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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
魔王家を買う

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5

 カセロールの商店街にある八百屋でトマトをジッと見つめるクミンの横でオレガノが渋い顔をしている。


「クミン、余はトマトソースは好きなのじゃぞ」


「はい、それは知っています」


「ちと聞きたいのじゃが、そのトマトはどうするつもりなのじゃ?」


 オレガノはトマトを持つクミンを見上げ真っ直ぐ見つめる。その顔はやや引きつっており、口は波打ち額には汗が伝っている。


「もしかして、生のトマトは嫌いとかですか?」


「い、いいや、そんなことはないのじゃ。余に好き嫌いなんてあるはずがないのじゃ。ただの、そのトマトがソースになりたいなーと呟いているのを聞いてしまったのじゃ」


「へぇーそれはすごいですね。このトマトはソースになりたいのですか。なるほど、なるほど」


 クミンの言葉を聞いてオレガノがホッとした表情を見せたあとニッコリと笑顔を見せると、クミンもニッコリ微笑んで応える。


「じゃ、サラダにしましょう」


「ひぃ~⁉ クミンは意地悪なのじゃぁ~!!」


 冷たく言い放つクミンのスカートにしがみつき騒ぐオレガノの頭にサフランが降り立つ。


「賑やかだなお前ら。カルダモンのおっさんからの伝言だ。外装は完成、内装も仕上げの段階だそうだ。完成させる前に全体を一度見て欲しいってよ」


「なんじゃと! やったのじゃ~! 早速いくのじゃ!!」


 飛んできたサフランの伝言を聞いたオレガノはトマトのことを忘れて、ぴょんぴょん飛び跳ね始める。なんとも子供らしい切り替えの早さに呆れながら、クミンはサラダ用のトマトを買ってオレガノと一緒に建設中のわが家へと向かう。


 ***


 フルーノ平原を抜け雑木林を抜けると、開けた場所が現れる。つい先日までは荒れ放題の土地と、クミンによって破壊された小屋があるだけだったが今は草は綺麗に刈られ家を作るための材料が積み上がっている。


 そして広場の中央には壊れた小屋の代わりに立派な家が一軒建ち、オレガノとクミンを迎えてくれる。


 外で柵を作ったり外構作業をしていたタラゴンが、オレガノたちに気がつきやって来る。


「おぉ、よく来たな。ちょっと待っててくれな、かしらを呼んでくる」


 タラゴンが家の中に入って行くのと入れ替わりにサフランとローリエがやってくるなり、家を見て感激の声を上げる。


「うわぁすごいです。四日前とは全然違いますね」


「本当、こんなすぐに作るなんてダンジョンを制作のプロは違うわ。そういえばローリエ、鶏肉は買えた?」


「ええ、ちゃんと買ってきましたよ。なんと胸肉ではなくもも肉です! しかもお安く買えたんです」


「さすが、頼りになるっ」


「ふふっ、頑張りましたから」


 言葉を交わし笑い合う二人のやり取りを、じっと見ていたオレガノが首を傾げる。


「なんか二人ともなんとなく違わないかえ?」


「女の友情ってやつじゃねえか」


 首を傾げたオレガノの頭にいたせいで一緒に傾くサフランが答えるとオレガノが手をポンと叩く。


「なるほどの、じゃあサフラン、余たちも男同士の友情を育むのじゃ!」


「いや、お前女だろ。仲良くなるのはいいけど、その時点で男同士の友情は育めないだろ……ってなに驚いてんだよ。まさか忘れてたわけじゃねえよな」


 目をまん丸にし、口を大きく開けたまま自分の体を見てあわあわと驚くオレガノにサフランが大きなため息をつく。


「待たせて悪かった、こっちだついて来てくれ」


 三人と一羽が賑やかに会話をしているところにカルダモンがやってきて声をかける。前にあった通り素肌に革ジャンスタイルだが、唯一違う首にかけているタオルで汗を拭いながら歯を見せニカッと笑う。


