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「ガハハハハ! いやいや本当にいい爆発だったぜ! 才能の塊だ! 姉ちゃんがよければ『ダンジョン建設部隊』にいれてやってもいいぜ」
「丁寧にお断りさせていただきます」
豪快に笑いながらクミンを勧誘するカルダモンの背後では、クローブとタラゴンが「いい衝撃だったな」「素人とは思えない」などとクミンの起こした爆発を褒める言葉を並べる。
そしてなぜかカルダモン側にいるオレガノが一歩前にずいっと出て周囲の視線を集める。
「余はカルダモンたちと契約することを決めたのじゃ!」
「ちょっと待ってください。まだなにも話し合ってませんし、この方々は建設部隊とかいいつつ意味の分からない爆発しかさせてません」
オレガノの言葉にクミンが反対する。
「ガハハハッ、ちげえねえ、ちげえねえ! 姉ちゃんの言う通りワシらなんの作っておらんわ」
愉快そうに笑うカルダモンが自分の分厚い胸をドンと叩くと、右手を広げ空中に魔法陣を生み出す。魔法陣に触れるとカルダモンの手が光輝き始める。
そのまま壊れた小屋の前に立つと数枚の壁を軽々と持ち上げる。それだけでも驚きだが壁をまるで紙でも切るようにスッと切り裂き、折り紙でも折るかのように形を作っていく。四本の筒を丸く切り出した木材に取り付けると丸テーブルがあっという間にこの世に生まれる。
「立ち話もなんだ、建築の話し合いのためにも座ってから話すとしようか。さあ、できたぞ『テーブルセット~匠の愛を添えて~』の完成だ!」
派手な赤い爆発と共にカルダモンが自信満々に披露したのは、壊れた小屋から作られたとは思えない立派な丸テーブルに、クミンとローリエ用の椅子に、オレガノのための子供用の椅子。さらにはサフランの止まり木。
「すごいです! この椅子座りやすいのはもちろんですけど、肌触りもつるつるして気持ちいいです」
ローリエが椅子に座って感想を述べる横で、サフランが止まり木の感触を足で掴んで確かめ、オレガノが椅子に飛び乗りガタガタと揺らしながら移動する。
そんなオレガノの頭をむんずと掴んで、ちゃんと座るように注意したクミンも椅子に座る。
「確かにこれは貴族の屋敷にある椅子なんかよりも座り心地もいいですし、なによりも廃材から短時間で作られたと思えないほどの品質……」
クミンたちの反応にカルダモンたちは満足げに歯を見せて笑みを浮かべている。
「爆発とおかしな名前は気になりますが、腕の方は確かだと認めます。間取りと見積もりの話し合いを始めましょうか」
「話が早くて助かるわい」
クミンの言葉にニンマリと笑ったカルダモンが自分の作った椅子に座るとクミンたちと向き合う。
「それでは……ローリエ。任せました」
「のじゃ」
「は、はい。では、こちらがまず私たちの希望をまとめたものになりますが、これでどれくらいの金額になるか見積もりをお願いします」
クミンとオレガノに一任されたローリエが緊張気味に、家の間取りと収納や家具の希望をまとめた資料をカルダモンに手渡す。
受け取ったカルダモンは資料に目を通していく。一通り読み終えると後ろに立つクローブに手渡しタラゴンと二人が資料を読み始める。
「ここまで分かり易くまとめてもらえるとワシらとしてもやり易い。全て希望を叶えた場合の見積もりは600万ってとこだな」
「ろっ、600万……」
金額を聞いて青ざめるクミンの横でオレガノが身を乗り出して手を挙げる。
「全部含めてってことは、椅子の周りから白い霧を発生させたり本棚の本を動かしたら秘密の扉が現れたり、壁がどんでん返しになっていて裏に逃げれたり、鳥の銅像の目がピコンピコン光って離れた場所の仲間と会話出来たりする機能も含めてるのじゃな!」
