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この世界においてガーゴイルは、魔法使いを中心にし伝達の手段として使用することがあるので、日常で目にしている者も多くさほど珍しい生き物ではない。
だがそれを個人間ではなく宣伝として使用されることは珍しく人々の気を大いに引く。
空から降り立った鳩型ガーゴイルは、斜めかけ鞄の中にある紙をくちばしで摘まむと、八百屋の店主に差し出す。
「なんだ? なになに……世界初! 魔法通信による4王都、10町、8村同時配信!! 奇跡的可愛らしさの魔法使いのモモちゃんの芸の数々を見てみないか‼ トークタイムもあるよ! 日時は……ってなんだこれ?」
店主が尋ねると、鳩型ガーゴイルが首を前後に動かしつつ、くるっぽーと鳴く。
「簡単に言えば大道芸の一種です。我々ガーゴイルを使い各都市や村で同時に魔法による投影を行い楽しんでもらおうという試みです」
「はぁ、なんだかすごいな。この写真の女の子が大道芸をやるのか?」
「ええ、モモ様は幼いながらも偉大な魔法使いなのです。数十ものガーゴイルを一斉に使役し投影魔法を使用しつつ芸を披露いたします。是非とも当日見てください。もしよろしければ、広告をお店の目立つところに貼ってもらえないでしょうか?」
「これをか? まあいいけどよ」
「ご協力感謝いたします」
羽根で敬礼をした鳩型ガーゴイルはくるっぽーと鳴いて、宣伝をするため次なる場所へ飛んでいく。飛んでいくのを見送った店主は手に持っている広告に目を落とし、もう一度目で読む。
「年は俺のとこの孫と変わらなそうだな。こんな小さな子が芸をねぇ凄いもんだ。どれっ、孫を誘って行ってみるか」
独り言を呟いた店主は店の柱に広告を貼り付ける。
こうして満面の笑みを見せる偉大な魔法使いモモちゃんの広告、いわゆるポスターは各地に貼られていくことになる。
***
ハヌマーンの女性を中心とした数人のスタッフがオレガノに服を着せ、軽めのメイクを施し髪を整える。
なすがままのオレガノがメイクアップされていく様子をクミンとローリエが感心した顔で見守っている。
フリルのついた可愛いらしい服を着せられたオレガノが自分の姿に戸惑っていると、スタッフの一人が手を取って誘導する。
「オレガノ様入ります!」
「1カメ、2カメ、3カメ出力安定、撮影モードへ切り替えます!」
オレガノがセットの上に立つとスタッフたちが声をかけ合いながらテキパキと準備を進め、正面と左右にいるカメオくんたちが目の光を緑から白へと変化させ撮影モードへと移行する。
「各地の投影バードとの通信良好! カメオとの通信速度規定値内確保! 配信いけます!」
「配信準備オッケーです! オレガノ様いけますか!」
各箇所から声が飛び交い、オレガノの隣にいたハヌマーンの女性がオレガノに声をかけると大きく手を挙げる。
「オレガノ様スタンバイオッケーです!」
「スタンバイオッケー確認しました! カウント始めます! 3・2・1スタート‼」
カウントが数えられカチンコが打たれ、心地よい音がスタジオに響く。
カチンコの音を合図に満面の笑みに切り替わったオレガノが、1カメに向かって両手をひらひらさせ手を振り愛嬌を振りまく。
「みんなー、はじめましてなのじゃー! 余が偉大なる魔法使い、モモちゃんなのじゃぞ」
えっへんと胸を張って見せたかと思うと、いつの間にか持っていたステッキをクルクル回して空中に投げる。空中に投げられたステッキがポンっと煙を上げると、煙の中から白い鳩が飛び出しオレガノの周りをクルクルと回る。
オレガノが手をパンと叩くと、鳩がポンと煙を上げ消えて、今度は上から雪が振り始める。
「余はいろーんなことができるのじゃぞ! みんなに楽しんでほしいのじゃぞ! その前にじゃ! 今度から余と会ったときにしてほしい挨拶があるのじゃぞ」
オレガノはそう言って腕を後ろに組んだまま後ろに下がり、カメオたちから全身が映る位置に立つと両手をパーに広げて顔の近くに持ってくる。
「『こんにちは』と『モモ』の名前を合わせた挨拶、ズバリ『コンモモー』なのじゃ! こうやって手を広げて笑顔でやってほしいのじゃ」
手を広げてその間にある笑顔を咲かせ挨拶するオレガノ。
「せーのでお願いするのじゃ。せーの『コンモモー』」
カメオに向かって笑顔で挨拶をするオレガノを、目を丸くして見ているクミンとローリエの間にアンジェリカが立つ。
「どう? わが社の優秀なスタッフによる、魔法使いモモちゃんプロデュースは」
アンジェリカはふふんと自慢気な笑みを浮かべクミンとローリエの肩に手をかける。
「カンペを的確に使い指示を出しているとはいえ、あの間の取り方に堂々とした佇まい、いつものダメダメなオレガノ様からは想像できない動きです。まるではじめからこの配信をするために生まれてきたようです……」
「元々魔王なんだから大勢の前で話したり、なにかする経験は豊富なの。魔王の経験がここで生きてるわね。可愛らしい動きと喋り方さえマスターさせれば、魔法使いモモちゃんの完成なのよ」
自信を持って言い切るアンジェリカの横で、ローリエが感心して何度も頷いている。
(魔王の経験が生きる場所がこれなんだ……魔王ってなんだろう?)
心の奥底に芽生えた疑問をじっくり考えようかと思ったクミンの耳に、飛び交うスタッフの声が飛び込んで来る。
「挨拶オッケーです! 各地の反応30パーセント。良好です!」
「30パーセント了解です。次ダンスへ移行します!」
「ダンスの準備へ移行! ミュージックお願いします!」
キビキビと動くスタッフに、疲れを感じさせないオレガノが音楽に合わせて可愛く踊り始める。
(……本当に魔王ってなんだろう。いや、オレガノ様がおかしいんだろうか? 他の魔王はこんなんじゃないのかも)
笑顔を振りまきながら踊るオレガノを見てクミンが頭を抱える。そうこうしている間にトークタイムなるものが始まり。各地の人たちと投影バードたちを通して会話を交わすという催しである。
「「モモちゃんは何歳ですか?」」
どこかの村の女の子が尋ねると、オレガノが右手をパーにして左手の指を2本立て重ねる。
「700歳なのじゃぞ」
「「わー! 全然見えません。若く見えますね」」
「ふふーん、よく言われるのじゃ」
成り立っているようで成り立っていない会話を交わしながら進行するトークタイム。この間にスタッフたちは投影バードが送ってきた映像を解析しながら勇者たちらしき人物を探し出す。
ふざけているようで、やることはやっているアンジェリカの行動力に対してクミンは素直に感心するのだった。