 仕事人の顔を見せるカルダモンを先頭に新居に入ると、新しい木の匂いにオレガノたちの鼻や目がそれぞれの反応を見せる。


「この短時間でここまで作り上げるとは流石なのじゃ」


「オレガノ様にお褒めいただき光栄だわい。ワシらはダンジョン作成をメインでやってるからこれくらいお手の物よ。それに久しぶりに家を作れて嬉しくて張り切ってしまっての、仕上げの許可さえもらえれば明日には完成するわい。ガハハハッ!」


「おおっ! 凄いのじゃ! ぬはははははっ」


 豪快に笑うカルダモンに負けじとオレガノも笑う。


「かしら、そろそろ間取りの確認をしましょうぜ」


「おう、そうだったわ、ガハハハッ」


「そうだったのじゃ、ぬはははははっ」


 奥からやってきたクローブに、声をかけられたカルダモンとなぜかオレガノも一緒に豪快に笑って案内が始まる。


 玄関を入るとすぐに広い廊下が迎えてくれ、進むと右側にシャワーや洗濯をする場所、トイレなどの水回り、左側には台所などの調理場がある。真っ直ぐ進むと一枚のドアが姿を現す。


 そのドアをポンポンとカルダモンが叩く。


「このリビングに繋がる扉はクミンの嬢ちゃんが壊した小屋の扉を加工して使っているんだぜ! 匠のさり気ない心遣いってやつだわい! その名も『未来への扉~失敗を恐れずに~』だ」


「なんてことをしてくれたのでしょう。人の失敗を新居に埋め込むとか、なんの嫌がらせですか。しかもわけ分からない名前つけるのやめてもらえませんか」


「人は失敗を乗り越えて大きくなるってもんだ。クミンの嬢ちゃんはワシみたいに大きくなれる素質がある! ワシが保証するわい!」


「保障されてもこまりますし、なによりもなりたくありません」


「恥ずかしがるなよい! クミンの姉ちゃんはでっかくなるぞ!」


「なりませんね」


 互いに自分の持つボールを相手にぶつけ合って会話のキャッチボールをする二人を横に、ローリエが真面目に家の間取りを確認する。


「ローリエ、ローリエ! これを見て欲しいのじゃ!」


『未来への扉~失敗を恐れずに~』を開けたオレガノが広いリビングに置いてある子供用の椅子に飛び乗って座ると、手元にあるボタンを押す。


 ぶはぁーっと下から白い煙が噴き出し、椅子の周りが白い霧でつつまれる。


「ふはぁー! すごいのじゃ! すごいのじゃ!」


「本当に凄いです! 白い霧に包まれて迫力が増して威厳が増してます!」


「ふはははっ! カッコいいのじゃ! きゃー!」


 嬉しそうに笑いキャーキャー騒ぎながら白い煙を噴射するオレガノを、ローリエが手を叩いて褒めちぎる。

 冷めた目で見るクミンが、カルダモンたちからリビングの周りの説明を受ける。


「「クミン、クミン!」」


 突然横からオレガノの声がしたクミンは、素早く臨戦態勢を取りながら横を振り向く。


「絵画?」


 クミンの視線の先には大きな木の枝に鳥がとまっている、絵がかかっているだけだった。


「「クミーン! 余の声が聞こえるかえ?」」


 絵の中の鳥の目が赤くピコンピコン光り、くちばしのあたりからオレガノの声が聞こえてくる。肝心のオレガノの姿は近くにはなく、声だけが聞こえてくることから離れた場所にいるのであろうことをクミンは悟る。


「「カルダモンたちが気を利かせてくれ、銅像だけでなく絵や、鳥の置物からも余の声が出るようにしてくれたのじゃ」」


「あ、はぁー。それはよかったですね」


「「ローリエもやってみるかえ?」」


「「え、ええ、はい。えっとこれに向かって喋ればいいんですか? うわぁなんだか緊張します。あ、あーあー、クミンさん聞こえますかー?」


「あーはいはい、聞こえてる、聞こえてる」


「「よかったです! 聞こえてるそうです!」」


 オレガノとローリエが笑い声とタッチをする音が絵画から響いてくるのを聞いて、クミンは額を抑え呆れた態度をとりつつも、その表情はどこか柔らかい。

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