ自身の動きを縛っておきながらこの動きとは、やるの若いの」


「お褒めいただき感謝する。これだけの達人に出会えたことにも感謝する」


 嬉しそうににやけるエリュプが、高速で鉄球を振ると後方から襲いかかろうとしていた兵たちを壁ごと磨り潰してしまう。


「無茶苦茶しよる」


 悲惨な状況になった壁を一瞬だけ瞳に映したウェンスティーは、静かに呟きながら両手に魔力をまとう。

 5本の指から伸びる魔力は5本の巨大な牙となり、両手でエリュプを挟み込めば現実には魔力で生み出された巨大な牙に挟まれたこととなる。


 まるで鋭い牙の龍に噛まれたかのような状態のエリュプ。ウェンスティーが手を捻れば龍の口もエリュプごと回転する。


 そのまま激しく地面に叩きつけ、ウェンスティーが両手に力を入れると同時に爆発する。


 水しぶきと共に、投げ出されたエリュプの体を縛っていた鎖の千切れた破片が光に照らされてキラキラとまたたく。


「ワシの『龍牙(りゅうが)』を受けて無傷とは、いやはや嫌になるのぉ」


 ウェンスティーがボヤいたとき、未だ空中に身を置くエリュプが目をカッと大きく見開く。


 体勢を整えるため空中で体を捻るところまでは誰もが目視できた。だが空気が爆発した次の瞬間には、ウェンスティーが立っていた場所に拳を上げたエリュプがいて、ウェンスティーは壁に激突しそのままめり込み砕けた破片を散らす。


「ぐふぁっ!! ごほっ、ゲホッ」


 白く長い髭を吐血で赤く染めたウェンスティーが激しく咳き込む。


「さすが魔王だ。本気ではないとはいえ、解放した俺の拳を受けて形を保ち生きているとは驚いた。もう一戦いけるか?」


 満面の笑みで嬉しそうな顔で近づいてくるエリュプを見ながらウェンスティは口元を拭う。


「バカを言え。もう限界だ。ワシにお前さんと戦う力は残ってはおらん。全くとんでもない化け物めが……ごほっ、うっ……一撃でこれほどのダメージとは、うぅっ、ごほっごほっ」


 咳き込むウェンスティーを見下ろすエリュプが残念そうな表情をする。それを見上げ、痛みをこらえながらもウェンスティーが笑みを浮かべる。


「年寄りの最後の願いを聞いてはくれんかの?」


「ふむ、称賛に値する相手だ。聞こう」


「すまんな。ワシは酒が好きでな。最後に一杯飲ませてくれ」


「いいだろう」


「恩に着る」


 ウェンスティーが手を上げると数羽の鳥型のガーゴイルが降り立つ。


 それぞれが酒瓶やグラスを持っており、ウェンスティーにグラスを手渡す。


「お前さんも飲むか?」


「いただこう」


 エリュプの手にグラスが渡されると、大きな氷が入れられ、そのまま酒瓶から酒が注がれる。


「西の大地の水で作った酒だ。ワシが生涯かけて作った酒の中でも一番のできでの。冷やして飲むと上手いんだが、氷が溶けてしまうと薄くなるから一気に飲むのがオススメだ」


 説明しながらウェンスティーもグラスに氷を入れ酒を注ぐと、一気に酒を流し込む。それを見たエリュプも同じように一気にグラスの酒を飲み干す。


「くはぁ、うまいっ! どうかの?」


「これほどにうまい酒は飲んだことがない」


「そうか、そうか」


 エリュプの言葉を聞いて満足そうに目を細めるウェンスティーはガーゴイルたちにグラスや酒瓶を持たせる。


「さあここから離れるがいい。その余った酒は大事にして、落ち着いたらワシの墓にでもまいてくれ。おっとそうじゃ、鎖に繋がれた眠れる獅子は起こさんほうがいい。弱者は弱者であれと墓に彫ってくれ。この欠片は全力を見ようとしたワシの戒めだわい。コイツも忘れずに墓に入れてくれ」


