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アンジェリカの発言した、魔王ノルデンの孫娘であることに驚いたクミンは、オレガノに目を向ける。
「余も数日前にアンジェリカに言われて初めて知ったのじゃ」
クミンの視線の意図を理解したオレガノの答えに、アンジェリカが頷き間違いないと肯定する。
「「祖父といっても、もう何百年と会ってなくて関係は気薄だったけど。そもそも北に君臨する魔王ノルデンの身になにかがあるなんて心配もしていなかったから連絡を取る気なんてなかったの。だけど南の魔王オレガノが討たれ、勇者一行が北へ向かったと聞いたときは正直背筋が冷えたわ」」
淡々と話すアンジェリカの姿を見たオレガノが、うつむいて申し訳なさそうな表情で口を開く。
「知らなかったとはいえ、余はアンジェリカがノルデンを心配しているのに助けに行くことを断ってしまったのじゃ」
「それは仕方ないです。今のオレガノ様が行ったところでなんにも役に立ちませんし、うちたちが行っても瞬殺されるのが現実です。それはそうと、アンジェリカさん」
しょんぼりするオレガノの頭に優しく触れたクミンがアンジェリカを睨む。
「魔王ノルデンの孫娘で敵討ちをしたいのは理解できますが、ことが済んだあとでオレガノ様に正体を明かし断りにくくするのは卑怯だと思うんですが」
殺気立つクミンをじっと見ていたアンジェリカは、目をつぶってふっと笑う。
「「そうね、私が悪いわ。オレガノは最後まで魔王ノルデンとして生きて散っていくことを考えてくれて、そのときは私も納得したの。でもいざ悲報を聞いたとき居ても立っても居られなくて、オレガノにお願いしてしまったの」」
いつもとは違い言葉に独特の強さがない、簡単にいえば元気がないアンジェリカの姿に今度はクミンがため息をつく。
「事情は分かりました。分かりましたが、今後オレガノ様に直接話を持ち込まないでください。見ての通り、ただのちんちくりんで、泣き虫で、よわよわな元魔王なんです。役に立つわけがないですよね? ですから今後オレガノ様に話があるなら、うちたちを通してください」
「あ、相変わらず酷い言われようなのじゃ……」
再び涙目になってショックを受けるオレガノと、鋭い目で睨むクミンを見てアンジェリカが頷く。
「「ええ分かったわ。オレガノ、ごめんなさいね」」
「あまりアンジェリカを責めないでほしいのじゃ。承諾したのは余じゃし、余もノルデンから託されて悩んでおったから相談に乗ってもらっておったのじゃから。孫娘だと打ち明けてくれたから、余もノルデンから託されたことを打ち明けれたのじゃから助かったのじゃ」
頭を下げ謝るアンジェリカをオレガノが庇う。すると、ここまで黙って聞いていたローリエがアンジェリカに目を向ける。
「魔王が人間に討たれる、現実的には考えにくいことですが、過去の文献などから見てもあり得ないことでもないです。それが現実に起こってしまったわけですが、勇者は誰が孫娘なのかなんて分からないんですから、大人しくしていればいいと思うんです。最悪ハヌマーン商会自体が危険にさらされる可能性もあるのに、元とはいえ他の魔王に頼んででも敵討ちをしたい理由ってなんですか? 大陸の外から武器を手に入れようとしていますし、アンジェリカさんの行動に気になる点が多いです。もしよろしければ真意を教えてもらえませんか?」
「「嘘をついても仕方ないわね。まあ、嘘をつく理由もないんだけど」」
モニターに映るアンジェリカは足を組みなおし、やや体を前のめりにしてモニターに顔を近づける。胸元を強調する格好になっていることなど、本人は意識はしていないのだろうが、微妙に色気が増す画面に教育的には悪いのではと心配したクミンがオレガノを見る。
だが、当の本人は気にすることなくアンジェリカをいつもの様子でじっと見ているので、その姿に安堵したクミンはアンジェリカに目を向ける。
「「勇者たちの目的が魔族の全滅と思われるからよ。私たちに無関係ではいられないでしょ」」
「ぜ、全滅⁉ そんな証拠があるんですか?」
「「北の大地に進出した勇者たちは、魔族が済む町や村を潰しているわ。それはそれは丁寧に跡形もなく。そのついでに人間の村も襲っていくつか潰しているみたいだけど。こっちは……ちょっと説明するのもおぞましいくらいの悲惨さね」」
「人間の村も? どういった意図が」
ローリエとアンジェリカの会話にクミンが割って入る。
「「意図があるとすれば、人間を虐殺したのは魔族だってヘイトを向けたいとかじゃないかしら? 報告書を読むによくもまあここまでできるものねと言わざるを得ないわね」」
アンジェリカの発言した内容に皆が黙ってしまう。
「つまり、社長はよ自身も含め魔族全体のために勇者討伐を考えたわけか。っていうかなんでオレガノなんだ? 他の二人の魔王の方が今のオレガノよりも強いだろ」
暗い空気の中、サフランが目を光らせモニターを空中に投影したまま発言する。
「「それも単純。私が二人の魔王との繋がりが薄いからよ。二人の魔王もダンジョンを利用してくれてるけど、全て私が直接関わるわけじゃないから直接会ったことはないわ」」
「んーそれとよ、前々から気になっていたんだが、社長はオレガノに対して甘くねえか? 聞けばダンジョン経営を始める前の資本金が6,000エンだって聞いたぜ。いくら魔王の真核を担保にしたとはいえ、普通の社長なら門前払いだろ? そもそも、なんで北の魔王の孫娘が南にいるんだ?」
矢次に質問するサフランをじっと見ていたアンジェリカが、艶やかな唇を指でポンポンと叩いて考える素振りを見せたあと、頬をほんのりと赤くして色っぽい笑みを見せる。
「「ここまできたら、隠しごとはなしかしらね。いいわ、理由を教えてあげる」」
そう言ってアンジェリカは画面を調整すると、後ろに下がって自分を映しながら羽織っていた白衣を脱ぎ、下にあった胸元まで露わになったカッターシャツのボタンに手をかける。
艶めかしく一つ一つボタンを外し始めるアンジェリカの行動にローリエが顔を真っ赤にし、クミンは慌ててオレガノの目を塞ぐ。
画面の向こうの人物を止めることができる術があるわけもなく、あわあわするクミンたちの前でアンジェリカはするっとカッターシャツを脱ぎ足下に落とす。
透き通るような肌に、黒色の艶めかしく……ないVネックのシャツを着たアンジェリカが少し恥ずかしそうな表情で後ろを向く。
『魔王オレガノ 推し‼』
背中にかかれた大きな文字と、右端にデフォルメされたアンジェリカらしいキャラが、サイリュウムを振って「きゃーさいこー!!」と描かれたTシャツ。
「「私、魔王オレガノの追っかけしてたの! 400年ほど前からもちろん今もよ! ふー、ついに本人の前で言っちゃったわ。あ~も~恥ずかしいわねっ」」
予想もしていなかった告白にクミン、ローリエ、サフランは口をポカンと開け、頬を押させ恥ずかしそうにくねくねしながら告白するアンジェリカにかける言葉が思いつかなくなるのである。




