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サフランを頭の上にのせたオレガノを先頭にしてクミンとローリエが続く。そんな三人と一羽を先導するちょっと小太りな男は、頭の中央にあるモヒカンを櫛で整える。
「ジンジャーさんから紹介されるまで、タラゴンさんがギャンブル好きだとは思っていませんでした」
「ギャンブル好きではなくて、賭け事を嗜んでるって言って欲しいんだなこれが」
「一緒だろう」そんな言葉を飲み込んでクミンは目の前にいるタラゴンを見る。つい先日出会ったときのぴちぴちのタンクトップ姿ではなく、上下共にスーツ姿である。ただしスーツの色が彼のメインカラーである黄色なのと、一回り小さいサイズを着ているせいで、けばけば・ぴちぴちなのを除けば正装姿といえばそうなのかもしれない。
タラゴンの趣味がよく分からないと思いながらもクミンは会話を続ける。
「メッサージュにはよく行くんですか?」
「おう、顔パスなくらいだ。おいらが来ると皆が笑って挨拶してくれるほどだぜ」
タラゴンが白い歯をキラリと光らせながら、自慢のモヒカンを撫でる。
(カモなんだ)
(カモにされてるんでしょうか)
(カモか……よえーんだな)
クミンたちが心の中でタラゴンの弱さを確信する中、オレガノが両手を上げて飛び跳ねる。
「タラゴン凄いのじゃ! 期待しておるのじゃ!」
「任せてください! 大船に乗ったつもりでドーンと頼ってくださいってもんです!!」
(泥船ですか)
(泥船ですね)
(泥船だ。間違いない)
クミンたちが泥船に乗った黄色いカモを想像する中、オレガノとタラゴンだけがはしゃいでいる。
そんな賑やかな一行は予約していた馬車に乗り込む。
「飛び込まないでください」
馬車に飛び乗ろうとジャンプしたオレガノを空中でキャッチしたクミンがそのまま馬車に乗り込んで、ローリエ、タラゴンと続く。ちなみにサフランはオレガノの頭に引っ付いていたので一緒に乗り込んでいる。
オレガノがふふ~んと鼻歌を歌いながら馬車から外を覗いている。隣にいるクミンと向かいのローリエは、そんなオレガノを見ながら他愛のない話を交わす。
「それにしてもこうして、馬車を借りて街道を安全に移動できるようになるなんて思いもしなかった。これも討伐した魔物の取引とか、ダンジョン経営が順調にいってるおかげね」
「そうですね、私もこんなに早く軌道に乗れるとは思ってもいませんでした。それも、オレガノ様とクミンさんがアンジェリカさんと準備してくれてたおかげです」
「うちは流されただけだけで準備とかしてはないんだけど。軌道には乗ったけど、どの道このままいくと借金は増えそうだけど」
ため息をつくクミンと苦笑いのローリエが、窓に張り付くオレガノを同時に見る。その視線を感じ取ったのかオレガノが振り返る。
「タラゴン、その服キラキラして綺麗じゃな!」
「おおっ! この良さが分かるとは流石オレガノ様ですぜ! オレガノ様の服もにあってますぜ」
嬉しそうに笑うタラゴンがオレガノが来ている藍色のワンピースを褒めると、オレガノはお腹の辺りにある背中のリボンに繋がる紐を引っ張る。
「余はこういう服をじゃなくて、もっと煌びやかでカッコいいのがいいのじゃ。マントもつけたいのじゃが、ローリエがワンピースにマントはやめましょうって言うのじゃ」
「分かりますぜ、キラキラした服はカッコいですからね。それにマントはロマンですぜ!」
「そーじゃ! そーじゃ!」
不服そうに言うオレガノにタラゴンが頷き賛同する。そんな息の合った二人をクミンが呆れた顔で、ローリエは困った顔で見ている。
「オレガノ様、お言葉ですが、オレガノ様の趣味は最悪です。服を選ぶのはオススメしません……いえ、選ぶことは許しません」
「うぐぅ! クミンは丁寧な物言いで、余に対する言葉に容赦がないのじゃ」
ショックを受けるオレガノに、鋭い視線を向けるクミンをローリエが宥める。そんな二人を飛び越えて、サフランがタラゴンの肩に着地する。
「おっかねえだろ? タラゴンもクミンには逆らうなよ」
「ああ、肝に銘じておくぜ」
こそっと言葉を交わすサフランとタラゴンに、クミンの鋭い視線が向けられる。慌てて視線を正し、下手な口笛を吹く二人を見てローリエが笑う。
賑やかな一行を乗せた馬車はメッサージュへとたどり着く。
***
オレガノたちが拠点とするカセロールから、北西に向かった砂の大地にそびえ立つ巨大な煙突が目印となるメッサージュ。巨大な煙突は地下にある工場から伸びたものであり、負けてお金を稼げなくなった者が働いてお金を稼がされる、なんて噂もある。
煙突を中心にして派手な城型の建物が並んで街道を作る。昼間でもネオンが煌びやかに瞬くそれは光と闇を交互に表しているようで人を魅了する。そんな町全体がギャンブルに特化したメッサージュはオレガノたちを華やかに迎えてくれる。
「あっちのメインストリートにはそれぞれカードゲーム、ルーレット、ダイスで遊べる店があるんですぜ。奥の北広場に行けば馬を走らせて着順を当てるゲームなんてものもあってですね、そっちもオススメですぜ。さらに西のエリアに行けばレストラン街やホテルが並んでますぜ」
タラゴンが興奮気味に説明する。ちなみにオレガノたちが馬車を降りると、迎えに来てくれたメッサージュの案内人がタラゴンを見て丁寧に挨拶されたことから、馬車での会話が嘘ではないことが証明された。
と同時に「タラゴンさん、うちの店に是非遊びに来て下さい。皆待っていますよ」と熱烈に誘われ、気をよくして調子に乗るタラゴンの姿に、泥船に乗った黄色のカモであることをクミンたちは確信する。
「とりあえずルールも単純で簡単に賭けれるダイスから行くとしましょうぜ。おいらの実力見てくださいってな!」
ウインクする、黄色のカモ……タラゴンに不安を感じつつクミンたちは、無邪気にはしゃぐオレガノを連れてメッサージュの町へと入る。




