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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
小さく売って大きく儲けたい

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7

 カセロールの北側にある門をくぐり抜け進むとフルーノ平原と呼ばれる、小さな平原があり、フルーノ平原に沿って小高い丘が存在し雑木林が広がる。


 ジンジャーからもらった地図を頼りに進むオレガノたちは、迷うことなく目的地へとたどり着く。


「思っていたよりも町に近いです。これならアクセスもしやすいですね」


 ローリエが雑木林の中にある小さな小屋を見て呟く。


「草は刈れば問題ありませんが、小屋はかなり朽ちていますね。やはり建て替えが必要となるわけですか……」


 クミンが状況を口にしている途中で言葉を止める。それは借金が増えることを意味するからに他ならない。

 自分よりも背丈の高い草に果敢に挑むオレガノに近づいたクミンが両手を差し出すと、オレガノは意図を理解して嬉しそうに跳ねながらやって来る。

 そのまま両手を挙げたオレガノをクミンがかかえ、草の向こうにある小屋が見えるように抱く。


「おぉ~見えるのじゃ! ふむ、あの小屋か確かに四人で済むにはちと小さいのじゃ」


「四人ってのは俺も入っているのか」


「当たり前なのじゃ」


 オレガノの頭にとまったサフランの問いに、目だけを上に向けたオレガノが即答する。答えを聞いて少しだけ居心地の悪そうだけども、嬉しそうな雰囲気をまとったサフランは毛づくろいを始める。


 サフランの行動を見たあとすぐに少し離れた小屋を見つめるオレガノをクミンはジッと見つめる。


 何度か口を開こうとしては、逆にぎゅっと閉じてはいたが意を決してクミンは口を開く。


「オレガノ様、もしもですが魔王であることを再び求められたら……そんな日がきたらどうしますか?」


「余が魔王に?」


 クミンの突然の質問に驚きの表情を見せるオレガノだが、それは内容ではなく突然声をかけられたことによるもの。その証拠に内容を理解すると迷うことなく口を開く。


「そうじゃの、また魔王をやるのじゃ。昔も皆からなってくれとお願いされてなったのじゃからな」


「……でも、それは強く皆を導いていたからこそ。今のオレガノ様は弱くて泣き虫で、世話がかかるただの子供じゃないですか」


「酷い言われようなのじゃ。だけども必要とされるのなら余はやると思うのじゃ。それで皆が喜んでくれるなら、なおさらなのじゃ」


 屈託のない笑みで言うオレガノを見てクミンは優しく笑う。


「そうですか、分かりました」


 短く答えるクミンに対しオレガノは深くは追及せず前を向くと草むらを指さす。


「クミン、余はもっと近くで小屋を見たいのじゃ。草を刈って道を切り開いて欲しいのじゃ」


「ほんと、世話のかかるお子様です」


 口では悪態をつくが表情は柔らかいクミンがナイフを投げると、柄に付いた糸を引き自分を中心に回転させる。クミンたちの前方の草が刈られ道ができていく。


 進む三人と一羽はたどり着いた小屋の前に立つと、先頭に立っているクミンがドアノブを握りゆっくりと引く。


 バキッ!!


「あれ?」


 折れるような音がしたかと思うと、ドアノブを握ったままドアを抱えたクミンが首を捻る。


「ク、クミンさん壊すのはまずいんじゃ……」


「いや、うちはただ普通にこうして」


 ローリエに言われ、やや焦り気味のクミンがドアを元の位置に戻そうとはめた瞬間、内部からミシミシ、バキッ! バキッ! っと嫌な音が連続で響きギギギギギィと悲鳴にも聞こえる音と共に小屋がパタンと倒れる。


「え、えぇぇぇぇ⁉」


 ドアだけ手に持ったクミンが叫ぶ。


「えっ、ちょっとなんで小屋が倒れるんですか。おかしいでしょ普通に!!」


「クミン馬鹿力だからじゃの」


「馬鹿力とかいう問題じゃないでしょ! 家壊すくらいの力なんて日頃から使っていたら生活なんてできないですうー! ってその目はなんですかローリエ! うちをガサツなヤツだと思っている目ですね、そうでしょ!」


