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新居に自爆機能がつくことが決定したところで、各部屋の間取りを決める図面がクローブによって引かれる。
方眼用紙の上に描かれた線から始まり、四角や円などを様々な図形を生み出され、それらが重なり意味を持ち、家の図面へと姿を変えていく。
その様子を目を輝かせて見るオレガノは、魔力の集中が切れ、小さな尻尾が露わになりパタパタと揺れている。
揺れる尻尾をクミンは呆れた顔で見つつ、自身もクローブが描く図面に見入る。
「ざっとこんなもんでさ」
クローブが図面から手を離し、オレガノたちが見えるように寄せて広げる。
「ほう、これはすごいのじゃ」
「オレガノ様、これが分かるのですか?」
図面を見て感激の声を上げるオレガノを、クミンが少し驚いた表情で尋ねる。
「部屋がいっぱいあって凄いのじゃ!」
「あぁ……そんなことだろうと思いました」
額を押さえてため息をつくクミンをよそにオレガノは図面を指さす。
「これはなんなのじゃ?」
「それは、オレガノ様が所望していたどんでん返しを表す記号ですぜ」
「ほほう、これがくるりんと回るわけじゃな」
「そうです。くるりんと回りますぜ」
クローブと言葉を交わし満足そうに「にひひひ」と歯を見せ笑うオレガノは、その顔のままクミンを見て図面を指さす。
「クミン、これはくるっと回るのじゃぞ」
「へぇーすごーい」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
クローブの説明を復唱するオレガノに棒読みで答えるクミンだが、オレガノは満面の笑みで満足そうに何度も頷く。
そんなやり取りをかわすオレガノとクミンの横では、真剣にローリエが図面を見つめている。
黒い瞳に図面上の記号と数字を次々と映し終えると、視線をクローブに向ける。
「全体的な図面は大体把握できました。それで最終的な金額と、工期はどれくらいかかりそうですか?」
ローリエの「大体把握できた」この言葉にオレガノとクミンが驚き、まじまじとローリエを見てしまう。
「そうだな、長めに見積もって一週間。金額は先ほどの見積もりで出した600万だ。だが、オレガノ様と今後とも付き合いたいこと、ローリエ姉ちゃんの見やすい資料による気遣い、クミン姉ちゃんの刺激的な爆発を見せてくれたからよ550万にまけておくわい!」
「うわ~い! 太っ腹なのじゃ! すごいのじゃ!」
「ガハハハッ! これくらいのこと、ワシならなんてことないですわい!」
小躍りするオレガノと豪快に笑うカルダモン、そして値引きされて嬉しそうに喜びをかみ殺しているクミンを見たローリエは、なにもツッコむまいと図面に目を落とす。
「そう言えば、ここにあるダンジョンゲートの横に『鍵』と書いてありますけど、ゲートには扉があるんですか?」
ローリエが指さす家の地下にある円を見たカルダモンがニンマリと笑う。
「ゲートには扉はなくてただのアーチ状のオブジェがあるだけですわい。だがカギを持っているヤツが通ると自分の管理するダンジョンに直行できるって代物。それと、鍵にはもう一つ機能があってですの、一回だけ鍵自体を消費してダンジョンへ直行することができるんですわ。まあ、これは緊急時にダンジョンへ直行したいときの機能なので、普段は使うことはないと思いますがな」
カルダモンの説明を聞いて尻尾をフリフリするオレガノが手を挙げる。
「カギは何本あるのじゃ?」
「通常は四本となっとりますが、必要なら増やすこともできますわい」
「なるほど、それを聞いて安心したのじゃ。余の仲間には持ってほしいから一先ず四本あれば問題ないのじゃ」
満足そうなオレガノにカルダモンも同じく満足そうに笑うと、クミンへ視線を向ける。
「クミンの姉ちゃんよ。これで契約成立ってことでいいかい?」
「ええ、家を建てたら借金の総額が2,000万超えると覚悟していましたが、1,850万で押さえれたし問題ありません」
「思ったより安くてホッとしたのじゃ」
「ですね」
嬉しそうにオレガノと会話するクミンだが、ローリエは目を見開いたまま凝視している。
(クミンさん、金銭感覚がマヒしてる……1,850万は高いです)
「よーし、契約成立ってことだな。じゃあこちらに書類に拇印をお願いするぜ」
膝をパンと叩いたカルダモンが声を出すと、タラゴンが数枚の書類をテーブルの上に並べる。
「はい。あ、朱肉は自前のがあるので大丈夫です」
クミンは自前の朱肉を取り出すと右手の親指にインクをつけ書類に押していく。
(だからこの間朱肉を買ったんだ。自前の朱肉を持ち歩いてるって……どうなんだろ? 借金する気満々?)
心の中で呟くローリエの横にいたサフランが羽ばたくと、いつの間にか口にくわえていた丸まった紙をテーブルに広げる。
「クミンこっちが、ダンジョンの借金の中に今回の家の借金をまとめる書類だ。これで、本来なら家の金利は0.45パーセントだがダンジョンと合わせることで0.3パーセントに引き下げられる。さらに月々の支払い額はそのままなので安心だ」
「安心じゃ」
「ですね」
(本当に?)
サフランの説明を受け皆でニッコリする中、その様子をローリエだけ真顔で見つめている。
独り言が多くなってきたことに気がつかないローリエはまだ知らない、会計係りとなったことで今後苦労することを……。




