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オレガノの発言に対しクミンがテーブルを叩きながら立ち上がる。
「ちょっと待ってください! 勇者を倒すと言いますが、元の強いオレガノ様でもボコボコだったんですよ! 今のちんちくりんで泣き虫で、食う寝る遊ぶしかできないごくつぶしのオレガノ様が絶対に勝てるわけないじゃないですか‼」
「うわぁぁん、ローリエ~! クミンが酷いのじゃ~」
オレガノが手を広げてローリエに助けを求める。
「う、う~ん。正直私も無理だと思います。この中で一番強いのはクミンさんだけですし。あとは私も含めて、よわよわの雑なお魚さんしかいませんからとても勇者に勝てるとは思えません」
「がーん! ローリエから雑魚扱いされたのじゃ」
「がーんって……古いな」
ローリエにやんわりと雑魚扱いされたことにショックを受けるオレガノの表現に、サフランがツッコむ。
「だけどよ、なにか秘策があるわけだろ? だから今こうして貿易をやりたいとか言いだしたんだろ?」
「さすがサフランなのじゃ! 余の考えを聞いてから否定してほしいものじゃ」
サフランの発言にオレガノは、潤んだ目をキラキラさせて嬉しそうに手をブンブンと振る。
「確かに余は弱いのじゃ。だから別の力を借りて勇者たちを個別撃破しようと考えておるのじゃ」
「別の力? 個別撃破? 作戦としては理解できますが、内容について想像ができません」
「ふふ~ん、クミンは察しが悪いのじゃ」
胸を張るオレガノだったが、クミンに睨まれしゅんと小さくなってしまう。
「ダンジョンじゃ。ダンジョンに呼び寄せトラップとリスポーンブロックによる魔族と魔物の軍団を使って撃破するのじゃ!」
「呼び寄せる……もしかして、転送機能を利用するんですか?」
「その通りじゃ! さすがローリエなのじゃ!」
両手をブンブンと縦に振りながら、興奮した様子を見せるオレガノの頭にサフランが飛び乗る。
「言いたいことは分かった。でもよ、俺らのダンジョンは地下2階までの全3階しかないぞ。しかもそのうち2階はカジノ要素が強い。トラップも少な目だし、とてもじゃないがめちゃくちゃ強いと噂の勇者を倒せるとは思えないんだが」
「それは大丈夫なのじゃ!」
「待ってください」
笑顔でニシシと笑うオレガノに鋭い視線を向けたクミンが手を広げ、会話を止める。
「まさかとは思いますが、別の場所に専用のダンジョンを作ろうだなんてこと言い出しませんよね」
「その通りじゃぞクミン! だからここらで一気に稼ぎつつ必要な素材を集めるのじゃ」
「稼ぎつつって言っても、ダンジョン作成には結構お金がかかるんじゃないですか?」
「うーん、そうじゃの。アンジェリカに見積もってもらったら5億じゃったか」
桁違いの金額にクミンが思わず吹き出してしまう。
「ご、5億⁉ 勇者を倒すためとはいえそんな金額どこから……いや、まさか……」
思わず大きな声を張り上げるクミンが、目をパチパチさせてなにかを訴えるオレガノを見て察する。
「い、嫌ですよ! うちは既に1億近い借金があるんです。さらに5億だなんて、無理に決まっています!」
「うわぁ〜ん! お金を借りるならクミンしかおらんのじゃぁ〜」
「なぁ〜にがぁ~巻き込みたくないだぁ〜! ガッツリ巻き込んで、後戻りできないくらいに絡まってるじゃないですか! まさかお金だけ借りさせるつもりだったんじゃないですよね!」
泣いて訴えるオレガノの頬を両手で押して、怒鳴るクミンをローリエが慌てて止めに入る。
「うぶぶぶぅ、怒らないでほしいのじゃ。皆を戦いには巻き込みたくないの本当じゃ!」
「でもお金はうちが借りないといけないんですよね?」
「うん」
「うん、じゃねえーです!」
丁寧だかそうでないのか判断しづらい言葉遣いのクミンを、彼女にしがみつくローリエが必死で止める。
クミンに両頬を押され鳥の口のように尖ってパクパクするオレガノだったが、不意に解放され勢いで体がのけ反ってしまう。
「とりあえず今はお金の話は置いておいて、オレガノ様がやろうとしている勇者撃破の詳しい説明を聞かせてください」
まだ興奮しているのであろう、ほんのりと頬の上に赤みが残ったクミンは片目でオレガノを見る。
少しやり過ぎたかと遠慮がありながらも、恥ずかしさが勝つクミンの鋭い視線を受けながらオレガノは自分の頬を押えながら座り直すと真剣な表情でクミンたちを見る。
いつもとは違う真剣なオレガノの表情と、勇者を倒すという話の流れからクミンたちは緊張した面持ちになる。そんな二人と一羽に向かってオレガノは小さく頷いて、ゆっくりと口を開く。
「どうにかしておびき寄せ、どうにかして倒すのじゃ」
発表された内容に理解が追いつかないクミンたちは、ポカンと口を開け呆然ときりりっとドヤ顔のオレガノを見つめる。ドヤ顔と呆れ顔が向き合い、しばしの沈黙を挟んだのち、クミンたちが一斉に口を開く。
「え? 5億使ってやろうとしていることがそれ? 札束で殴った方がよっぽどいいですよそれ」
「む、無茶苦茶です……。無計画にもほどがあります」
「あちゃ~ここまで酷いとはな。もうちょっと具体的な案を出せよ」
クミンたちの思ってもないかった辛辣な言葉に、オレガノはちょっぴり涙目になってしまう。




