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ローリエが大事そうに持った帳簿を開くと、挟んであった紙を取り出す。
「ここに書いたものが、魔物と動物の肉や部位の買い取り価格をザッとですがまとめたものとなります」
ローリエが広げて見せた紙には、各店舗の買い取り不可品と価格がメモされていた。
「こうして見ると魔物一匹を討伐し解体、各部位を適切な場所に売ってしまえばなんとか生活できそうではありますね。それでも個人の冒険者が存在しないのは不思議に感じます」
「クミンさんほど戦闘力が高ければ魔物討伐は苦ではないかもしれませんけど、一般の冒険者はそうはいきません。チームを組んで討伐に挑み、ある程度の数を稼ぐ必要があります。そう考えれば、安定した報酬を貰えるギルドの存在は大きいのだと思います」
ローリエの答えにクミンとオレガノが何度も頷き納得する。
「どーせギルドには登録できないんだ。うまいこと立ち回って稼ごうぜ」
「いいこと言うのじゃサフラン! 余もそれが言いたかったのじゃ!」
「おっ、分かるかオレガノ! さすがだ!」
サフランがオレガノの頭で翼をバサバサさせながら声を上げると、それにオレガノが乗っかってくる。そのまま二人で意気投合して、楽しそうに飛び跳ねるオレガノに合わせサフランが羽ばたく。
そんな一人と一羽を横目にクミンとローリエは、各店舗から聞いた買い取り価格とジンジャーの買い取りリストを見比べ、なにを狩りに行けば効率的なのかを話し合う。
***
「ローリエと話し合った結果、オオイタチを狩ることにしました。カセロールの南側に広がるカセの森は魔物が豊富にいるらしいので、オオイタチを探して狩るのには困らないはずです」
「オオイタチの尻尾が防具のファーに使えること、今の時期お肉が筋肉質で美味しく安定した需要が見込めそうです。また特殊な需要として剥製が作りたいと一件の依頼があったので今回の対象としました。ちなみにですが、奥の方にギルド管理区域があるので気をつける必要があります」
カセの森の入り口に立つクミンの説明にローリエが補足すると、クミンは満足そうに頷きオレガノの頭の上にいるサフランを見る。
「オオイタチは木の上にいることが多いそうです。そこでサフラン、うちが罠を張るのと、オオイタチを見つけるのを手伝ってくれませんか」
「あ? 言っとくが俺はクミンの監視役だぞ。なんで手伝わなきゃいけないんだ」
「うちからお金を回収するのが役目なら、ちゃんと稼げるように手伝った方が取り損ねることがなくなると思いますが」
「ぐっ、それはそうだが……俺の業務の範囲を超えている。勝手にやるのは……ん?」
話している途中で言葉を切ったサフランが、右の翼を上げ自分の頭を押えると丸い目が光り、宙に四角い光の壁が現れ、そこにアンジェリカの姿が映し出される。
「「久しぶりね。ローリエにこうして姿を見せるのは初めてね。私はアンジェリカ、よろしくね」」
手を広げてひらひらさせ挨拶するアンジェリカにローリエがお辞儀をして挨拶する。
「「サフラン、クミンたちを手伝ってあげていいわよ。線引きが分かりづらいっていうなら想定される行動の一覧を送ってあげるけど、基本は現場判断に任せるわ」」
「だけどもよ社長、今までそんなことしたことないぞ」
目が光ったままのサフランが声を上げると、四角い光に映ったアンジェリカが笑う。
「「サフランと仲良くしたいみたいだし、ここまでの行動を見てもオレガノたちなら大丈夫でしょ。長い付き合いになるでしょうから、通常業務さえこなしてくれればいいわ。それじゃあ私は用事があるのでこの辺で、バイバーイ」」
手を振って笑うアンジェリカの姿が四角い光と共に消える。
「言っとくが社長は業務には厳しい。ここまで自由にさせてくれるのはオレガノを信頼しているからに他ならない。お前社長になにをした?」
普通の目に戻ったサフランがオレガノを見る。
「ほえ? 余? なんかしたじゃろか?」
「なにをしたか、どころかアンジェリカのこと自体覚えていなかったですよね」
「う、うむ……視察にいったのは一回だけじゃったしの。会ったのかもしれんが、覚えておらんのじゃ」
腕を組んで首を捻るオレガノをクミンが冷めた目で見る。
「ま、まあ過去を振り返っても仕方ないのじゃ。前を向いて歩くのじゃ」
人さし指を天に向けて自信満々に言って、あからさまに誤魔化しかかるオレガノの後ろではローリエが拍手をしている。
「まったく、それよりもアンジェリカの許可もでたことですし、サフランよろしくお願いします」
「おうよ。監視業務以外ってあんまりやったことないから期待はするなよ」
「飛べるってだけで心強いですから問題ありませんよ」
短いやり取りをしたクミンとサフランを筆頭にカセの森へと入っていく。
***
地面を歩くには問題はなくとも、上にいけば広がった枝葉が覆い茂り移動するのは困難となる。そんな中を小さな体を生かし高速で飛ぶサフランは、体が石でできていることを感じさせない軽やかさを見せる。
そんなサフランを追うのは成人男性ほどの大きさの獣。大きな尻尾でバランスを取り、足にある鋭いかぎ状の爪を木に引っかけ音もなく移動するのは、今回の獲物であるオオイタチである。
飛び回るサフランを捕えようと木の幹を蹴り飛び掛かったそのとき、見えない何かにぶつかり空中でのけ反ってしまう。次の瞬間、空中に立つクミンがオオイタチを見下ろす。
なにもない空間を走るクミン、正確にはサフランの協力を得て木々の間に張った鉄の糸の上を移動しているクミンはすれ違い様に、手に持った細長い針のよう刀身を持ついわゆる小型のレイピアをオオイタチの首筋に突き立てオオイタチを絶命させる。
そのまま地上へと降りたクミンは糸を引っ張り、空中にいるオオイタチを下ろす。
「上手くいきましたね。ローリエ、もう一匹くらい増やしたいですけどいけますか?」
「あ、はい。もう一匹くらいなら運べると思います」
ローリエの返事を聞いて満足そうに頷いたクミンは、肩にとまったサフランのくちばしを撫でる。
「もう一回お願いします」
「おうよ、任せろ」
そう言って飛び立つサフランの顔はどこか楽しそうだった。




