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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
魔王家を買う

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1.ダンジョンまで徒歩3分

 森の中に建てた簡易テントの中に眠るオレガノの寝顔を見て、優しく微笑んだクミンは外に出ると近くの川で水をくむ。


 クミンが水の入った桶を手にもって帰ると、火を(おこ)しこして朝食の準備を始めているローリエの姿があった。


「もう少し寝ててもいいのに。夜遅くまで仕事していたのでしょう?」


「目が冴えてしまったんです。それに二人でやった方が早く終わりますから、私も一緒にやります」


「たしかに。それじゃあお願い」


「任せてください」


 言葉を交わした二人は笑い合うとテキパキと朝食の準備を始める。


「クミンさん」


「ん?」


 リンゴの皮をむくクミンの横で、片手鍋に沸かしたお湯にソーセージを入れたローリエが話しかける。


「クミンさんって私のお姉ちゃんに似ています」


「ローリエにお姉さんがいたとは初耳。でもうちに似てるって、それはお姉さんに失礼じゃない?」


 クミンが皮をむきながら答えるとローリエは首を横に振る。


「お姉ちゃんは私と違って強くて、魔王オレガノ軍に所属していました。いつももっと強くなりたいって努力してましたから、クミンさんみたいに強い人に似てるって言ったら喜んだと思います」


 クミンは手を止めてローリエを見つめる。


「そう……ならいいけど」


 それ以上言葉を続けずに鍋で茹でるソーセージを見つめるローリエから視線を外して、クミンは再びリンゴの皮をむき始める。


 しばらく沈黙の中二人の料理する音だけが響く。


「あの……」


「なんです?」


 先に口を開いたローリエにクミンは顔を向けずに返事する。


「クミンさんは、オレガノ様が魔王に戻って欲しいんですか?」


「唐突な質問……ですね」


 お互いそれぞれの作業に目を落としたまま会話を続ける。


「この間オレガノ様に尋ねていたことが気になっていたので。それにジンジャーさんとなにか話しました?」


 クミンがローリエに視線をやると、ローリエは真っ直ぐ見つめ返してくる。しばらく目を合わせていた二人だが、鍋が噴きこぼれてローリエが慌てて火から離してソーセージをすくいだす。


「別に隠し事とかしてるわけじゃないけど、黙っていたら不信感を持たれるのは当然か……」


 大きなため息と共にクミンはいつの間にか持っていたナイフを投げる。視認できないスピードで飛んだナイフは近くの木に突き刺さり、木を揺らすとポトリと丸い物体が落ちてくる。


「サフラン、盗み聞きとは感心しませんね」


 木から落ちたサフランが丸い体を勢いよく転がして立ち上がる。


「いてて、別に盗み聞きしてたわけじゃねえよ。たまたま木の上で寝ていたらクミンたちが話し始めたんだろ」


「なるほど、地上を足音を殺してこっそり歩く鳥が見えた気がしましたが、たまたまですか。まあ、そういうことにしておきましょうか?」


「うぐっ⁉ 悪かった……なにを話しているのか気になって……悪いとは思ったけどよ」


 体を小さくして謝るサフランを見てクミンは怒るわけでもなく目を細めて笑う。


「うちから借金を回収するのが仕事なので、監視するのは仕方ないですから責めはしません。ただ、別に逃げることはしませんから、普通に近くにいてくれて構いません。どうしても外してほしいときは言いますから」


 クミンの言葉にサフランは目を丸くしたあと、フッと笑う。


「オレガノだけじゃなくてクミンも変わってんな。借金の回収屋なんて嫌われてなんぼなのによ。仲間みたく扱われたのは初めてだぜ」


「うちの主があんななのですから、仕方ありません」


 クミンの言葉に納得したようにサフランとローリエがフッと笑う。


「話が逸れましたがローリエの質問に答えますと、うちはオレガノ様に魔王には戻ってほしくありません」


 想像していた答えとは違ったのか、ローリエたちは目を見開き驚いた表情になる。


「だから尋ねたのです。魔王になることを求められたらどうするつもりなのかを。結果、魔王をやるつもりだと言われてしまいましたが」


 そう言って笑ってみせたクミンは言葉を続ける。


「北の魔王ノルデンが勇者一行によって陥落寸前だとのことです」


「寸前ですか? 魔王ノルデンは勇者一行に抗っているということですか?」


 驚きの表情を見せるローリエの質問にクミンは首を横に振る。


「いいえ、勇者たちは獲物をなぶり殺すようにじわじわと攻めているようです。うちたちのときは趣向を変えてきたといったところでしょう。そのことをジンジャーさんから聞き、いつかオレガノ様が必要とされる日がくるかもしれないと言われたんです」


 そこまで話したクミンはオレガノが眠るテントの方を見る。


「今のオレガノ様はかつての強さはなくただの小さな女の子です。魔王だったときどのような生活をしていたか詳しくは知りませんが、今の姿で耐えられないはずです。だけども……」


 視線をテントに向けたままクミンは話を続ける。


「一緒に過ごして戦闘的力はなくとも周囲を引きつける……上手く表現できませんが上に立つ者が持つ魅力みたいなのを感じるんです。いつか、魔族たちが困ったとき立ち上がりそうな気がするんです……まあそんな日は来ないのかもしれませんが」


 テントを見つめていたクミンがフッと笑うと、ローリエとサフランを見る。


「小さな主が起きたようです。これからどうなるかは分かりませんが、今は朝食を急いで作らなければいけないのは確かです」


 いつも見せる笑みと違って、優しさを含んだ笑みを見せたクミンはテントから目を擦りながら出て来たオレガノを迎えに行く。

 その背中を見ていたローリエとサフランだが、お互い目を合わせると頷きオレガノのために朝食作りを再開する。

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