「おう、もちろんですわい!」
カルダモンが歯を見せて笑顔を見せると、オレガノも歯を見せニッコリ笑う。
「おい、ちょっと待て」
ニッコリ笑顔のオレガノの頭をクミンが握る。笑顔のまま影を落とし顔を引きつらせるオレガノが首を軋ませながらクミンに顔を向ける。
「ひ、ひいっ⁉」
殺気に満ちた目でクミンに睨まれ思わず悲鳴を上げるオレガノは目に涙をためてしまう。
「なんなんですか、その無駄のオンパレードは」
「ひえぇっ、き、希望を出しただけなのじゃ。希望はただじゃから! の?」
「の? じゃないでしょ。金額を押えたいのに椅子の下から白い霧が出る? 秘密の扉にどんでん返しだぁ? 壁に貼り付けて永遠に回し続けてやりましょうか?」
「ふえっ、ごごごご、ごめんなさいなのじゃ」
涙目で謝るオレガノを見てため息をついたクミンは、次にローリエを見下ろす。殺気を向けられ思わずのけ反るローリエは椅子をぎゅっと握って身構える。
「ローリエ、あなたもなにをしているのです。会計係りとして無駄な出費は押えるようにお願いしたはずです」
「あわわわっ⁉ オ、オレガノ様の希望を叶えたくて、そのっ……入れちゃいました」
キッと眼力を強くして睨まれたローリエがしゅんと小さくなる。
「ごめんなさい」
謝るローリエに対しクミンがため息をついたところで、カルダモンが口を開く。
「まあまあ、そう怒りなさんなクミンの姉ちゃんよ。オレガノ様の希望するオプションの値段はたいしたことねえからよ」
カルダモンの言葉にクミンは大人しく自分の椅子に座り話を聞く態度をとる。
「家を建てるのに必要な材料費、技術費はこみこみで400万でできる。これはワシらの社長が材料費の一部を負担してくれているからこその金額だ。ここに土地の整備やら事務的費用が入り150万だ。つまり50万が希望の部分になる。その中で白い霧が発生する装置なんて5万程度でできる」
カルダモンの言い回しにクミンとオレガノが聞き入る。そんな二人を見たあとカルダモンは言葉を続ける。
「これをもし家を建てたあとに、やっぱりつけたいとなった場合、床をはいだりする手間が増え設置費は15万にもなる。ならば先につけた方がお得だと思わねえか?」
「た、確かに……オレガノ様ならあとから「やっぱり欲しかったのじゃー」とか言いかねません」
「だろ? あとからあれが欲しかったぁとか、ケチるんじゃなかったとか言う依頼主は多い。無くて困るよりもあって良かった! じゃわい! ワシは経験からそう思うがな」
揺らぐクミンにカルダモンは畳かけるように言葉を続ける。
「社長からダンジョンに繋がるゲートもオプションでつけるように言われている。目が光る銅像なんかはオマケでつける。外構は小さな畑とか作れるように整地して、あとはあれだ!」
カルダモンがポンと膝を叩く。
「自爆機能! コレを忘れちゃならねえ」
「おおおっ! カッコいいのじゃ! 自爆はロマンなのじゃ!」
自爆機能を進めるカルダモンに、オレガノが立ち上がってテンション高く声を上げる。
「じ、自爆!?」
「おっと安心してくれこれはタダだ! クミンの姉ちゃんがいい爆破を見せてくれたお礼ってことでサービスでつけておくぜ!」
「ま、まあタダならいいですかね」
「やったのじゃー!!」
「自爆」の言葉に驚いたはずのクミンは、カルダモンが放った「タダ」の言葉になぜか了承し、オレガノが喜びの声を上げる。
(ええっ⁉ 自爆? それが一番いらない気がするんだけども……。それにしても……)
自爆機能が家につくことが決まり、目をまん丸にして驚くローリエは、クミンに焦点を合わせる。
(クミンさんってしっかりしているようで、意外と騙されやすい気がする……。私がしっかりしなきゃ!)
ローリエは密かに、自分がしっかりしなければと決意するのである。