 目を潤ませるガーゴイルたちにエリュプを縛っていた鎖の欠片を投げて渡すと、無言で追い払う仕草を見せて、ウェンスティーは体を震わせながら立ち上がる。


「ほう!」


 立つ姿を見て笑顔になり嬉しそうな声を上げたエリュプをウェンスティーは睨む。


 そのままエリュプの後方にいるトルナードとカラミィーテを見たウェンスティーは、姿勢を低くし拳を握り構える。


「やれやれ、全員相手にしようと思ったが無理じゃったの。過去2回ほど勇者を払い除けたから自信があったんじゃが。ワシが年老いたのか、コヤツらがとんでもないのか……」


 そう呟いたウェンスティーが大きく一歩踏み出すと、エリュプも同時に足を踏み出し互いの拳が正面からぶつかる。


 遠く離れていても空まで響きわたる音を背にして、消える主の魔力を感知しても鳥型のガーゴイルは必死に飛ぶ。主から託されたものを必死に足で掴み南へと翼を羽ばたかせる。


 ***


 一匹の真っ白な蝶々がひらひらと空を飛ぶ。


 白い蝶をよく見ると異常に薄っぺらく紙でできていることが見て取れる。紙でできた蝶がひらひらとゆっくり降下していくと眼下に村が現れる。


 村で動いているものは大量のカラスしかおらず、動かなくなった生き物たちに群がって肉をついばむ。

 食べても食べきれない御馳走の山に、さながらカラスのパーティー会場と化した村の間をひらひら舞い飛ぶ白い蝶は村で一番大きな屋敷の窓に触れると、空気中に波紋を生み出し建物の中へと入って行く。


 部屋の中に入った蝶が大きなベッドの上で円を描きながらひらひら舞うと、ベッドのシーツがもぞもぞと動きシーツで前を隠すティフォンが姿を現す。上半身を起こしたティフォンの横には一糸まとわない姿で、どこか虚ろな表情のまま一点を見つめブツブツと呟くミアの姿があった。


 ティフォンはミアの髪を撫でるが、撫でられたミアは反応することなくただ呟き続けている。そんな姿を見てクスっと笑ったティフォンが右手の甲を上にして刺し出すと、白い蝶は人さし指にとまる。


「そう、西の魔王との決着はついたのね。もっと楽しむのかと思ったけどエリュプはそんな器用なことできないものね。そろそろわたくしも皆と合流をして、東側の可愛い子を探そうかしら。東は魔王をはじめ女性が多いって聞くし、魔族を愛でるのもありかしら。人間よりも長く楽しめるしいいわね……」


 頬を赤く染めうっとりとした表情で、舌なめずりをしたティフォンが言葉を止め蝶を見る。


「なに? この記録……」


 キラキラと光が零れる瞳を蝶に向け真剣な表情でじっと見つめていたティフォンが口角を上げにまぁっと張り付いたような笑みを浮かべる。


「あらあらあら、この魂の色はもしかして。まさかそんなことがあるなんて……うふっ、うふふふふふふ、あはははははっ!!」


 ティフォンは大きな声で笑うと隣で虚ろな表情で呟くミアの頬に手を触れる。


「ミア、わたくしとても面白いもの見つけたの。だからミアとの関係は終わり。今日まで楽しかったわ。ありがとう」


 ティフォンが頭を握り手首を捻るとミアから鈍い音が響き動かなくなる。瞳の光が弱くなっていくミアだが、その目尻には薄っすら涙が滲んでおりどこか安堵の表情にも見えてしまう。


 そんなことなど気にすることなく、ティフォンは変わらず至福の笑みを浮かべている。


「水浴びしてこなくちゃ。そうそう、トルネードたちにはわたくしはやることができたから、東の魔王には3人で行ってって伝えておいて」


 人さし指にとまる蝶に話しかけると、蝶が飛び立つと同時にティフォンはベッドから立ち上がる。


「うふふっ、楽しくなりそう」


 唇を舐めたティフォンは自分の体を撫でながら至福の微笑みを浮かべる。

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