「ふえ⁉ いえいえいえ、そんなこと思ってません!」 


 八つ当たり気味に巻き込まれたローリエが、必死に首を横に振って否定するその頭の上にサフランが着地する。


「どうでもいいけどよ、これどうするんだ?」


 ペタンと倒れた小屋を翼でさしたサフランの言葉でクミンたちは我に返る。


「どうするって……引っ張ったらもとに戻るのでしょうか?」


「いや、無理だろ」


「いっそのことクミンさんが燃やしてなにもなかったことに……」


「ローリエ、意外に過激なのじゃな」


 三人と一羽の言葉が一通り交差したところでオレガノがポンと手を叩く。


「余はこういうときどうすればいいのか知っておるのじゃ」


 皆の視線とクミンの期待の眼差しを一身に受けるオレガノは「ふふん」と自慢気に胸を張って小さな人さし指をピッと立てる。


「ごめんなさい、するのじゃ」


 ***


「それでわざわざここに帰ってきたのですか」


 武器屋にてジンジャーの前で頭を下げるクミンをはじめとした三人と一羽。


「なんとも律儀な方ですね。とても極悪魔王と呼ばれていたとは思えない行動。それになぜサフランも一緒に謝っているのでしょうか」


「俺も一緒にいたからな。責任はある」


 サフランの目をじっと見つめたジンジャーがフッと笑う。


「そうですか。でも私に謝ったって仕方ありませんよ。持ち主である社長に謝るべきでしょう」


 ジンジャーの言葉にハッとしたクミンがサフランを見ると、サフランは大きく頷きしばらくなにかと話す素振りを見せたあと、目から光を放ち四角いモニターを空中に映し出す。


「「あらら、みんなお揃いなのね。サフランから話したいことがあると聞いたんだけどなにかしら?」」


 モニターに映ったアンジェリカがオレガノたちを一周見て微笑む。その微笑みに対し気まずそうなクミンが一歩前に出る。


「実は……」


「アンジェリカ、すまんのじゃ。ジンジャーを通して、アンジェリカから紹介してもらった小屋を見にいったら余たちが壊してしまったのじゃ」


 クミンが喋る前にオレガノが謝罪を口にする。驚くクミンを横目にオレガノは言葉を続ける。


「そこでじゃ、小屋の弁償をとも思ったが、どうせなら余はあそこに住処を作ろうと思うのじゃ。だからあの土地を売って欲しいのじゃ」


 オレガノの真っ直ぐな目をジッと見返すアンジェリカがフッと笑う。


「「たしかにあの小屋は朽ちてはいたけど壊れるのは予想外ね。土地を買ってくれるのは嬉しい提案だけども……そうね、危険な小屋を紹介した私にも落ち度があるわ。新し家を作るための人材と材料の手配と料金は私の方が持つし、売値、建設費用も安くしておくわ」」


「迷惑かけた上にそのような気遣いまでしてもらい、すまないのじゃ」


「「気にしなくていいわよ。私の方にも非があるわけだし。詳細は追ってサフランを通じて知らせるわ。それじゃあね」」


「うむ、頼むのじゃ」


 オレガノとやり取りを終えたアンジェリカは、いつものように手をひらひらさせて通話を終え消えていく。

 満足気な顔で振り向くオレガノをクミンが鋭い目つきで見つめる。


「壊したのはうちですよ。なぜオレガノ様が謝るのですか」


「はじめに余が行きたいと言ったからじゃ。それにクミンがドアを開けたのは、余たちに危険が及ばないように、先行してくれた結果だからじゃからの。おかげで皆怪我無く帰れたのじゃ」


 オレガノの言葉を聞くクミンの鋭かった目が和らぐ。


「余のためにやってくれたことに対して責任を押し付けるほど、余は非道な魔族じゃないのじゃ」


「オレガノ様……」


 少しだけ目を潤ませるクミンにオレガノが満面の笑みで応える。そんな二人を見守るローリエはクミンよりも目を潤ませ、サフランはわざとらしく毛づくろいをはじめ、ジンジャーは何度も頷いている。


「ということでクミン、家を建てるからお金の工面はよろしくなのじゃ」


「は?」


 満面の笑みで言うオレガノに対しクミンは笑顔から一転、額に青筋を立て目を鋭くする。


「わ、私、見積もりの計算します! サフランさん、おおよその見積もりって出せますか?」


「おっおう。任せとけ!」


「さて、私は在庫の調査の続きがありましたね。あー忙しい」


 怒れるクミンに危険を察知したローリエたちは、蜘蛛の子を散らすように去って行く。


「うちにまた借金しろって言うんですかぁ! えぇ?」


「ふあがぁ~、余はちっこいから借金できないのじゃあからぁ、クミンしか頼るものがいないのじゃぁ~」


 オレガノの頬をムニッと押すクミンと、それに対抗するオレガノの賑やかなやり取りが、しばらくの間交わされることになる。

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